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不二一元論
今日のイベントで作った即興のお話の記録です
『』→あづき 「」→お客さん
『どんなお話がいい、とかご希望ありますか?』
「自分は20年以上瞑想を続けていて、そうして出会った不二一元論、という考え方を大事にしているので、そんなテーマでもいいですか?」
不二一元論、初めて聞きました。お話を詳しく聞くと、善と悪、高い低いのような二元論ではない一元の世界のお話のようでした。
そんな導入から始まったお話です。
あるところに、白いカエルがおりました。まわりのカエルはみんな緑色なのに、そのカエルだけは真っ白でした。
その白いカエルはあるお寺の池に住んでいて、和尚さんに大層気に入られていました。
『お寺、どのあたりかな......山梨県あたりにしときましょうか?』
「いや、青森でお願いします」
青森にあるそのお寺は、恐山のような有名な地域とはほど遠く、辺鄙な場所にありました。
自然に囲まれたそのお寺は、春には桜が咲き、秋には紅葉が色づき、冬の枯れ木は美しい。静かなお寺でした。
平安から続くそのお寺に、その白いカエルがいつからいたのかはわかりません。ただ、大切にされていました。
ある日、和尚が朝早くに参道の掃き掃除をしていると、お寺の入り口の方から2人組が近づいてきました。
(このうちの1人は、実際に会話しているお客さんでした、仮にYさんとしておきます)
『Yさんが、ある方を連れてこのお寺にやってきたようですね。このある方は、どんな方だと思いますか?』
「はい、頭の中にその人は思い浮かべていますが、口には出さないでおきます」
(お話作りでそのように相手に言われたのは初めてでした。その後の話の中で、「ある人」の属性が特定されてしまうような言葉(彼/彼女 呼びなど)は避けるようにしました)
和尚「こんにちわ。どうされましたか?」
2人組「青森に旅行に来たんですが、特に目的地も決めずに歩いていたら、素敵な階段があるなぁ、と思って上がってみたら、辿り着きました」
和尚「そうでしたか。こんな朝早くにありがとうございます。さぁ、寒いので中へお入りください」
季節は冬でした。
案内されたお堂の中は、朝焼けの光がほのかに漂っていました。緑の座布団にYさん、紫の座布団にお連れの方(仮にAさんとしておきましょう)が座られました。
このあたりは人が来ることも少なくてねぇ、なんて世間話をしていると、Aさんがお堂をキョロキョロと見回しています。
Aさん「わたし、ここに来たことがあるかもしれない」
Yさん「え?でも青森に来るの初めてだったよね?」
Aさん「うん、そうなんだけど、なんだか見覚えがあるような気がする」
和尚「あぁ、もしかしたらそれは、前世であったりとか、お母さんの胎内にいたときとかの記憶が、今蘇ってきているところなのかもしれませんね。そういったことは時たま起こるのですよ」
和尚「そうだ、ぜひおふたりにお見せしたいものがあるのですよ。うちの池に、白いカエルがおりましてね......良かったらご覧になってください」
和尚の勧めで、3人は池の方へと向かいました。
すると不思議なことに、いつも灯籠の近くにいるはずの白いカエルがおりません。それどころか、緑色のカエルたちもおりません。鯉たちだけがゆっくりと泳いでいます。
和尚「あれ、おかしいですね。いつもならいるはずなのですが......」
『どうしますか?』
「ここで待ちます」
池のほとりで静かに待っていると、ぽろぽろと淡い雪が降ってきました。
すると、どこからともなく音楽が聴こえてきました。
(現実の近くで子どもたちが楽器を鳴らしていました)
(弦の音 笛の音 琴の音) 〜♪
池の方を見やると、奥の岩陰から緑色のカエルが列になってゆっくりと現れました。カエルたちは池の中で渦を描くように並んでいきました。
そしてその列の1番後ろ、最後に出てきたのは、あの白いカエルでした。
Aさん「あっ!白いカエルだ!」
Aさんが声をあげました。
和尚「あぁ良かった。出てきてくれた」
Aさん「なんだろう、わたし、あの白いカエルに触ってみたいです」
和尚「えっ、わたしでも触ったことがない、というより触ろうと思ったことがないのですが......」
Aさん「なんだか大丈夫な気がします」
Aさんは裸足になり、冷たい池の中にゆっくりと入っていきました。
ゆっくりと、少しずつ、カエルの作る渦の中へAさんは進んでいきます。
そして、ついに白いカエルのところまで辿り着き、両手で掬うように、白いカエルを手に取りました。
すると、あっという間に、Aさんは白いカエルに一飲みにされてしまいました。一瞬のことでした。
和尚とYさんが声を上げる間もないまま、白いカエルはAさんを飲み込み、どんどん身体を大きくしていきました。
気づけば、白いカエルは池を覆い尽くすくらいの大きさになっていました。
『どうしますか?』
「見守ります」
和尚とYさんはそのカエルを見守りました。
よく見ると、大きくなった白いカエルの手のひらに、赤い斑点があるのに気がつきました。
和尚「あれ、あんな斑点があっただろうか」
その赤い斑点は徐々に浮き上がり始め、ひとつ、ふたつとシャボン玉のように空へと浮かんでいきました。
空から降る白い雪と、カエルの手のひらから浮かび上がる赤いシャボン玉。その2つは決して混じり合うことなく天と地へすれ違っていきます。
とてもとても美しい光景でした。
綺麗だなぁ.....
綺麗だなぁ.....
綺麗だなぁ.....
ハッ!と気がつくと、Yさんはお堂にいました。
和尚「だいぶお疲れのようですね」
どうやらYさんは居眠りをしてしまっていたようです。ですが、隣にいたはずのAさんの姿が見当たりません。
Yさん「あぁ、居心地が良くてうっかり眠ってしまいました。ところでAさんはどちらに行かれましたか?」
すると、和尚は言いました。
「Aさん?あなたは最初からおひとりでこのお寺にいらしていましたよ」
Yさん「そんなはずはありません。わたしがAさんをここに連れてきたのですから」
和尚「そうですか。旅でお疲れなのでしょう。疲れが取れるまで、ゆっくりここで休んでいってくださいね」
というお話でした。
現実で対面してるお客さんは最初から最後までずっと目を閉じて聴いてくださっていたので、もしかしたらその姿がそのまま物語の中に入ってしまったのかもしれないです。