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マンガMee人気作家の漫画の作り方を大公開!『ドアを開けたら××でした!』マトマ先生インタビュー

マンガMee公式noteでは、デビューを目指すみなさんへ、面白い漫画作りのヒントになる情報を発信中。マンガMeeで活躍する人気作家さんに、漫画家志望者なら気になる漫画作りのアレコレを教えてもらうインタビューを公開しています。

今回は、現在マンガMeeで絶賛連載中の『ドアを開けたら××でした!』(以下:『ドアバツ』)の作者・マトマ先生をお迎えし、作品の裏側とマトマ先生ならではの漫画の作り方をご紹介します。不思議なドアが北海道と東京を繋ぎ、正反対な2人が出会う新感覚のボーイミーツガール作品『ドアバツ』は、いったいどのように作り上げられていったのでしょうか。


「ごめんね」も「ありがとう」も「好きだよ」も直接言うことに意味がある

——マトマ先生初めまして!よろしくお願いいたします。現在連載中の『ドアバツ』は、ラブコメの中でも、まるで「どこでもドア」のような仕掛けがあったり、ラブハプニングがあったりと、ユニークなテイストで、楽しく拝読しています!どのようにして、この作品を作り上げることになったのですか?

マトマ先生(以下:マトマ) 私は、元々漫画を描くのが好きな普通の会社員の女で、普段から趣味で描いた漫画をSNSにあげていました。2022年の夏頃、それを読んでくださったマンガMeeの編集さんが、LOVEのこもったDMを送ってくれて。それが、『ドアバツ』を描くきっかけであり、担当さんとの出会いでした。

担当さんとご挨拶の打ち合わせをした後、ネームを送ってほしいと言われ、

  1.  王道恋愛もの

  2. テンションの高い、変わったラブコメ

の2つの企画を出して、2.で進めることに。それが『ドアバツ』の原型です。

そこから3話分のネームを出して、同年の9月には連載が確定。約1年半ほどの連載準備期間を経て、2024年の2月に連載がスタートしました。企画の確定はすごく早かったです。漫画になにか惹かれるものがあれば、新人でもチャンスを与えてくれる編集さんが揃っているんだろうなと思いました。

——2つの方向性で企画を出されたんですね。編集部に企画を出す際に、どんな企画を出せばいいか悩んでいる方も多いと思うのですが、マトマさんが意識していることはありますか?

マトマ 以前、他社で担当さんがついた時、レーベルの求めるものや、担当さんの好みに配慮せず、マジで摩訶不思議なネームを出して恥ずかしい気持ちになったことがありました。それからは、自分の描きたいものと同時に、レーベルの調査や、担当さんの求めるものをあらかじめ聞いて、「そのレーベルの読者さん」が楽しめる企画を出すよう意識しています。

今回の場合だと、担当さんが「別冊マーガレット」にずっといたと聞いたので、ファンタジー要素がないほうが担当さんの好みかなという意図で①を出しつつ、担当さんがかなりユニークな方だったこともあり、振り切って②も提出してみました。求めている作風がわかりやすい担当さんだったので、すごく助かった記憶があります。

また、自分の漫画のなにが読者さんにとっての面白ポイントで、どこが他の漫画と差別化できているのかは、自分なりにしっかり決めておくと良いと思います。『ドアバツ』はゆづと藤代ふじしろの可愛いイチャイチャと、藤代の逆ラッキースケベちょっとエッチが読者さんにとってのおもしろご褒美ポイントで、他の漫画との差別化は「ドア」の魔法による展開だと思って作っています。

ただ、差別化はいわば「ツカミの強さ」なので、他にないものや、突飛なものだから良いというわけではないと思っていて。私は設定のアイデアを考えることが割と得意なのでそれを武器にしましたが、イケメンを描くことに自信のある方は男のつらの良さを武器にしてもいいし、癖強なキャラ作りが上手な方はそれでも良いと思います。たくさんの漫画に溢れてる世の中で、なにか目を引くポイントがあると良いですよね…!

