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80 茹で上げペヤング、縦から食うか? 横から食うか?

 例によって酒場で飲んでいたら、同席していた仲間がおかしなことを言い出した。
「ペヤングって、縦で食います? 横で食います?」
 そんなことは考えたこともなかった。
 ラーメン、うどん、そばといった汁系のカップ麺は、基本的にほとんどの容器が円形である。実際、店で食べるラーメンはまず間違いなく円形のドンブリで提供される。おそらくカップ麺もそれに倣ってあの形をしているのだろう。円形の器には縦も横もなく、どの角度から口をつけてもよい。
 ところがカップ焼きそば、とくにペヤングは、この世に誕生したときから器は四角だった。『2001年宇宙の旅』で猿人たちの眼前に出現したモノリスのように、ペヤングは最初から直方体だった。テレビコマーシャルでの桂小益(当代の文楽)もペヤングを掲げて「四角い顔~」と言っていた。
 このペヤングにお湯を入れ、3分から5分ほど経ったらお湯を捨て、付属の液体ソースを入れてかき混ぜればソース焼きそばに進化する。モノリスに触れた猿が骨を武器にしたように、ぼくは箸を手にして焼きそばに立ち向かう。
 鉄板で焼かずにお湯で茹でただけなのに「焼きそば」を名乗るとはこれ如何に! とはたびたび言及されることではあるが、そのことはいまは問わない。ぼくはお湯で茹でるだけで焼きそばができるという人類の叡智に、多大な敬意を表するからだ。

 さて、このペヤングソース焼きそば。いざ食べるとなったときに、器を縦で持つか、横で持つかの問題提起がなされた。
 自分はどうやって食べていただろうかと、過去の体験を振り返ってみると、記憶する限りペヤングは横方向に置いて食べていた。それは自身の食事事情に由来するところが大きい。
 ぼくがペヤングを食べるのは、ほとんどの場合が深夜である。夕飯を終え、風呂にも入り、家族も寝静まった頃。2階の自室でノートパソコンを広げてネットフリックスで映画なんかを見ていて、ちょっと小腹が空いたときに丁度いいのがカップ麺だ。
 マグマ舌なので熱々の汁麺をチョイスすることは多いが、ときには汁なしのソース焼きそばが食べたくなることもある。その場合、ぼくはU.F.Oでも一平ちゃんでもなく、ペヤングを選ぶ。というかカップ焼きそばはペヤングしか買い置きしていない。
 そして、お湯を入れ、湯切りして、ソースを入れてかき混ぜる。完成した焼きそばは、映画を見ながら食べる。その際のポジションは、机上のノートパソコンの手前に置く。狭いスペースなので、縦に置く余裕はない。だから横方向に置いて食べることになるのだ。
 したがって、人から言われるまでは横が当たり前だと思っていたのだが、縦方向で食べる可能性もあったのだということに新鮮な驚きを覚えた。
 よくよくペヤングのパッケージを見てみれば、商品名もスペックも縦方向にデザインされている。ということは、これすなわち「縦で食え」というメーカーからのメッセージなのだろう。
 カップ焼きそばは汁が入っていないぶん、他のカップ麺に比べてやや軽い。汁をこぼす危険もない。だから手に持って食べることも容易い。なんなら歩きながらだって食べられる。しないけど。
 その際、どのように持つだろうかとシミュレーションしてみたら、なるほどそうか縦だった。スマホを持つのと同じ感覚でペヤングは縦に持つ。そして割り箸をスワイプさせて麺を食べる。縦、ずる、縦、ずる、縦、ずるずる。

 ペヤングには、数年前から「超大盛」が登場した。あちらはレギュラー製品と違ってパッケージデザインが横位置になっている。分量の多さゆえに手持ちではなくテーブルに置いて食べる、もしくは器に取り分けて二人ないしは三人で食べることを想定した商品だからだろう。
 あれを片手に持って一人でワシワシ食っている奴がいたら、なかなかたいしたもんである。もういっちょイク~?

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とみさわ昭仁
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