その後の轟轟戦隊ボウケンジャー:ロケット・サマー(蛇足編)
こちらのSSは2007年05月05日に某mixiに投稿したもので…い、いっとくけど蛇足なんだからねっ。どうなっても知らないんだからねっ。
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こちらからお読みください。
ロケット・サマー(前編)
https://note.com/manet26/n/n28bb7e34e122
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「こちらゴーゴーボイジャー。パイロットは明石暁。状況はオールグリーン。まもなく着水体勢に入る。 ・・・・・・みんな、帰って来たぞ」
どよめきともため息ともつかない声がミッションコントロールセンターに起こり、そして息をつめたような静寂が満ちた。・・・皆の注目を浴びながら菜月が叫んだ。
「よぉ~しっ行くぞっ!サージェス杯争奪っ、ちきちきっ!ボウケンジャーぜんいんしゅうごーっ、ゴーゴーボイジャーを侵入させるなたいかい~っ! ・・・ミッションっスタぁートっ!」
・・・喉も裂けんばかりの大声にはじかれるようにミッションコントロールセンターの空気が変わった。
そう、実はこれこそが全員が集っている理由なのである。
「外宇宙からの直接進攻を想定した大規模防衛演習」というと聞こえがいいのだが、要するに歓迎イベントである。模擬弾、炸薬を最小限にした対空ミサイル、ビーム兵器やレーザー兵器はおおよそ強力なサーチライトみたいなレベルで運用。なお、あらかじめゴーゴーボイジャーには数箇所の「アタックターゲット」を仕込んでありその位置を攻撃された場合、自動的に各部の機能が停止するようになっている。ボウケンジャー総員の攻撃をかいくぐって時間内にミッションコントロールに到達すれば明石の勝ち・・・らしい。
「アタックユニット、総員配置、アタッカーズGo!」「イエス、リーダー。アタッカーズGo!」
真墨の号令一下、コマンダー、アタッカー、ファイターの3機のゴーゴービークルがドックのカタパルトから発進、駿河湾海中から飛来したジェットと合流、バレルロールを打って高空へと向かう。
「アタッカーズっ。ダイアモンドフォーメーションで突入。ゴーゴーボイジャーの進路を塞げっ。ジャイロおよび地上勢力、海上勢力は別命あるまで待機。回避行動は許可するがアタッカーズが防衛線を破られるまでゴーゴーボイジャーへの進攻、長距離攻撃は禁ずるっ!」
さー、やったるでぇ、という雰囲気で真墨の指示が飛ぶ。
「サーチユニットおよび演習参加のブルーシャドウメンバー、蒼太だ。現時点より対ゴーゴーボイジャー、いや対明石暁の電子戦を開始する。通信コード転送。コードを解凍したセクションは回線を確保」
「・・・全回線確保確認。味方勢力間の通信環境に異常ナシよん」
「ジャミングスタート」
シズカの報告を受けた蒼太のキー操作でおそらくは地球全体を覆いうるであろう強烈なジャミングが戦闘区域と定められた空間を満たす。張り巡らされた濃密な電子の網に、菜月には一瞬目の前の空気が暗くなったように見えた。
「おっけー、ゴーストアタッカーズ出―しちゃーうよーっ!」
ほとんどはしゃいでいるとしか思えない声でシズカが叫ぶと、モニター上に無数のアタッカーズが出現。これはゴーゴーボイジャーのレーダーがジャミングを突破した時点で有効な電子戦第二陣、単純なデコイではなくAI処理で自在に稼動する幽霊編隊である。
「おっしゃ、レスキューユニット総員配置!周辺環境および被弾機への被害を最小限に防ぐっ!
