育休を取ったお父さん達が作った同人誌『迷ったら読みたい 育休はじめてガイド』が素敵でした
今日はこちらの本について。
『迷ったら読みたい 育休はじめてガイド』とは?
現役のプロダクトマネージャー・伊美裕麻(@13imi)さんと、エンジニアの土屋貴裕(@corocn)さん。2019年に長期の男性育休を取得した2人の男性が作成した同人誌(自費出版誌)です。全64ページ。
同人誌(自費出版)なので購入先は以下となります。
・ 紙 + 電子版のセット 1200円 → BOOTH にて注文(通販)
・電子版 500円 → note(下の記事)or 技術書典 応援祭
目次や試し読みは上のnote記事にありますが、一部引用すると、
内容は4章構成で
・第1章: 日本の育休制度の概要を知る
・第2章: 給付金について理解する
・第3章: 海外の育休制度を知り、日本の制度の手厚さを客観的に把握する
・第4章: 育休経験者から得られた知見のまとめ
といった感じです。
後述しますが、同人誌だしと軽い気持ちで購入したら、仕事でも使える出来の良い本でした。育休に関わる人(取得する本人だけでなく、人事、経理、総務、管理職者など)は手元に置くと安心ですし、育休を取得予定の社員に貸しても良さそうです。
初めてTwitterで告知を見た時は「おおお!買う買う!」「これの為に技術書展8行こうかしら…?」と思うくらいでしたが、コロナの影響で残念ながら中止となったので「BOOTH」にて紙+電子版を購入しました。
はじめに:私の育休はこうだった
私にも産休・育休取得の経験があります。2011年夏に妊娠が分かり、2012年の3月から産休に入り、2013年3月まで育休を取得することとなりました。
所属企業は創業7年、社員数6名の小さな会社で、私が初めての育休取得者でした。更に人事・経理担当者も私1人だったので、すべて自分で調べて対応しました。
妊娠した当時は「産前産後休暇(=産休)」と「育児休暇」の違いも把握しておらず、「出産一時金」といった制度の存在も知りませんでした。結婚し、子どもが欲しいと3年妊活してたのに、妊娠後のことは調べてなかったという…。
『育休はじめてガイド』を読み進めながら、1冊読めば理解出来る、良い本が出たな~!と嬉しくなりました。
目次と内容
全4章で、最初の1-2章で制度について理解し、3章「海外の育休事情」で他の国の育休制度を知ることで日本の育休制度の良さを学び、4章「育休実践編」で、育休を取得した著者の体験談やアドバイスを読む感じでした。
育児休業を取るうえで、「休める期間」と「休んでいる間にもらえるお金」の2つは、特に気になる部分だと思いますが、第1章と第2章を読めば理解出来ると思います。文字だけでなく図も多めで、読みやすいです。
育休を取得した人達が作っているせいか、痒い所に手が届いている感があります。
休暇中にもらえるお金(給付金)についてはネットで調べることも出来ますが、意外と盲点なのが「支給のタイミング」です。私は事前に調べておらず、書類を出したのに中々入金されず、焦った記憶が。貯金があったので生活への影響はありませんでしたが、「あれ?まさか書類不備?」などとハラハラしました。
育児休業給付金シミュレーター!
