『日本の工業地帯』山本正雄編、岩波新書青343、1959


まえがき

岩波書店の編集者から、この本の出版についての話を持ち込まれたのが、一九五八年の三月頃だったと思う。その時、これは日本経済の諸問題の中で今まであまり取り上げられていない分野であり、これからいろいろ問題になると考えられるテーマだったので、成否はともかくとして、やってみる気になった。

ただ職業柄そう時間も割けないので、数人の協力者を得なければならないと思い、その人選をして、本の大体の筋道について早速協議し、大雑把なスケルトンをこしらえた。そしてわれわれのねらいは、ともかく、日本資本主義の発達を地域という面からとらえて見ようということに決った。

従来の産業立地などという文献の多くは、原論的なものに偏するか、現状からすぐに対策とか政策に飛び移ってしまうというアプローチの仕方が行われているようだが、われわれはそうでなくて、なぜ工業の適正配置とか、産業関連施設の整備などという問題が日本でやかましくなったか、日本資本主義はどういう理由で、地域的に現在のような状態になり、それは今後どうなって行くのかという観点からこの問題と取り組むことにしたのである。

しかし、さて、こうした方針は決めたものの、資料に乏しい上に、われわれの能力不足ということもあって、なかなかその目標を達成することは容易でなかった。だから残念ながら、今後さらに誤りを正して正確を期するということで、一応の恰好をつけるという結果にならざるを得なかった。

この本は、「工業地帯の形成」と、「京浜工業地帯」と、「工業立地の新動向と展望」を私が書き、「阪神工業地帯」を加納安実君(朝日新聞経済部)が、「中京工業地帯」を訪栄吉君(朝日新聞経済部)が、「北九州工業地帯」を高内俊一君(毎日新聞『エコノミスト』編集部)が、「新しい工業地帯」を山本進君(毎日新聞経済部)が担当して執筆した。したがって、文章その他についても、それぞれのニュアンスが出ることも止むを得ないことで、この点、あらかじめ読者の御諒解を得ておきたい。

それにしてもこの本は、岩崎勝海君など編集者の異常な熱意がなかったら、おそらく日の目を見なかったろうと思う。いざ取り組んでみると、なかなか厄介なもので、正直なところ、中途で投げ出したくなるほどだった。それをうまくプッシュして、とうとう何とか一本にまとめさせた編集者のタレントには感心せざるを得なかった。

最後に、書店と私との結びつきを作って下さった畏友渡辺誠毅君を初めとして、通産省の産業施設課、総理府の首都圏整備事務局、その他、各種の資料を提供して下さった方々に、厚く御礼申し上げたい。

なお、写真掲載については、中部日本新聞社、新潟日報社、その他関係各会社からも御協力をいただいた。

一九五九年三月
山本正雄

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