PとJK[三次 マキ]【16巻完結】おとなのためのマンガレビュー
ガッツリ、ストーリーを楽しみたいときに。自分と向き合いたいときに。子育て中の人に!
ライトなラブコメを求めて読んだ人のちょい厳しめ感想をいくつか見かけたので、「ラブコメだと思って読まない方が楽しめるよ!」とお伝えしたい。
タイトル:PとJK
著者:三次 マキ(みよし まき)
出版:講談社 別冊フレンド
既刊:16巻完結(2020年4月現在)
装丁:黒木 香 ベイブリッジスタジオ
タイトルや表紙の感じはラブコメっぽいのですが、個人的には、「このマンガはヒューマンドラマだ!」と思ってます。
23歳の警察官である功太と16歳の女子高生のカコが結婚してから成長していく様を、ときにキュン、ときに重苦しい気持ちになりながら見守る、青春群像劇とでも言いましょうか…。
●読もうか迷っている人へ
ライトな恋愛ものを期待すると、読み進むにつれて違和感が大きくなって行くはず。
出会ってから結婚するまでは、制服フェチの人も共感できるラブコメ。でも、1巻末には結婚を決めちゃいますからね。1巻当時のレビューを見ると、「展開が早い!」って感想がめちゃくちゃ多い。
でも、今思うと展開が早かったというより、1巻まではプロローグに過ぎなかったんだなと。本題は2巻以降に始まる、功太も含めての青春群像劇なんじゃないかと。っていうか、むしろ社会派マンガって言って良いくらい、扱っているテーマは深いし重い。子育て中の大人におすすめしたい。
でも、絵は可愛いし、カコたちのおバカなやり取りがあるので、テーマに反してめちゃくちゃ読みやすいです。
●このマンガのここが好き♡
作家さんの覚悟みたいなものが伝わってくるところ。キャラのダメな部分も含めて、しっかり描いてあるところ。
途中、作家さんの出産で長期休載期間があるんですよね。でも、その後から深みが増したというか。描きたいものが少し変わったのかなという印象。
以下、めちゃめちゃ長いうえに結構ネタバレするので、ネタバレ避けたいときは飛ばしていただき、「読むときは、ここに注意!」までお進みください。
へーちゃんと唯ちゃんという兄妹が揃って以降、9巻あたりから徐々に、どんだけ重いんだってくらい重い話になるんですが、そこからが好きです。
ガタイが良くて頭も良い高校生のへーちゃんは、広いお風呂が怖い。これは主要エピソードではなく、浴槽につかまっていないとお風呂に入れないシーンが出てくる程度。でも、お風呂が怖い理由を考えると、へーちゃんがどんな虐待を受けてきたのか想像できます。
功太の父を殺した犯人の風貌が、前半の回想シーンと後半の再会シーンでずれがない。これ、初出時にもう犯人の人物像が固まっていたってことだと思います。犯人は極端に小柄なんですが、遺伝的なものだけじゃなくて幼少時のネグレクトとかの影響を示唆しているんだろうなと。
15巻では、功太が犯人を許せない本当の理由を告白するんですが、「ああ、確かにな…」と。
この告白をリアルと感じる人もいれば、リアルじゃないと感じる人もいると思います。ただ、個人的には凄く生々しく感じて、「こういう想いを10代の子どもに抱かせないためには、大人がちゃんとしなくちゃいけないよな」とめちゃくちゃ考えさせられました。
それをあと1巻でどう気持ちの収拾をつけるんだろう…と思っていたら、16巻で見事に。
カコを助けに行けなかったことを謝ったへーちゃんに功太がかける一言は、功太自身を前に向かせた感じがします。あの一言がなければ、犯人と向き合うことはできなかったんじゃないかな。
そして、功太の消えない罪悪感もまた、父の墓前でするりと溶ける。いや、自分は子どもがこけただけじゃそこまで思わないけど、功太の気持ちは凄く良く表現されていて、「なるほど、そう来たかー!」と思いました。
