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62 豆が好き

「豆」はみんな好きですよね!!!(大声で言うようなことじゃない)
 もちろん、ぼくだって大好きだ。ちょっくら飲みたいけど、ちょうどいいつまみがナンニモないなあ、なんていうときに乾物入れを開けたりすると、じゃこピー作ろうとして買ったのを忘れていたバターピーナッツとか、春日井のグリーン豆の食べ残した袋とかが出てくる。そのときの「やった!」という気分。
 喜びとしてはとても小さい。豆のひと粒と同等か、それよりも小さい。でも、豆はゾロゾロと集まってこそ「豆」なので、喜びの総量は大きくなる。
 おお、豆があるじゃんか! 上等上等。ひい、ふう、みい、よう……20粒もあるなら、ひと粒で50ml飲むとして、かける20で1000ml、つまりロングの缶酎ハイが2本は飲めるじゃないか! と、そんな豆算が瞬時に働く。

 以前、さくら水産で飲むのがマイブームだったとき、よく頼んでいたのが「6種の豆のカレー揚げ」だった。もう記憶が定かでないので、6種でなく5種だったかもしれないし、カレー味ではなかったかもしれないが、まあ、とにかく数種の豆をカラリと揚げてスパイスを振りかけた、ナイスなおつまみだった。豆よりでかい穴径のザルに盛られていたので、食べるそばからポロポロ豆がこぼれ出るのが難点だったけど、そんなもん拾って食えばいい。
 マグロの刺身がテーブルにポテンと落ちたら、それを拾って食うのにはためらいがある。でも、豆にはそんなためらいはない。ポテンと落ちた豆を箸でつまんで皿に戻す。なんなら、床に落ちたものでも豆なら食っても平気な気がしてしまう(気がするだけです)。それくらいのポテンシャルが豆にはあるのだ!

 酒のつまみだけでなく、お茶受けとしても豆菓子はよく買う。辻井タカヒロさんのコミックエッセイ『焦る! 辻井さん』()の中で、漫画の構想を練っている辻井さんが「豆菓子などむさぼりながらアイデアを練っていると」と、ひとりごちる一節がある。その気分はとてもよくわかるんだな。ぼくも原稿を書き始める前の構想を練っている段階では、よく豆菓子をむさぼるからだ。ひと粒ひと粒を食べるのではなく、数粒をひとまとめにしてザラザラと口へ放り込む。その様子はまさに「むさぼる」にふさわしい。まるでアイデアの枯渇した己の脳髄を豆の滋養で補填するかのように。
 仕事のお供としてよく買うのは、先にも挙げたバタピー、春日井のグリーン豆、でん六豆といったあたり。以前も書いたが、シネコンに行くと必ず買っているポップコーンもよく考えたら豆菓子の一種と言えるかもしれない。どんだけ豆が好きなんだ。ぼくの食生活はかなりの割合で豆に占拠されている。
 いかり豆(乾燥そら豆を油で揚げたもの)は、あのセミの抜け殻みたいな外皮を残す人が多いようだが、まったくナンセンスだ。あの皮こそが美味いというのに。あの抜け殻が前歯の隙間に挟まったことのない人とは会話をしたくない。話しかけられても返事は「ミーン、ミーン、ミーン」で十分だ。
 札幌へ古本の仕入れ旅に行ったとき、地元のコンビニで酒と共に見慣れない「ボンゴ豆」というつまみを買った。形状としては大豆をベースにしたでん六豆に似たもので、唐辛子のきいた衣をまぶしてあってうまかった。ご当地ものかどうかはわからない。

 千葉県は落花生の名産地として知られている。とは言っても、名産なのは八街(やちまた)市を軸にした北総地区だけで、ぼくが住んでいる松戸市(東葛地区)では滅多に落花生の影に怯えることはない。むしろ、身近に存在しないからこそ、オラが県の名物を体験してみっぺと、娘が小学生のときにわざわざ八街まで落花生を掘りに出かけていった。途中、歩道に設けられた「クルマ避け」が落花生の形をしていて、その落花生推しっぷりに少し引いたほどである。やっちまったねえ。
 落花生は豆界の出世魚、とは誰も言っていないが、その加工状況によって呼び名が変わるところも特徴的である。枝から収穫されて殻付きの状態を「落花生」、その殻から取り出されながらも渋皮がついたままなら「南京豆」と呼ばれ、渋皮を剥かれた瞬間に「ピーナツ」となり、そいつにバターをからませ塩を振ったものは「バタピー」と呼ばれる。そんなたくさんの異名を持つ豆は他にない。
 あれは誰のエッセイだったか忘れてしまったが、ある人はバタピーが好き過ぎるあまり、職場のデスクの引き出しにバタピーを盛った小皿を仕込んでおき、勤務中に小腹が減るとそっと引き出しを開け、スプーンでバタピーをすくってザラザラと口に流し込むという話を書いていた。かなり豆菓子が好きなぼくから見ても、この人はどうかしている。

 豆菓子が好きということは、当たり前だが「豆料理」も好きである。ふらりと入った飲食店に「チリビーンズ」があれば、かなりの高確率で注文する。ミネストローネスープも大好きだし、サイゼリヤに行けばつい「柔らか青豆の温サラダ」を注文してしまう。コンビニでおにぎりを買うときも、無意識にお赤飯を選んでいる自分がいる。一年中おめでたいやつなのだ。
 よく言われる話で、マクドナルドのグラタンコロッケバーガー(通称:グラコロ)が、グラタン部分のホワイトソースとマカロニ、コロッケ部分のパン粉、さらにはそれらを挟むバンズ、これら全部が小麦粉じゃねーか! とツッコまれるが、日本人が日常的に食べている豆腐と油揚げの味噌汁だって、その構成材料は全部大豆なのである。味噌ですらも。
 だけど、誰も味噌汁のことは豆料理とは言わない。言わないけれど、日本人はみんな潜在的に豆料理が好きなのだ。

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とみさわ昭仁
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