サテライトレーザーコントロール!流れミサイルの空中処理ぃぬかるんじゃねえぞっ。」
コンソールに駆け込んだ真人が応える。
「イエス、チーフ!サテライトレーザーっ、スタンバイGo!」
「おとーさーん!おっかえりーっ!でーも、よーしゃしないからねーっ」
ひときわ目立つレッドとピンクのストライプに塗装されたゴーゴーコマンダーが先頭を切って高空へと昇ってゆく。常人であれば失神しそうな巨大なGを細身に受け止めながら獰猛な笑顔で菜摘が叫ぶ。
世界規模の天文台情報から明石の乗るゴーゴーボイジャーの現在位置と速度、ベクトルをリアルタイムで割り出すブルーシャドウ。その情報から進入ルートを計算、状況を勘案し、効果的な迎撃作戦を瞬時に立案するサーチ・ユニット。
ギリギリまでたわめられた石弓のように、いまや遅しと待ち受けるアタック・ユニットとガード・ユニット。
立体的な補給ラインと瞬間的な大付加に対するジェネレーターの確保に余念の無いトランポ・ユニット。
そして、被害を最小限に食い止めるレスキュー・ユニット。
民間団体としておそらくは世界一の少数精鋭である「ボウケンジャー・バタリオン」が総力を挙げて明石暁一人を待ち受ける。
そして、時が来た。
菜摘のコマンダーが高空より明石のゴーゴーボイジャーに襲い掛かった。
「やってやるぜっ!」
蒼太の収集した情報からさくらが戦術立案、遊撃的に菜月と真墨を配置し、流れを捉えて的確な決断を行う。そんなミッショントータルの指揮者としての要素が強い明石のレッドと異なり、総指揮を真墨が執るようになってからのボウケンレッドはアタックチームの華である。
先陣を切って流星のごとく一騎駆け。一撃離脱、一刀両断。
単機でも背後に部下を従えたトライアングルフォーメーション、ダイアモンドフォーメーションにおいても、菜摘の思い切りの良さは変わらない。明石にも一か八かの賭けに出て、絶対に勝利するといったところがあったが、この思い切りの良さはどちらかといえばさくら譲りのものだろう。
巨体をひねるようにしてゴーゴーボイジャーがこのアタックを回避。
返す刀で再突撃を敢行しようと反転したアタッカーズの眼前から瞬間ゴーゴーボイジャーが消えた。
「え?」
「分離したんだっ。菜摘っ」
そう、ゴーゴーボイジャーが5機に分離していた。しかも明石側のコマンダー、アタッカー、ファイターの3機のゴーゴービークルが菜摘たちのアタッカーズに対して有利な位置を取って切り込んできている。
「うわ、」本能的に回避行動をとりながら、菜摘は視界がレッドアウトしかけているのを感じる。
「被害はっ!」「アタッカー、ファイター、ジェットともにエンジンに被弾、中破」
この攻撃を避け切ったのはどうやら菜摘だけらしい。「このーっ!」
「まて、菜摘。コマンダーで特攻してどうする」「ここは地上側に任せろっ」「だって悔しい」「だってじゃねーっ」「コドモか、おまえは」「うー」
だが、その、地上、海上の各部隊も、明石のゴーゴーボイジャーに翻弄され続けた。
とてもひとりで操縦しているとは考えられない動きで5機のビークルが機動するのだ。自在に分離、変形、合体する明石のゴーゴーボイジャーの動きにサーチ・ユニットの作戦立案がついていけない。
「明石のゴーゴーボイジャーは化け物か?」「そんなネタかましてる場合じゃないだろ!」
「サ、サイコミュ?」「世界設定が違うだろっ」
「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ」「逃げろって!」
蒼太がため息をつく。
「オートパイロットシークエンスをAI制御、しかもAIのキャラクターを相当作り込んであるよ。ま、あっちもたっぷりシミュレーションする暇があったってことかね」「明石のことだ。寝る間も惜しんで作りこみそうだな」「ええいマンチキンめぇ」「それって5人のチーフと戦ってるってコト?」「いや、どっちかというとものすごく強気な僕達自身を相手にしている感じだね」「え?」「暁さん、本当にリーダー達の性格よく読んでるよなー」
着水してからは、明石はゴーゴーボイジャーをダイボイジャーに変形。一気にミッションコントロールへ向かって駆け込んでいる。
「うわ、ゲートからじゃなくて直接コントロールタワーに侵入するつもりかよ」「やるなあ、明石」「感心してる場合かい」
ダイボイジャーの右手がコントロールタワーを掴んだ。操縦席のハッチが開き、明石が飛び出してくる。
ルール上、明石自身には発砲しても効果は無い。体をはって物理的に彼を止めるしかないのである。
真墨、英二、蒼太、真人、ミッションコントロールに戻ってきた菜摘が外部ドアを開けて外へ出ようとした、その瞬間。
明石の動きが止まった。
「はい、捕まえましたよ。チーフ、いえ暁さん。」
明石の全身にコーティングされた高強度ワイヤーが絡んでいた。しかも念の入ったことに両腕両足と首の計5本。
そのワイヤーの先にはライフルを担いで笑顔で手を振るさくらの姿があった。
「やっぱり甘かったか。どこに居たんだ、さくら」
「ミッションスタートの時点からコントロールタワーの外で待機してました。時間制ですから最短距離を狙うだろうってのは性格上わかってますからね」
「もう動いても大丈夫なのか」
「技術が追いつくまで冷凍保存の上、全身の細胞のクローニング交換が終わったのが昨年ですからね。さすがにまだぎこちないところは多々ありますが、なんとか」
「そうか。よかったな」
「ええ、ちょっとしたボウケンでしたけど・・・またこうしてあなたに会えました。暁さん」
ゆっくりと、さくらが明石に近づくとその唇に唇を重ねた。照れたような顔でさくらの小さな頭を引き寄せようとして・・・、手足が拘束されていることを思い出す明石。そして、その様子をみんなが見ていることに気がついた。
「おかえりー」「やったねー」「ああ、いい演習だった」「負けたんだからな、明石のおごりで焼肉だ」
「どうせ給料の使い道が無い宇宙暮らしなんだから全員分でも大丈夫だろ」
「ちょ、ちょっと待て、そんな話は聞いてないぞ」「いま決めました」「そう、今決まった」「なんだと、お前ら」「決まったみたいですよ、チーフ?」「さ、さくらまで」
身動きの取れない明石を取り囲んでみんなが笑っているバックで、真っ赤な夕日が水平線に沈もうとしている。
フォーエバー、ボウケンスピリッツ。
(ロケット・サマー END)
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