ちなみに私は、キャラの作画は苦手な部分があります。(絵的に)よく骨折したような角度に関節がなってしまうことがあるので、3D人形を使用するなどして、なるべく人体を「人体」にしようと切磋琢磨中です。あとファッション。気を抜くと全員ユニクロになるので、担当さんが資料にオシャレ雑誌をくれました。オシャレすぎて逆に難しいなと思いつつ勉強しています。

——「ドアを開けたら違う場所に繋がっている」というのは、この作品のユニークなポイントですよね。「藤代が脱いでいるところに繋がっちゃう」「キスしたら元の場所に帰れる」と、「どこでもドア」のような仕掛けに少女漫画らしいキュンとした内容が詰まっていると思うのですが、この設定はどのように考えられたのですか?

マトマ 小学生の頃、2次元の推しキャラを愛するがあまり、なんとか次元を飛び越えて出くわすパターンを100パターン妄想して作っていたんですね。その一つに、実は「ドアを開けたらお風呂場」というラブハプニングがあって。自分にとっては親の顔より見た妄想なので、新鮮味のない設定だと思っていたんです(笑)。でも、その部分を担当さんが面白いって言ってくださったので、メインのポイントとしました。

©︎マトマ/集英社

自分は、エロやキスシーンを描くのは苦手なのですが、それよりもとにかくマンガMeeの読者さんが毎話ドキドキして楽しめる漫画にしたかったので、「ちょっとエッチなハプニングやキスシーンを満載にするぞ!」と意気込んで考えたのを覚えています。

また、この作品を立ち上げた当時がコロナ禍終盤で、人との出会いに制限がなくなってきた頃だったので、読み終わった後に「会いたい人に、今からでも直接会いに行こう」と後押しできる漫画が描きたいという気持ちもありました。というのも、私は仕事で地元を離れて、他県に一人暮らしをしていたので、コロナの時期は帰省を控えており、家族や地元の友人たちと全く会えない生活をしていたんです。皆の大体の近況はスマホ越しに見たり聞いたりしていて、「便利な世の中でよかったなぁ」と思いつつ、instagramや LINEを眺めていても、大事な人の心境に見抜けない部分もあって、当時はそのことにモヤモヤしたりしていました。

メールや電話は便利だし、どこでもドアだって便利だけど、「ごめんね」も「ありがとう」も「好きだよ」も直接言うことに意味があって。ドキドキなラブハプニングの中で、会いに行くことの大切さを主人公のゆづを通して描きたいと思っています。

——『ドアバツ』立ち上げにあたって、参考にされた作品はありましたか?

マトマ 漫画Meeのオリジナル作品は勉強もかねてほぼ読みました!推し作品ばっかりです!あとは『時をかける少女』『千と千尋の神隠し』。少女が少し不思議な経験を経て成長していく物語が好きで、この2作品は自分の中でレジェンドです。とても影響を受けています。

——「少女が少し不思議な経験を経て成長していく物語」は、まさにゆづですね!ゆづは地味でパッとしない女の子。藤代はかっこよくてモテる男の子。正反対だけれど、2人とも不器用で、そこが愛しいキャラだと感じています。メインキャラの2人はどのように作り上げていかれたのでしょうか?

マトマ 割と主要キャラは、出会ってきた人間の中で「凄いなぁ」と思ったところを取り入れがちで。ゆづのモデルはまんまではないですが一部友人です。その友人はお淑やかな見た目にもかかわらず、東京から大阪までチャリで来たりするんです(笑)。そういう破天荒な行動力があるところや、会いに行くって大変なことなのにそれを苦と思わずやってしまえる器のデカさ(しかもチャリ)をすごく尊敬していて、ゆづに詰め込みました。

©︎マトマ/集英社

藤代は実在のモデルはおらず、ゆづといい感じに凸凹になる、しっかり者のツンデレ過保護男になりました。

©︎マトマ/集英社


——サブキャラの水島や、ギャル2人組も、初めはハラハラしたのですが、実は心優しいキャラたちで、気になる面々です。サブキャラを考える際に、意識していることはどんなことでしょうか?