給付金がもらえることがが分かると、実額が知りたくなります。そこで利用するのが数字を入れたら計算できるサイト(シミュレータ)ですが、著者が自作してるのには驚きました。流石エンジニア…。
私は本をきっかけにイミーさんが作ったシミュレータを見ましたが、結果を画像で保存出来たり、LINEやTwitterでシェア出来たりと、機能面の充実っぷりに驚かされました。意識しなくても、情報をシェアすることで妊娠中から夫婦で一緒に子育てを考えることが出来るのが素敵。ワンオペ育児の予防にも繋がりそうです。
第3章 海外の育休事情
第3章は海外の事例です。待遇が良いと評判の北欧(ノルウェー、フィンランド)の話はよく聞きますが、アメリカ、中国、韓国の情報まであって、面白かったです。
実は世界一待遇が良い、日本の男性向け育休
ちょっと話が横に逸れますが。
著者が指摘しているように、フリーランスや個人事業主の待遇が悪いですが、ユニセフが発表したレポートでも、日本の育休制度は評価されています。世界一と言って良いほど、好待遇なのです。
手厚い制度であるにも関わらず、男性の育休の取得率は低いです。それでも近年、少しづつですが取得率が上がっています。
赤いグラフは女性、ずっと下のグレイのグラフが男性の育休取得率です。
調査開始から横ばいが続いて来ましたが、平成28年(2016年)に3.16%(前年+0.51%)、平成29年(2017年)に5.14%(前年+1.98%)、グラフにはありませんが平成30年(2019年)は6.16%(前年+1.02%)と、毎年1~2%増えるように変わって来ました。
一気に2%近く増えた平成29年(2017年)は”ワンオペ育児”が「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートした年です。
新語・流行語の発表は年末ですが、フローレンスの駒崎さんがこんな記事をUPしています。2017年1月時点で書いた流行語の予測に、「ワンオペ育児」「ブラック父」「男性育休」といった言葉が上がっていました。
国や都道府県も取得率UPに向けて対策を講じています。男性が育児休暇を取得した場合、申請すれば企業に奨励金を出しています。金額も結構大きいです。社員が初めて取得する時は、社長(事業主)や人事担当が知らない場合も多いので、社内で共有すると良いかも知れません。
この勢いで、男性の育休取得者が増えると良いな~と思います。
男性の育児休暇取得を阻む壁
日本は男性が働いて稼ぎ、女性は家を守るという「性別役割分業」の意識が強く、それが育児の母親集中=ワンオペ育児(≒産後クライシス、育児ノイローゼ)の要因の1つとも言えます。
男性の立場で考えると、性別役割分業の常識感が「育児を理由に、男性が長期休暇を取得する」ことの障壁や差別に繋がると考えます。
育休を取得したいと考えている男性でも、無理解な上司や社内の担当者(人事部)の言葉に傷ついたり、育児を理由に左遷される、いわゆる「マミートラック」を考えて、自分のキャリアを不安視する方もいるでしょう。
他では読めない「第4章 育休実践編」
そんな風に、男性の育児休暇取得の難しさを考えていたので、読んでて心に響いたのが第4章「育休実践編」でした。下の目次にある黄色のアンダーラインは私が引いたものです。
社内第一号の育休取得者になるのは、簡単と言えば簡単ですが、難しいといえば難しいです。上司や同僚の反応がバラっバラで、心配する声も少なくないからです。
目次にありますが、社内のカルチャー(文化、雰囲気)を変える。実績を作る勇気を持つ。男性でも女性でも、長期期間、育児休暇を取得することで、自分のキャリア形成に影響がでないか…?不安に感じる人は多いでしょう。
第4章はそういった不安に寄り添い、不安を超えて育休を取得する勇気が湧くような内容で、読んでいて気持ちが良かったです。
第4章ではキャリア(仕事)だけでなく育児や家事、夫婦の関係についても書いてあって、痒い所に手が届くな!これを読んで夫婦で育休を取得すれば、産後クライシスやワンオペ育児といった状態は回避できると思います。
育休を取得した私の夫のこと
私の夫は第二子出産後に6か月、育休を取得してます。計画的な取得ではなく、私が発病して入院したからなので、突然、何も出来なくなった私に代わって1人で娘たちを育てました。
