唯、人を待つ
人を待っている。
その人は私の憧れだった。
何をやっても中途半端な私に対して、その人は所謂天才という奴で、何でも簡単にこなしてしまう所に憧れていた。
人を待っている。
その人は私の幼馴染だった。
周りに年の近い子供は何人もいたが、気が付けば二人で遊んでいた。
ある日は山や川へそのいき、ある日にはその人の父親の書斎で本を読んで過ごした。私には何が書いてあるかさっぱりだったが、得意げに難しい本を読むその人を見て、何だか楽しいなぁと思ったことを覚えている。
人を待っている。
その人は私の救いだった。
とある事情により、故郷を離れ命じられるままに大して上手くもない剣を振り続ける私の前に再びその人が現れた時、本当に嬉しかった。
何の意味もない私の人生が再び色づいたようで、私は救われた。
救われて、しまった。
人を待っている。
その人は約束を違えた事が無い人だった。
幼い頃、遊ぶ約束をした日に私が熱を出して寝込んでしまった時には大きな絵本を抱えてやってきて、私が寝入るまでずっとその本を読んでくれた。
私が故郷を離れる日、涙ながらにやって来て必ずまた会おうと約束し、その言葉通りにその人は私の前に再び現れた。
だから私は待っている。
別れ際に故郷によく似たこの場所で落ち合おうと約束したから待っている。
その人の魔力の残滓が私の体から離れていってしまっても待っている。
人を待っている。
人を、待っている。