はしがき
自分は最終的には技術的側面を研究したいのだが、確かに「技術選択」に経営環境が影響を与えるのは自明で、そこはきちんと詰めておきたい。
官営八幡製鉄所を考える際に、その出荷先のメインが鉄道や建築だったこと、そのため生産のメインは一般鋼だったことは重要なポイント。
序章 製鐵所=国家資本の分析の方法と視点
第1部 製鐵所の成立過程
第1章 海軍省所管製鋼所案の成立とその性格
はじめに
第1節 日本製鉄会社の成立と破綻
第2節 三菱の製鉄所建設計画
三菱の新入炭坑取得の経緯
第3節 海軍省所管製鋼所案の成立過程
第4節 海軍省所管製鋼所案の性格
海軍省所管製鋼所案の性格
②銑鉄の供給方法
③生産額の目標
④生產設備
鉄鋼需要と鉄道需要・軍需
官設鉄道の拡充をめざした鉄道敷設法89)は、海軍省所管製鋼所案と同じ第2議会に提出され、否決された。一方、鉄道敷設法は第3議会で政府の意図は修正されたが、成立した。
このように鉄道敷設法は、成立時から鉄道を官設であれ、民設であれ拡充するものであったが、それは軌条、橋梁、器械など広汎な鉄道需要の増加をもたらすものであった。とくに1880年代後半のブーム期には鉄道需要は増加しており、それを放置しておくことは輸入の増加を招き、国際収支を悪化させる原因の1つとなった。元農商務省鉱山局長、後の製鐵所長官となった和田維四郎の明らかにした鉄鋼需要の数値(1888~92年)によれば(表1-1)、工業需要35%、鉄道需要29%、雑用(鍋、釜など)27%、軍需7%、造船2%であった90)。鉄道需用の中身をみると、圧倒的に軌条の割合が多く、鉄材輸入の品目でも軌条は最大の品目としてあった。しかも軌条は、ベッセマー転炉によって製造される代表的な量産可能な鋼材品目であった。
さらに重要なことは、海軍省所管製鋼所案をはじめ、軌条は圧延製品の原価計算の基準品目として設定されていたのである。海軍省所管製鋼所案の原型になった野呂景義「鉄業調」によれば、「道鉄」(レール)の製造費1トン44円75銭と定め、屋鉄橋鉄等は、レール5%増しで46円99銭、竿鉄はレールの15%増L51円46銭、厚鋼板30%増し58円17銭などすべて、圧延鋼材の製造費の基準はレールを基礎に決められていた。この方法は、数値に若干の違いはあるが、官制公布の予算策定まで基本的に貫かれていたのである。
製鋼所建設は「軍器の独立」を押し立てることによって、政府各省および議会における支持を集めていかなればならなかったが、実際の中身は量産効果の大きい大量の鉄道需要(レール)に応えることを1つの柱に据えざるをえなかったのである。野呂の「鉄業調」でも明らかにその点を読み取ることができるのである。
「和田意見書」によって現実に成立した官営製鐵所は、軍器素材の設備を陸
結語
第2章 製鉄事業に関する調査会
はじめに
第1節 製鋼事業調査委員会(1892年)
第2節 臨時製鉄事業調査委員会
第3節 臨時製鉄事業調査委員会の議論、民設論への転換
第4節 臨時製鉄事業調査委員会における陸海軍の意見と砂鉄
第5節 清国漢陽製鉄所をめぐって
結語
第3章 製鉄事業調査会と創立予算の成立
はじめに
第1節 製鉄事業調査会(1895年度)の発足
第2節 製鉄所組織と予算作成過程
結語
第2部 製鐵所の成立
第4章 創立費の分析
はじめに
第1節 製鐵所の初期段階(1895年度製鉄事業調査会構想(1896年3月~1897年10月)
第2節 銑鋼一貫製鉄所構想への修正(和田維四郎長官意見書構想の成立と挫折)
第3節 第18回帝国議会と製鐵所予算
第4節 銑鋼一貫製鉄所の完成
結語
第5章 創立期製鐵所と軍需
はじめに
第1節 製鉄事業調査会(1895年)における当初予算
第2節 呉造兵廠製鋼部門と製鐵所の分業関係
第3節 日露戦争と製鐵所
結語
第6章 製鐵所の挫折と製鉄事業調査会
はじめに
第1節 製鉄事業調査会(1902年)の目的および人的構成
第2節 プライバタイゼーションの挫折――製鐵所の組織変更間
第3節 諮問機関の設置――嘱託方式から商議員方式へ——
第4節 厚板工場の建設
結語
第7章 初期高炉操業の失敗の技術経営史的検討——三枝・飯田説批判
はじめに
第1節 初期高炉操業の挫折
第2節 コークス炉建設問題
結語
第8章 官営製鐵所と赤谷鉱山:大冶鉱石獲得前史
はじめに
第1節 製鐵所と鉄鉱資源
第2節 三菱の赤谷取得の経緯と売却
第3節 製鐵所の赤谷開発計画
結語
第9章 外国人のみた創立期製鐵所および日本側報道
はじめに
第1節 製鐵所開始式前後の評価
第2節 海軍省の議会工作と製鐵所
第3節 和田製鐵所長官の辞任問題
結語
第3部 製鐵所の確立
第10章 創立期製鐵所の職員
はじめに
第1節 製鐵所職員の構成
第2節 雇外国人と職員
第3節 頂点に立つ高等官の形成
第4節 中下級職員の形成
第5節 第1次大戦前後における中下級職員の成立と再編
第6節 創立期製鐵所の中下級職員
結語
第11章 製鐵所の職工管理
はじめに
第1節 職工規則の成立
第2節 階層的秩序による指揮命令系統の組織的成立
第3節 労務部の成立
第4節 取締的管理の変容
結語
第12章 製鐵所における職夫管理
はじめに
第1節 受負工事人と職夫
第2節 受負人と職夫の関係
第3節 職夫の必要性と職夫供給人
第4節 職夫供給人の特質
第5節 さまざまな職夫
第6節 職夫と賃金
第7節 製鐵所による職夫・職夫供給人の管理
結語
第13章 製鐵所の組織と統治構造
はじめに
第1節 国家資本としての製鐵所の統治構造
第2節 創立期製鐵所の経営組織
第3節 製鐵所における経営組織の成立
結語
第14章 製鐵所における研究開発組織の成立と技術移転
はじめに
第1節 製鐵所における研究所の成立
第2節 製鉄研究会の発足と技術雑誌の発刊
結語
第15章 製鐵所の拡張工事
はじめに
第1節 第2期拡張計画策定と変容
第2節 第3期拡張工事の特徴
第3節 鋼片払い下げ問題
第4節 漢冶萍公司借款と第3期拡張工事
第5節 第3期拡張と東洋製鉄経営委託問題
第6節 珪素鋼板工場への追加投資
結語
第16章 製鐵所の収入と販売政策
はじめに
第1節 収益構造の分析
第2節 創立期製鐵所の販売政策
第3節 日露戦争前後の製鐵所販売政策
第4節 官庁向けの販売
第5節 軍需と製鐵所経営
第6節 第1次大戦中およびその後の製鐵所販売
第7節 製鐵所販売体制の成立
結語
結論
あとがき
主要参考文献
索引