ごはんやミルクを用意して食べさせ、風呂に入れ着替えさせ、預かってくれる保育所を調べ、見学に行き、申し込み…。
めっちゃ大変な半年だったとは聞いていますが、これを機に夫の中で子育ての優先順位がぐんと上がりました。仕事はセーブして、子どもと一緒に過ごす時間を作ろうと、会社には短時間勤務・残業なしで復帰しました。
現在、私はアルバイト勤務、夫は時短勤務で管理職が出来ない、…と、キャリアとしては良いとは言えない状態ですし、金銭的余裕はありません。
でも、仕事をセーブしたことで、子ども、夫婦、家族と過ごす時間は増えましたし、しっかり休息し、心理的な余裕があるのでケンカや諍いもなく、幸福度は高いです。
子どもと過ごす時間の大切さ
上述した育休シミュレーターには「子どもと過ごせる時間が〇時間増える」と表示する機能があります。私はこの機能が好きです。
子どもはすぐに大きくなります。子どもの身体も小さくて、恥ずかしがらず手をつないで、抱き合って、「だいすき~!」と言ってもらいながら過ごせるのは、ほんの10年くらいではないでしょうか。
私は子育てしながら、ここ数年で両親を亡くしました。危篤状態に陥った母の手を握りながら、冷たくなった父の手を握りながら、大人になっても恥ずかしがらずに、もっと親と触れ合えば良かったと後悔を覚えました。
子どもはあっという間に大きくなります。初めて産んだ上の娘は7歳になりますが、手足が伸び体重が増えると、抱っこするのは難しくなりますし、性教育的な観点でも、自分(子ども)と他者(親)という、独立した、尊重し合った関係を構築する必要が出てきます。
子どもを想って、残業したり副業して教育費を貯めることも大事ですが、一緒に過ごせる時間は「今」しかなく、後から取り戻せません。その時間を大事にして欲しいと思います。
おわりに
途中から自分の話が長くなりましたが(^^;)、男性に限らず、育児休暇を取得する人に役立つ情報が詰まった1冊でした。
電子書籍版だと500円で買えるので、色々な人に読んで欲しいな~と思います。
長くなりましたが以上です。育児休暇を取得する人が増えますように!
※作中の目次やシミュレーターの画像はリンク先の記事から使わせて頂きました。ありがとうございます。
余談:お父さんに向けた妊娠・出産・育児本
私は2013年頃から「書店の育児書コーナー」を観察しています。育児漫画の情報ブログを運営してたので、最初は育児漫画を探す為でしたが、だんだんと違和感を覚え始めました。
第一子を妊娠した2011年頃は女性向けの本ばかりでしたが、2013~2014年頃からブログやSNSで父親による育児漫画が増え始めました。単行本になった作品もありますが、基本的にはWEBで無料で、自主的に発表されたものです。
同じ時期に、ファザーリングジャパンが父親向けの本を出し始めました。
その後、女性作家が男性が読むことを意識した、夫婦で読める育児本を作り始めました。
例えば、2018年に発売された、子育てサイトコノビー&やまもとりえさんによる『本当の頑張らない育児』は、男性が手に取ることを狙って青いカバーにしたそうです。今作は単行本発売後も、WEBで全話公開しています。
今年3月に発売された、フクチマミさんの『おうち性教育』は父親も多く登場し、夫婦で読める内容でした。
他にも、妊娠・出産系ムック本では、表紙イラストを男性作家の「つむぱぱ」さんに依頼した、こんな書籍が登場しています。
「ワンオペ育児」が流行語となるくらい、育児は女性に偏っていたと思いますが、その要因のひとつは、妊娠・出産・育児に関する書籍や育児書コーナーが、男性(父親)を”透明な存在”として扱っていたからだと私は考えます。
私の夫は、私の妊娠が分かった時、「たまごクラブ」のムック本を自ら買って読んでいました。お父さんだって妊娠・出産・育児に関する本を読みたいんです。でも、読んでみると、お父さんが登場しないことが多かったのです。
時間はかかりましたが、大きく変わって来たと思います。
そういう流れの中で、お父さん2人が自身の経験をもとに書いた、この『育休ガイド』を見つけたので、とても嬉しかったです。
サポート頂いたお金は、漫画や本の購入に充てさせて頂きます。レビューして欲しい本などあればコメントでお知らせください。