マトマ 主要キャラ2人は、なるべく読者さんに満遍なく好かれてほしいと考えているのですが、サブキャラはコアな読者さんには刺さるくらいでいいと思ってるので、めちゃくちゃ自分のへきを入れています。3人を見てわかるように、性格も賛否両論ある感じです。

例えば理央(水島)なら、私はヴィラン系で誰かに救われるタイプの男性がへきなんですね。『HUNTER×HUNTER』だと幻影旅団が好きですし、『NARUTO -ナルト-』だと暁が好きですし、『鬼滅の刃』だと十二鬼月が好きなので、もっぱら悪役を慕いがちなところがあります。理央は友達がいない上に、世界と洋(藤代)を天秤にかけたら秒で洋をとりそう。そんな、皆が恋をして憧れる少女漫画のヒーローにはなれないような性格なんですけれど、そういうところが私のへきにきます。理央のことはおまけで描いた『ワンアンドオンリー』にもだいたい詰め込みました。

©︎マトマ/集英社

あと、私はスターシステムが好きなんです。なので、たまに前作を読んでくださっている人が「あっ」ってなるような遊びのつもりで、他の作品に似たキャラクターをサブとして出しています。今作で言うと、『ドアバツ』に出てくるギャル2人と、KADOKAWAさんで描いた『寿命をゆずる友だちの話。』の主人公2人はあえて寄せて描きました。

©︎マトマ/集英社


——連載準備で大変だったことはありますか?

マトマ 4話のネーム作りですね。1〜3話はササっと決まったにもかかわらず、4話は7回くらい修正しました。藤代視点でいくか、ゆづ視点にするかを担当さんとめちゃくちゃ揉めた覚えがあります。結果、藤代視点になったのですが、4話は幻のゆづ視点のネームもあります。

なんで揉めたかというと、"藤代視点も取り入れて、気持ちがわかった上で『ドア』の魔法ですれ違う二人を読者に楽しませたい私"と、"ゆづ視点固定で、ヒーローの内面は分からないままヒロインの恋心を読者に楽しませたい担当さん"との試行錯誤の戦いでした。大前提、戦略の練り方による差なのでどちらの視点で描いても間違いではないのですが。でも、そもそも少女漫画はヒロイン視点が基本で、相手の気持ちがわからないことをハードルとしてヒキに使っていくことが面白味になるジャンルで、そういうことを楽しみにしている読者さんが多いので、正しさでいうと担当さんの提案の方が絶正しいと思っています。ただ、結果的にドアバツは藤代の視点があっても良いと思ってもらえたのか、藤代視点のネームが選ばれましたが、この一件でヒロイン視点の大事さを理解して、気をつけるようにしてます。

そんな風に4話はすごく大変だったので、思い入れも深く…。ぜひ読者さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。ちなみに、私の個人的お気に入り回は11話『好きの気持ち』です!

——「視点」から見る少女漫画の楽しみ方のお話、面白いです…!それでは、今連載を続けていく中で、大変なことや悩んでいることはありますか?

マトマ 今、大変なことといえば……、やっぱりネームです。私はネームで筆が止まることが多いので、止まるたびに最初は神に祈ってましたが(笑)。最近は「①担当さんに相談」「②小説を読んでインプット」「③チョコレート」でなんとかやってます。

『ドアバツ』はネーム作成にあたって、担当さんとの打ち合わせで事前に次に描く回の出だしとヒキを決めて、大まかなプロットを最初に考えています。そして、細かな流れやセリフは、毎話キャラの動きに任せて作っているのですが……思いつかない状態に陥ることも多々あるんです。ネーム作りは好きなことには、好きなのですが。私にとって週連載で一番しんどいことは、高熱の時の作画よりも断然、そういう状態の時にネームを締切までに捻り出さなきゃならないことですね。

もしネームに苦手意識がある方や、週連載のペースに不慣れな方は、設計図として細かめにプロットを作って連載に挑むのをおすすめします…。別にプロット通りにしなくてもいいので。そして困った時は担当さんに相談しましょう。締切がやばくて、一刻を迫るなら特に大事です。

