只人を待つ
あの人は私の憧れだ。
出来ない事を端から諦めて、得意な事に逃げていた私に対して、あの人は何にでも挑戦し始めは上手くいかずとも諦めずに繰り返すうちに気が付けば人並み以上にこなすようになっている、そんな所に憧れていた。
あの人は私の幼馴染だ。
幼い頃の私は大したことない才能を鼻にかけ、周りの子供たちを見下す嫌な奴だった。そんな事だから友達なんかいなくて、あの人に対しても山の中に置き去りにしたり、しきりに話しかけてくるあの人を本を読んでいるからといって無視し続けたりと酷い物だった。それでもあの人は私のそばに居てくれた。そうしている内にいつしか、友達とはこういう物なんだろうなぁと思えるようになった。
あの人は私の救いだ。
名家に生まれた者として、才能を持って生まれた者として、その重圧に押し潰されそうになった時、あの人の事を思い出せば耐えることが出来た。
あの人に再び会うという目的があったからこそ、若くして一行に加わる事を許された。
私はあの人に救われた、だから今度は私があの人を救おうと思ったのだ。
あの人は私の光だ。
その光が陰っていくのを感じた時、私は何を引き換えにしてでもあの人を自由にすることを決めた。
出来れば二人一緒に逃げ出したかったが、今となっては叶わぬ話だ。
段々と意識が遠のいていく。このまま私が死ねば、あの人に掛けた魔法が解ける。それに気づいてどこか遠くで自由に生きてくれるだろうか。
願わくば、願わくば、勇者でも戦士でもなく、自由に只人として生を全うしたあの人に三度再会したいものだ。
嗚呼、彼岸の岸で只人を待つ。