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ふつうの恋子ちゃん[ななじ 眺]【14巻完結】おとなのためのマンガレビュー

ピュアだけど生々しい「きゃー!」を追体験したいときに。

タイトル:ふつうの恋子ちゃん
著者:ななじ 眺(ななじ ながむ)
出版:集英社 マーガレットコミックス
既刊:14巻完結(2020年2月現在)
装丁:大槻 幸子

ちょっと普通じゃないくらい「ふつう」にこだわる主人公の恋子(こいこ)と、学年一のモテ男、剣(つるぎ)の Boy meets girl な、これぞ王道少女マンガ。

もうこれ、「少女マンガ界の純文学認定でしょ」ってくらい、少女マンガのお作法が美しく詰まってる。っていうか、昇華されてる。あらすじだけ見て「よくある話か~」とスルーしてた人は、もったいないかも(いや、それ、ちょっと前の自分)。


●読もうか迷っている人へ

とりあえず、1巻。それが無理なら試し読みで少し、でも。読んでみてください。第1話の恋子と剣の出会いのシーン。剣の登場から枯葉を払うまで。ここに匠の技を感じたら、セット買いして良いんじゃないでしょうか。

●このマンガのここが好き♡

いろいろ経験豊富な作家さんだから成せる技が詰まってます。豪華な幕の内弁当みたいな感じ。

まずキャラ設定がちゃんとしてるー! 14巻まであるのに、登場人物の言動が矛盾しない! 成長もしているし変化もしているんだけど、そのうえで「そうそう、恋子はここでそうなるよね」って反応をしてくれる。そこを絶対に裏切らない。手の繋ぎ方ひとつにもキャラの心情が投影されている。なんて、細やかな仕事かな。

これを実現するためには、物凄い気力と体力が必要だと思われます。地味に辛い作業。顔、身長、ワードローブ、口癖、よくある表情、こんなときはこう返す…みたいなものを考え抜くって、人ひとり育てるようなもの。主要登場人物類だけで7人いるので、7人子育てしたのかと思うと、感服です。

そして、絵がキレイ。主人公の家族など様々な年齢の人物がしっかり描き分けられているばかりか、剣の3年前の顔はバッチリ確かに3年前。なにこの安定の画力! とあらためて、匠の技にびっくりです。

そしてそして、人物の気持ちの描写が本当に丁寧。1コマ1コマに意味を感じます。コマ割も読みやすいけど動きあり。飽きません。個人的なイチオシは、恋子と剣が同じことを考えて「あー!!」となるシーン(複数巻にて複数回あり)で、左右対称のコマを使ってそれぞれ恋子と剣が描かれるところ。少女マンガのときめき倍増です。

現役マーガレット読者は、その年代でこんな素敵なマンガに出会えるって凄いな! 「気づかないうちにMARNIの子供服着てたわ」並みに凄いな!

●読むときは、ここに注意!

さーっと流し読むよりも、じっくり味わいながら繰り返し読む方が、このマンガの良さを堪能できます。落ち着いて読む時間や環境を確保してから、ぜひ!

●こんな気分のときにどうぞ

安心して、王道を味わいたいときに。ショートケーキが食べたい。カレーが食べたい。ビールが飲みたい。ただし、丁寧に作られた美味しいものに限る。みたいな気分のときに。

●おすすめしないケース

恋子のいじっぱりな感じが可愛いのですが、そんな恋子の言動を「卑屈」と感じる人もいるかもしれません。恋子のスタンスはほぼ最終巻までブレないので、1巻で恋子が可愛いと思えなければ、おすすめしません。また、マンガに余韻を求めない人にとっては、展開が遅いと感じるかも。

●電子で読む場合

表紙以外の見開きがなく、コマ割も電子書籍で読みやすい配置なので、自然に感情移入しながら読めます。※横ヨミで検証

●このマンガが好きな人はきっとこれも好き

やはり王道の『君に届け[椎名 軽穂]』がお好きな人はお好きなのではないかと。でも、爽子がピュアホワイトだったのに対して、恋子はグレーです。そこが、このマンガの良いところなんですが。
登場人物が素直じゃない感じやリアルな気持ちの描写は、『好きっていいなよ。[葉月 かなえ]』に通じるところがあるかも。『私たちには壁がある。[築島 治]』が好きな人も、お好きなんじゃないかと思います。



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