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69 「大きくなれよ」丸大ハムの呪い
最近の食い物は小さくなってねえか? という問題がある。缶コーヒーも、カントリーマアムも、キットカットも、みんな小さくなっている。シャウエッセンの本数は変わっていなくとも、内容量は以前の127グラムから117グラムに減っている。食い物が小さくなったのか、自分が大きくなったのか。街のコンビニをぐるりと巡れば、何もかもが小さく見えて、まるでガリバー旅行記のようである。
その一方で、昔に比べてデカくなっている食い物もある。第44回「はみ出しグルメ」でもチラリと触れたが、床にぺたりと付かん勢いの握り寿司とか、溢れんばかりのイクラ丼とか、下品で仕方ない。小さいのも困りものだが、食べ物は大きけりゃいいってもんでもないのだ。
最近、デカくて困っている食べ物の筆頭にあるのが、ハムカツだ。
どこの店、とは言わないが、居酒屋のお品書きにハムカツがあって、注文してみると出てくるのは肉厚1センチもありそうなハムカツらしからぬハムカツだったりする。「え?」って思うよね。「これはハムカツじゃない!」って思うよね。強いて言うなら「ハムステーキカツだ」って思うよね。
デカいならいいじゃん文句言うなよ、とおっしゃられるかもしれないが、ハムカツに限ってはそういうわけにいかない。分厚く切ってくれるほど嬉しいのはハムステーキであって、それはまったく別の食べ物だ。ハムの定義ってものがあるのかは知らないが、厚さ1ミリ、ないしは1.5ミリくらいのペラッペラな状態でないと、どうにもハムカツという感じがしないのだ。
以前、上野の立ち飲み屋を紹介する番組で「ここがハムカツトライアングル!」というような紹介のされ方があった。上野の一角に集中する平日の午前中からやってる立ち飲み屋3店を紹介して、それぞれA店、B店、C店のメニューに共通するハムカツを比較紹介するというものだ。それがどれもこれも厚くてね。これがいまのハムカツのスタンダードかと思うと、嫌んなっちゃったよ。
その昔、焚き火の前でおやじがハムをナイフで切り出しながら「大きくなれよ」と言う丸大ハムのテレビCMがあった。声を当てているのは小林清志。覚えている人も多いだろう。
本来はキャンプに連れてきた我が子に向けた言葉だと思うのだが、ぼくにはあれが「ハム」に向けて語りかけているような気がしてならなかった。「大きくなれよ」とは「分厚く切れよ」という意味なのだと。いま分厚いハムカツが大きな顔をするようになったのは、あのときの丸大ハムの呪いが効いているからではないかと思っている。
ぼくにとってのハムカツは、小学校時代に通学路の途中にあった肉屋さんの店頭で買い食いした薄べったいハムカツだ。いまでもハムカツを食べると、自分が純真無垢だったあの頃を思い出し、懐かしさのあまり泣けてきてしまう。逆に、昼間っから仕事もせず酒場でホッピーに酔い、クソ厚いハムカツに齧りついていると、その堕落し切った自分の姿に、また別の意味で泣けてきたりもするのだった。
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