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轟轟戦隊ボウケンジャー妄想スペシャル 「はじめましてのクリスマス」その5

このSSは2006年12月12日に某mixiに投稿したものです。

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こちらからお読みください。「はじめましてのクリスマス」その1  https://note.com/manet26/n/n75d8107d69c4

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サージェス財団(SGS-foundation)はもともと、いわゆる「博物館」時代の最盛期に某イギリスの大貴族サー・ジェラルド・バンクロフトが設立した私設博物館を前身とする組織だ。
大航海時代のヨーロッパで大流行した世界中のお宝を集めたコレクションを展示する「秘宝館」を学芸的な目線で再編集したものが「博物館」であることはご存知のとおりだが、サー・バンクロフトのコレクションは特に不思議な力(奇跡)による生成物やさまざまな錬金術の素材などを収集したものであったといわれる。錬金術関連のものについてはカンタベリー大司教だった彼の甥を通じて英国国教会(一説にはその裏にバチカンが居たとも)より再三寄贈する様に要請があったともいわれその信憑性の高さを感じさせる。

そんな出自のためか、サージェス財団の各支部の建物にはかならず小さなチャペルが付属している。もちろん職員の結婚式に使われることもあるのだが、様々な研究や探索で亡くなった職員の慰霊のためなのだとも、そこに常駐する神父が実はエクソシストの権威なのだとも言われている。

「うー、さすがにのどまであんこが・・・」
ヤケ食いで少し落ち着いたらしいさくらが微妙によたついた歩き方でサージェスミュージアムの職員通用門をくぐろうとしたとき、その小さなチャペルに入っていく人影が見えた。血糖値が冗談の様に上がっている目でははっきりしたことが言えないが、あれは。
「最上さん?…いえ、言い直し。最上?」西堀さくら、几帳面な性格である。

偏見かもしれないが国際スパイと教会というのはなんだか合わないような気がした。こころなしか悄然として見えたが…。

「気になるんじゃないです、これも任務のようなもの」と誰に言うともなくつぶやいてさくらはそっとチャペルの大きく開いたドアの影に立って中をのぞいた。

「!。」
そこには、聖堂の正面に掲げられた十字架のキリスト像を前にひざまづいて祈る最上の姿があった。
先ほどまでの不謹慎で韜晦だらけの軽薄な青年はどこにもいなかった。厳粛でいわく言いがたい高潔さを感じさせる、そんな姿。祈りの姿勢は徐々に深くなり、苦悩と悔恨、そして深い悲しみがさくらの目にもはっきりと感じられた。そして・・・「誰です?」
最上が振り返ったとき、さくらは開いたドアの真ん中に立ち尽くしている自分を発見したのだった。

見つめる蒼太の目に滂沱とあふれる涙があった。
「え、あの・・・」
「西堀さん」
見てはいけないものを見てしまった。そんな思いでそそくさと立ち去ろうとしたさくらに蒼太が呼びとめた。

「西堀さん、さっきはすみませんでした。ちょっと、いやかなり感情的になってしまいました。
ご存知のとおり、僕は企業や他国に侵入する国際エージェント、あなたの言うところのスパイだった。
もともとは両親を中東に派遣された米軍艦の誤射で失ったのをきっかけに、英国情報部にスカウトされ、その後はいくつかの組織で活動していた。」
「最上さん、今はそんな」

「話させてもらえませんか。聞いてもらいたいんです、あなた、チームメイトの西堀さくらに」
蒼太の強い瞳の光に気おされるようにして、さくらはチャペルの中に入り礼拝台に座った。

「両親の敵討ち、そんな気持ちはすぐになくなってしまった。さまざまなトラップや障害を越えて情報を手に入れるスリルにとりつかれて、それを味わうためには手段を選ばず、数多くの企業や国家を崩壊させても一欠けらの罪も感じなかった。けれど、ある出来事がきっかけで自分のやってきたことがどれほど多くの人々を傷つけ、その代償に自分が手に入れたスリルに何の価値も無かったことに気付いた。そして、なによりそんな罪深い僕ですら愛されているのだと、身を挺して教えてくれた人をその事件で失った」

「ある出来事…」
「2001年9月11日。グランド・ゼロ」ささやくようなかすれた声で、蒼太が言った。さくらが息を呑んだ。

「あのとき、僕はCIAの特務諜報官としてあのビルに居ました。テロなんて嘘っぱちです。あの機は僕たちが遠隔操縦していたんだ。N.Yのあの辺りはご存知のとおりビル風がすごい。でも遠隔操縦で正確にビルのある部屋を狙って突っ込ませるぐらい十分できると高をくくっていたんです。が、実際には」
「予想をはるかに超えた大惨事に」
「まあ、予想を超えてはいなかったんですがね。でも、そのとき僕は失ってはいけない人を失った、そして僕を慕ってくれた少女の家族を全てこの手で亡くしてしまった」

