【設楽悠介】インターネットの問題を解決するブロックチェーンという技術【後編】
前編でブロックチェーンは私たちに様々な可能性をもたらすテクノロジーだということがわかった。今まで私たちが便利だと思って使っていたインターネットが抱える問題を解決し、より便利にする技術なんだ。
今回は設楽さんにブロックチェーンの誕生から、具体的にどのようなことを今のビジネスにおいて可能にする技術なのかについてきいた。
設楽悠介
幻冬舎「あたらしい経済」編集長/コンテンツビジネス局局次長
幻冬舎のブロックチェーン専門メディア「あたらしい経済」を創刊。同社コンテンツビジネス局で新規事業やコンテンツマーケティングを担当。幻冬舎コミックス、エクソダス等の取締役も兼務。またエン・ジャパンの新規事業「pasture」のアドバイザーも務める。個人活動として「風呂敷畳み人ラジオ」等の数々のビジネスコンテンツの発信やオンラインコミュニティを運営。著書に『「畳み人」という選択 「本当にやりたいこと」ができるようになる働き方の教科書』(プレジデント社)。
ツイッター: https://twitter.com/ysksdr
ブロックチェーンの歴史
設楽さん曰く、ブロックチェーンが誕生したことは大きな革命だという。その誕生は2008年に遡る。
実は、ブロックチェーンというテクノロジーを利用した素晴らしい通貨がある。ビットコインだ。
正確にはビットコインができて、ブロックチェーンという技術が定義されるようになったと言った方が正しいそうだ。
2008年11月サトシ・ナカモトと名乗る人物(ちなみにその人物は現在特定されていない、誰だかわからないので集団かもしれない)がある論文を公開した。その論文に書かれていたのがビットコインという仮想通貨だ。サトシ・ナカモトは国や銀行がなくともみんなが使えるデジタル通貨「ビットコイン」を作ろうと志したのだ。
サトシはお金の民主化を目指したわけだ。
このサトシ・ナカモトのアイデアに賛同した人々たちの手によって「ビットコイン」が誕生し、それが世界中に広がり、現在では私たちも手にすることができる通貨になっている。
そしてそのビットコインを動かす画期的な仕組みのことをブロックチェーンと呼ぶようになったのだ。
設楽さん曰く、その可能性は通貨には留まらないらしい。
ビットコインが生まれてから、世界でたくさんのブロックチェーンを使ったプロジェクトや通貨が誕生している。
そしてその中でサトシ・ナカモトの思想に感銘を受けたVitalik Buterin(ヴィタリク・ブテリン)という青年の手によってイーサリアムというブロックチェーンが動き出した。
このブロックチェーンの誕生は、また一つブロックチェーンの可能性のステージを上げたといってもいい。
ビットコインはお金や決済を民主化(脱中央集権化)するプログラムだった。
イーサリアムはそれを他の様々なプログラムでも利用できるようにした。
簡単にいうと、イーサリアムの誕生で様々なサービスにブロックチェーンを使ったプログラムが動かせるようになったのだ。
そして現在は世界中で多くの開発者が新たなブロックチェーンを開発しているという状況である。
ブロックチェーンがもたらす可能性
ブロックチェーンには今私たちが仕事や生活の上で使っている多くのサービスをより便利にすることができる技術なのだ。
ここからはブロックチェーンが可能にすることを具体的に紹介していこう。
・管理者がいなくても改竄されない仕組み(非中央集権的な仕組み)が実現できる
ブロックチェーンの技術は独自のアルゴリズムで、取り扱うデータを改竄できない仕組みになっている。
これは銀行や国が管理しなくても現在も動いているビットコインという仮想通貨をイメージすると分かりやすいだろう。
ビットコインの取引データは、動き出してから10年以上、誰もがアクセスできるように世の中に公開されているが、一度も改竄されていない。
ブロックチェーンの仕組みを使えば今までは特定の管理者が必要だったことを分散化できる。
例えばFacebook社という企業が管理していないFacebookのようなSNSを作ることだって可能なのである。
・攻撃に強いシステム/ネットワークが作れる
ブロックチェーンは特定のサーバーを持たない仕組みを実現した。
多くのインターネットサービスはどこかの巨大なサーバーの中で動いているが、ブロックチェーンはそのプログラム自体の置き場所まで分散化できる。例えばビットコインの取引データは、どこか中心となるサーバーで管理されているわけではなく、ビットコインのネットワークに繋がった、たくさんのパソコン(正確にはノードと呼ぶがここではパソコンをイメージすると分かりやすい)が繋がってみんなで維持している。
それによって何が起こるか。
特定の一箇所で管理していないので単一障害にも強いわけだ。
例えばGoogleのサーバー(もちろん屈強だと思うが)、そのサーバーを置いている場所全てにミサイルが落ちれば使えなくなる。
しかしGoogleのようなサービスをブロックチェーンで実現していれば、世界中の全てのパソコンを止めない限りサービスは止めることができないわけだ。
・トラストレスな仕組み(信頼しなくても安心して使える)が実現できる
ブロックチェーンでプログラムを自動執行できるスマートコントラクトという仕組みを実行することで、本来は人が管理しなければいけないことも自動執行ができるようになる。
この仕組みを使えば様々なことがプログラムで制御できるようになるわけだ。
ここまで紹介したメリットを、私たちの生活の中のサービスで使うことを想像してみて欲しい。
特定の管理者が管理しなくても改竄できない仕組みが作れ、その仕組みが攻撃や障害に強く、そして様々なプログラムを自動で動かせるのだ。
それは様々なサービスにおいてより強い安定性と信頼性、自動化をもたらすことになる。
何より今までは多くの人たちが行っていたような管理や確認の作業が不要にできるので、決済をはじめ様々なサービスの信用を担保しつつコストダウンをもたらすだろう。
今私たちに訪れようとしている「あたらしい経済」
ビットコインが生まれたことで「民主化したお金」が世界で動き出した。そしてイーサリアムの誕生でプラットフォームの民主化できる可能性が示された。
その可能性を信じて世界中でブロックチェーンを使ったサービスを提供するスタートアップがたくさん生まれてきている。
そして大きな企業も動き出している。Facebookはブロックチェーンを使った仮想通貨プロジェクト「Libra」を発表したことは皆さんもご存知だろう。そしてすでにAmazonやマイクロソフトなどの大手企業もブロックチェーンを管理するプラットフォームの提供を開始している。
そしてさらに国家も動き出している。
Facebookの「Libra」に対抗するように中国がブロックチェーンを使った中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行を2020年中に発行すると発表している。そして現在米国、欧州、そして日本もCBDCの発行を進めているのだ。
ブロックチェーンを使った「あたらしい経済」は世界中で生まれ出している。
そしてこれから私たちに訪れるのは分散化したWeb3の世界だ。
インターネットもそもそも私たちを自由にするためと発案されたテクノロジーだった。
しかし現在のそれは決して自由とは呼べない状況になっている。
ブロックチェーンはインターネットに正しい自由を取り戻す可能性を持った技術なのだ。
ブロックチェーンを正しく使えば、私たち個人はもっと幸せになれるはずだ。
ぜひ遠い未来の話としてではなく、明日のアクションにブロックチェーンを使えないか、みんなも考えてみて欲しい。
漫画構成=八神ちさ(@yagamichisa)、神代徒華(@rakugaki_toka)
取材・文=齋藤春馬(@st_hal_)/編集=井田峻平(@ida_pei)、伊勢村幸樹