②の「小説を読んでインプット」は、自分はネームを作る時に、頭の中にある映画館で映像を流して作るイメージなので、小説で文字を読んで、頭の中で光景や動作を映像にしていく作業が、ネームの準備運動に役立っています。そして、私はチョコレートが大好物なので、ある時とない時で全然違います。みなさん、大好物を食べましょう。

また、原稿に関係なく「漫画家さんってこういう時どうしてるの!?」という、担当さんも分からないような悩み事に遭遇した時のために、漫画家さん同士の横のつながりを広げておくのも大事だと思います。アシスタントで漫画家さんとの繋がりを持ったり、SNSで漫画家コミュニティに入らせてもらったりして、自分はかなり心強かったです。私がまだもっぱら意識の低いド新人だった時なんかは、原稿のバックアップのやり方を教えてもらったりしていましたよ。商業作家さんにとっては当たり前のことなのですが…(笑)。最初はUSBでバックアップをとっていたのみだったのを、話を聞いて、Dropboxなどの課金型のクラウドサービスと、外付けHDDのダブル保存をするようになりました。その後すぐパソコンがぶっ壊れたので、聞いといてよかった……とその時は思いました(笑)。

「SNSのアイコン」にしたくなる縦スク漫画

——『ドアバツ』は縦スクロール作品(以下:縦スク)ですよね!SNSにあげていらっしゃる作品も縦スクが多いと思うのですが、やってみようと思ったきっかけはありますか?

マトマ 今はどこの投稿サイトにも載ってないのですが、昔は横漫画も趣味で描いてました。しかしある時、筆が止まってしまって。最初は気分転換のつもりで4コマ漫画や縦スク漫画を描いてみたのが、自分が縦スクを始めたきっかけです。

4コマも縦スクも描いてみるとどっちも新鮮味があって、楽しくて。「やっぱり漫画描くのサイコーーー」ってなりました。特に縦スクは新しい分野なのでコマ割りなどの正解がそんなになく、表現の幅が自由なので、そこが楽しくて描くのにハマりました!初めて漫画を描くって人にはめちゃくちゃおすすめです!縦スクロール!

——日本の縦スクだと、ファンタジーや不倫モノなどが多いイメージがあるので、ラブコメは珍しいなと思いました。ラブコメを縦スクで描かれるにあたって、オススメの点はありますか?

マトマ たしかにWEBTOONと言われて連想するのって、まずキラキラしたファンタジーや復讐ドロドロものが主流ですよね。昔「縦スクを描くならトレーディングカードみたいなきらびやかな絵じゃないと無理だよ」って言われたこともありました。

でも私は「トレーディングカード」じゃなくて「SNSのアイコン」にしたくなる縦スク漫画をずっと目指しています。というのも昔、知らない方が自分の絵をSNSのアイコンにしているのを発見して、めちゃくちゃびっくりしたことがありまして。純粋に「私の絵柄って、SNSのアイコンにしたいって思う絵なんだな…」と感じて、それって強みだなと(絵のアイコン使用、私はいいんですけれど、別の方の作品の無断利用はあかんですよ…!念のため…!)。「きらびやか」じゃなくて、思わずSNSのアイコンにしたいと思えるような『かわいさ』を表現したくて、今は個人で縦スクを描いていますね〜!『ドアバツ』作中にデフォルメキャラを多くしたのもそれが理由で、塗りとかもできるだけ可愛いくみえるようにキュートな色合いで塗るよう工夫したりなど…。

©︎マトマ/集英社

縦スク漫画の個人制作ってまだ人口がそんなに多くないので、考え方は本当に人それぞれです!それが面白い!私は可愛い絵柄の人ほど、縦スクが絶対向いていると思うので、ぜひ描いて欲しいと思っています!!!!!

——おっしゃっているように、『ドアバツ』はスタジオ形式ではなく、個人でマトマさんが描いていらっしゃるんですよね!どのようなスケジュール感で原稿製作を進められているのでしょうか?