亡くなった人に対する問いかけって本当に終わりがないし、正解がない。だから、自分が納得いくまで自分自身や自分の人生と向き合うしかなくて、これが功太にとっての答えだったんだなと、結婚式以上に「おめでとう!」という気持ちになりました。
と、後半はえらい重い話続きですが、絵柄と登場人物の軽やかな会話、そしてちょこちょこ出てくる、のほほんラブエピソードに救われます。さらに、重苦しい中で最大の希望を感じさせてくれるのが、両親に大切に育てられた主人公のカコと、カコとは正反対の唯ちゃん。
自分が共感を覚えるのは唯ちゃんのセリフが圧倒的に多いんですが、どん底に突き落とされた人を引っ張り上げる強さって、やっぱりどん底じゃないところで育ったカコのような人が持ってたりする。どん底の人にとってカコは、無神経でムカつく存在でもあるけれど、そういう人がいるっていうことが希望にもなる。
そして唯ちゃんの、「自分がされてきたことを自分のせいにしない、ちゃんと相手の否を相手に求められる」強さも、希望です。これは、彼女の生育歴を考えると、なかなかできることじゃない。でも、相手と自分を分けられないと自分の人生が生きられないから、めっちゃ必要。そのロールモデルが描かれているから、凄く安心します。実際にこうなるのは凄く難しいだろうけれど、大きな希望。
そして、カコの無知は罪でもあるけれど、「子どものときは知らなくて良いことを知らなくて済む」こともまた希望だし、その人が「自分は経験していなくても、ちゃんとそういうことがあると知っている大人になる」ことは、もっと大きな希望だなと思います。
カコという無知な子どもが、相手の事情を汲める大人になって行く過程を描いているので、無知と純真からくる言葉にダメージを食らうこともあるし、そのカコへの容赦ない反論もダメージ食らいます。そこは決して甘やかな気分にはなれない。
でも、だから、『PとJK』が好き、です。
この作品が、これから大人になる読者がいっぱいいるであろう『別冊フレンド』に掲載されていたことを、「日本の文化すげえ」と、誇りたい。
●愛蔵版が出るときは、ここを変えて欲しい…
好きが行き過ぎての勝手な要望です。
へーちゃんは、登場して間もなく「前科がつく」という設定。当初は警察官を目指す予定ではなかったのかなと思いますが、「前科持ちが警察官」ってなかなか厳しそうなので、前科者にしない方が爽やかな気持ちで読めるかも!
●読むときは、ここに注意!
ライトな恋愛ものと思って読むとダメージ食らいます。でも、変に構えてももったいないので、遊園地に行くときくらいのアクティブさで臨んでください。
後半になるにつれ話が複雑になって行くので、登場人物の気持ちを思い返しつつ、数日で読み切るくらいの時間的余裕があるときに、まとめ読みをおすすめします。
●こんな気分のときにどうぞ
そこそこ元気なとき。人間ドラマを見たいとき。「キレイごとばっか、言ってんじゃねーよ」と世間様に吐き捨てつつ、本当はキレイごとを信じているとき。
●おすすめしないケース
精神的に落ちているときには、おすすめしません。
あと、功太は過去の素行が結構酷いです。自分だったら、友達としては好きになれるだろうけど、人の顔面を踏みつける人とは結婚したくないw
なので、爽やかヒーロー好きの人にも、あまりおすすめできません。へーちゃんとか、ジローちゃんとか、爽やかな要素もありますけど。
●電子で読む場合
コマ割も電子書籍で読みやすい配置なので、ストレスなく読めます。※横ヨミで検証
●このマンガが好きな人はきっとこれも好き
なんとなく、なんですが。『ホリミヤ[HERO/萩原ダイスケ]』が好きな人は好きなんじゃないだろうか。ほんと、なんとなく。
あと、女子高生と7歳上のパートナーがともに成長しながら、人間関係を構築して行くところは、『たいようのいえ[タアモ]』にも通じます。
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