「彼女には叱られようと思いました。なぜ、お前だけが生きているんだ、家族を返せ。そう言われればいい、その方がいいと。だが、彼女は・・・、ソータ、ソータが生きていてくれたのは奇跡だね。誰もかもを失ったと思ったけれど、でもソータが生きていたことを天のお父様に感謝しなくては・・・」

「あの事件の収拾を必死でつけた後、僕は任務に失敗した責任を取らされて人身御供のように国際指名手配を受けた。そのとき、サージェスが僕に声をかけたんです。人を助け、世界を平和に導くためにその力を使ってみないか、と。最初は興味なかった、どうせきれいごとを言っても組織は組織だから。でも明石チーフは違っていた。彼は純粋に冒険を愛し、人類を愛し、世界を輝かせることを僕に語った。だから、僕はこの仕事に僕の命をかけることが償いになるんじゃないかと。でも」

「ちょっと似ていますね、その話」黙って聞いていたさくらが口を開く。
「ご存知のとおり西堀財閥総帥の孫として生まれた私は幼い頃からいわゆる帝王学教育というものを受けさせられました。そこにあるのはあらゆる人との表面的なつながり。中学を卒業する頃には自分がロボットになってしまったような気がしていました。
そして、もっと人と人が本音でぶつかれるようなトコロを求めて、…自衛隊に入りました」

「えーと、素直に言っていい?、西堀さん、馬鹿?」
「馬鹿かもしれない(笑)。なんか追い詰められちゃってたんですよ。25歳も上の人がいきなり婚約者になったりとかして」
「それは、なんというのか、ご愁傷様です」

「それで、私も自衛隊で様々な訓練を受けるうちに己の感覚が麻痺してくるのを感じていました。いいえ、麻痺させないとやっていけないのです。でも、本当は怖かった、人を平気で傷つけることが。特に戦略立案や兵站といった直接戦闘に関わらない、手を汚さない仕事が実は直接の暴力を拡大するのだということに気づいたとき、とても怖くなった」

「だからあなたは常に実戦部隊の正面にいたんですね、何かあったときにただの暴力になれるために、手を汚すために」
「よくご存知ですね」
「内調にいた鳥羽さん。彼とは仲がよくて」
「ああ、彼。わたし、彼嫌いです。なんか見え見えのお世辞とか言って」
「彼、あーゆーの本気ですよ。女の子褒めるときはマジなことしか言わない」
「でも、イヤ。くどき上手な人はどうしたらいいかわからなくなるから苦手」
「まいったな。遠まわしに僕も断られたみたいだ」
「チーフはね、はじめて打算なしの夢を語ってくれたんです。そしてよければその夢を一緒に見ようって言ってくれた、だから、わたしはボウケンジャーになったんです」

「なるほど。なんとなくさっきの僕達の喧嘩の原因がつかめました」
「え?」
「ようするに、明石チーフをめぐる三角関係なんだ、さっきのは」
「ああ?、ええっ、違いますよ、そんなんじゃなくて。さっきのは、べつに」
「そういうことにしましょう。その方が平和だし。素直にチーフの所に謝りにいける」

蒼太が立ち上がって・・・いきなり深々と頭を下げた。
「じゃあ、あらためて先ほどはすみませんでした」
「こちらこそ、すみませんでした」
さくらも立ち上がった。
「じゃあ、もどりましょうか。例の不器用でアツいチーフのところへ」
「そうしましょうか」

「ところで、西堀さん?」
「はい?」
「あらためてお伺いしますけど、クリスマスのご予定は?」
「・・・別にありません。いけませんか?」
「じゃあ、僕と一緒に教会に行きませんか」
「えーと、西堀家は代々曹洞宗で。」
「僕と一緒に祈って欲しいんです。僕らがいつか世界を平和に出来るように」
「…、そういうことでしたら。すっかりお話も聞いてしまったことだし」
「いいですか?。…よし、これで鳥羽さんより一歩リードだ」
「なにか言いましたか?」
「いいえ、何も。じゃあもしこのままご予定が無いようでしたら毎年クリスマスは僕とデートですよ」
「あの、デートとかではないと、って毎年?」
「まあまあ、チーフとデートのときは譲ってあげます」
「だから、そんな」

二人が、ぐるぐると思考の罠にはまって机に突っ伏している明石を発見するまであと3分である。

++「はじめましてのクリスマス」FIN++

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