マトマ 自分はまだまだ未熟者故、ネームにも作画にもかなり時間がかかっています。なので、寝るか、漫画を描くか、みたいなスケジュールです。アシスタントさんに着色や写植のお手伝いに入って頂いて、なんとかやっています。漫画を描くことは、ずっと続けられますし、そしてそれが苦じゃないので。愛…ですね(?)。

フルタイムで会社員をしながら漫画家デビュー。今が人生で1番漫画家を目指しています

——元々、他のお仕事をフルタイムでされながら、デビューされたと伺いました。デビュー前は、日々どのように漫画に向き合っていらしたのでしょうか?

マトマ 学生の頃から「食」の分野が好きで学んできたので、当時は食品メーカーで商品開発の仕事をしていました。漫画や小説を書くことがなにより好きではあったのですが、絵に自信がなかったことと、母子家庭で親にはたくさんの苦労をかけてきたので、できる限り安定のある道で親孝行がしたかったんです。なので、会社員の道を選びました。

仕事は月ピーー時間を超える残業をしたり、上司の指が血だらけになったり、パワハラにあったり、精神的にボロボロになったりもしましたが、その時もずっと創作はやめなかったです。漫画家になりたいから……ではなく、自分にとって漫画や小説を書くことは生き甲斐だったので、働きながらでも、仕事終わりや休日に毎日コツコツ、物語の続きを描いていました。初めて趣味で、オリジナルの100ページ漫画本を制作した時は心が震えましたね…!この時も漫画家の道は考えてもいなかったので、持ち込みは全く頭になかったです。自分のためだけに最小部数で印刷して、眺めて、仲の良いフォロワーさんたちが購入してくれて。ただそれだけが本当に楽しくて、嬉しくて、仕方なかったです。そういう活動をずっと続けてきて、SNSやメールからスカウトをしていただいたところから、私が出している商業の作品は全て始まっています。

それに、漫画家という職業に憧れはありましたが、ただ好きだから描き続けているだけで、自分が漫画家を目指すなんて烏滸おこがましいという気持ちのほうが大きかったんです。でも、そんな私が漫画家を目指そうと思ったのは、マンガMeeの編集さんがスカウトしてくださったからです。それまで漫画を描くことをリアルでは秘密にしていて、ネットでも片隅で細々とやっていました。ただ自分のためだけに描いていたので、多くの人に需要はないと思っていたものが、生まれて初めて、他者に自分の描くものを仕事で求められたので、それに応えたいと思ったんです。

今、自分は漫画家になりましたが、今が人生で1番漫画家を目指しています。変な日本語になりましたが、私の漫画を好きになってくれた読者さんが、好きな漫画家さんを聞かれた時に、自信を持って私の名前を言ってもらえるように、日々精進したい気持ちです。

——デビューされたあとも、企画の構想に、ネームに、打ち合わせに……とやることがたくさんあったと思います。そして、それを会社員と並行されていたと…!ご多忙だったと思うのですが、どのようにこなされていましたか?

マトマ 現在はスケジュール的に漫画家を専業としましたが、連載準備段階の半年は会社員と並行していました。マンガMeeさん以外の編集部さんからのご依頼もあったので、2社同時の連載準備に、フルタイムの会社勤務に……と、実際すごく忙しかったです。

当時、鬼残業やパワハラを乗り越え、ようやくやりたかったスイーツの仕事を任せてもらえるようになってきたところだったんです。物凄くやりがいを感じていたので、できれば仕事は辞めたくないと考えていました。なので平日は仕事終わりに連載準備の作業をして、3時間睡眠で仕事に行き、土日も作業をしていました。

ただ、だんだん職場で、今まではニコニコで仕事ができてたのに、眉間に皺が寄るようになってしまって。チームの仲間にもイライラしてしまうなど、とにかく心に余裕がなくなってきたところで、このままだとどこかで大きなミスをしたり、職場の誰かにきつく当たってしまって、今まで会社で築いてきた信頼関係もなくしてしまったりするかもしれないと思いました。

