家の外では風が吹く

 急に暑くなるもんだから、いよいよ自律神経がぶっ壊れたのかと思った。
大学には春休みも含めたらもう二ヶ月は行ってないし、バイト先も閉じてしばらく経つ。パチ屋もゲーセンも開いてないし、本屋は電書があるからもともと行かない、ジャンプはアプリで読んでいる。日々の飯は親が仕事終わりに買い物をまとめて済ませて帰ってくる。そんなこんなで外に出る事が無くひと月が過ぎた。
 誰にも会わないからと髭を伸ばした。ひと月伸ばしてもしっくりこなくて風呂場で俺って髭の才能ないなと毎晩思う。そもそも外に出ないんだから風呂なんて入らなくて良さそうだが、毎日入っている。意外と綺麗好きだったのか、習慣を崩したくないのか、俺にも分からない。とにかく今日もジャージからジャージに着替えている。
 別にコンビニにくらい行けばいいとは思っている。俺が外に出ないのは規範意識とか批判を恐れてとかじゃなくて。服を着替えるのが面倒くさいとか、そもそも外でもやる事が無いとか色々と理由はあるけれど。なんというか、タイミングを逃してしまったのだ。
 ベッドに転がってTwitterを見る。人の感情を見るのが何だかしんどくて新しくアカウントを作った。エロ絵のリツイートしかない信頼できるアカウントとバーガーキングピッコロだけの閉じた世界だ。ムラッと来たとかじゃなくてあまりにも暇すぎるから抜くという無の射精がある事を俺は知った。出来れば知りたくなかった経験だ。これまでと虚しさの質が違う。
 週の半分以上は親が在宅でリビングを使っているので、態々顔を合わせるのも面倒くさくて部屋にこもる。惰性で開けた菓子の空箱とyoutubeの視聴履歴だけが積み重なっていく。
 あまりにも暑かったのでたまらずに窓を開けた。外の廊下に面しているから、いつもは締め切っているのだけど。クーラーの掃除はまだしてないし、扇風機はリビングで洗濯物を乾かしているから、窓を開けた。
 風が吹き込んできて、カーテンとついでに埃が舞った。空気が流れるってそういえばこんな感じだったな。そう思い出してサンダルをつっかけて玄関の外に出た。
 風が吹いていた、陽が差していた。なんだか堪らなくなってそのまま一階に降りた。階段を下りるのは久しぶりだったから、妙に膝に意識がいった。運動不足がヤバいなと感じた。土の匂いがした。じっとりとした蒸し暑さがあった。風が汗ばんだ体を撫ぜる涼しさに感動すら覚えてしまった。あまりにもなんでもないことに感動してしてしまって、封印が解かれた古の魔人みたいだなと可笑しくなってしまった。 
 部屋に戻って久しぶりに元々のアカウントにログインした。今日は全国的に暑い日らしい。意味もなく伸ばしていた似合わない髭を剃って、ジャージを脱いでひと月ぶりにジーンズを履く。なんだかアイスが無性に食べたくなった。
 コンビニからの帰り道、春物を通り越して夏物を出さなきゃなとアイス片手にぼんやりと考えた。

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