この時、もっと周囲に相談すれば別の解決口があったかもしれないのですが、「両立が無理なら、3年後に隕石が落ちるとして今やりたいことはなにか」と考えてみたら、漫画を思い切り描きたいなと思いました。兼業で上手くやれている人もいるから、多分生きるのがめちゃくちゃ器用な人から見たら「馬鹿だなぁ」と思われるかもしれないし、実際、後悔を全くしていないかというと嘘になります。先は不安ばっかりなので。

それでも、他社の作品では紙書籍を出してもらったので、店頭で自分の本を見られたことや、連載をしてファンレターをもらったことは、私にとってこの選択をしなかったら得られなかった人生の宝物です。なので、まだまだがむしゃらに行こうと思っています。当時背中を押してくれた家族や友人たちにも、とても感謝をしています。

——今、当時のマトマさんのように、他の仕事と漫画とのバランスに悩んでいる方に向けて、働きながら連載を目指すという点でアドバイスがあれば教えてください。

マトマ 今、もし仕事と漫画で悩んでる方がいるなら、とにかくたくさんの人に相談してください。私は当時「こんなことを相談したら、連載を取りやめにされるんじゃないか」と思って、担当さんにあまり突っ込んだ相談ができませんでした。今思うと、マンガMeeの編集さんなら大丈夫です。ちゃんと相談しましょう。あと、少し前にもお話ししましたが、なるべく漫画家の知り合いを作って、漫画家の先輩にも相談しましょう。いろんな経験談が聞けるはずです。なんなら私でもオッケーです。SNSからDM飛ばしてください。

個人的には連載が確定していないのであれば、収入源と脳への刺激のために、仕事はなるべく続けるべきだと思います。もし決まっているのが短期連載ならば、1年間あれば働きながらでも描き溜めができるかもしれないので、すぐに会社を辞めなくても大丈夫だと思います。そんなに思い入れのない仕事で、ブラック企業だったり、辞めることにデメリットがなかったりするのならば「好きなことやっちまえ〜!」とも思いますけどね…!

そして編集部にもよると思いますが、連載が決まっても準備期間に原稿料は入りません。基本的には掲載時に入る仕組みなので。
(※マンガMeeでは準備期間の原稿料先払いも相談可能です!ぜひお気軽に!)

そのため、仕事を辞めると準備期間の間は無収入です。私はこの期間が1年くらいあって、貯金が100万円以上飛びました。実家暮らしや生活スタイルによって支出は変わってくると思うので、連載が決まっても半年〜1年間は準備期間があることを想定して、出費を計算し、貯金ともよく話し合いをしましょう。なにを取っても自分の人生を疎かにしないでください。自分のために生きてなんぼですからね。

 ——最後にみなさんにメッセージをお願いします!

マトマ こんな長い文章を、ここまで読んでくださっている方は、私含め漫画を描くことが大好きで、この世の誰かに自分の描く物語を届けたい、漫画への情熱に溢れた人間ばかりでしょう。結局なにを選んだって、選ばなかったほうの未来は分からないんですから、どれを選んでも嬉しいことも悲しいことも悔しいこともある。その覚悟だけをして、たくさん相談して、悩んで、決断したことにがむしゃらに突き進んでほしいと思います。

その「好き」の思いがあれば、絶対に目指すほうへ行けると思います。お互い漫画を楽しみながら頑張りましょう!

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関連リンク

『ドアを開けたら××でした!』はマンガMeeからお楽しみください▼

マンガMee公式noteでは、マンガMeeで活躍する作家さんに漫画の作り方を聞くインタビューを公開中。

第一弾:みっしぇる先生/『誰か夢だと言ってくれ』

第二弾:セモトちか先生/『シンジュウエンド』

第三弾:葉夕シオリ先生/『メンヘラうさぎはヤンデレ狼に溺愛される』

第四弾:みずや実莉先生/『冷たいベッドの上で。』

取材、記事:戸田帆南

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