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【個人情報関連】解説:個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会 (第1回)

2024年10月2日
個人情報・プライバシー分野チーム
弁護士 森田岳人


個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会

検討会の開催経緯

個人情報保護委員会は、2023年11月から、個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討を開始し、2024年6月に、当該時点における委員会の考え方をまとめた「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(以下「中間整理」という。)を公表しました。中間整理は、その後パブリックコメントに付され、その結果も公表されています
また、中間整理の内容をふまえ、特に意見が割れている
①課徴金制度
②団体による差止請求制度及び被害回復制度

などの論点について、様々なステークホルダーとの間で議論し、具体的な方向性を得ることを目的として、2024年7月から「個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会」(以下「検討会」という。)が開催されています。
検討会では上記論点について激論が交わされることが予想されますので、継続的に議論を追いかけていきたいと思います。

検討会の構成員

ちなみに検討会の構成員は以下のとおりです。

検討会のスケジュール

検討会のスケジュールは以下のとおりです。2024年中には報告書が取りまとめられる予定です。

第2回検討会 資料3「今後の検討の進め方 」

第1回検討会(2024年7月31日開催)

本稿では、2024年7月31日に開かれた第1回検討会の議論を、議事録をもとに解説します。
第1回では、以下の諸団体が意見を述べています。
意見が完全に割れており、対決モードでピリピリした雰囲気が伝わってきます。

  • 主婦連合会

  • 新経済連盟

  • 全国消費者団体連絡会

  • 全国消費生活相談協会

  • 日本IT団体連盟

  • 日本経済団体連合会

①課徴金制度

消費者団体

まず、消費者側の「主婦連合会」「全国消費者団体連絡会」「全国消費生活相談協会」の3団体は、いずれも課徴金制度には賛成の意見です。
その理由は、抑止効果(主婦連合会)、悪質な違反行為を抑止するため(全国消費者団体連絡会)、著しく悪質性の高い事案が続出しているが、やり得が放置され、消費者の被害回復はされておらず、抑止力が必要(全国消費生活相談協会)というものです。

経済団体

一方、経済団体である、「新経済連盟」「日本IT団体連盟」「日本経済団体連合会」は、いずれも課徴金制度については強い反対意見を表明しています。
その理由は、データの利活用が進んでいない状況で課徴金制度が導入されると萎縮効果ばかりもたらしてしまう(新経済連盟)、丁寧に立法事実を検討すべき、サイバー攻撃を受けた人に対して身代金を払う方が課徴金よりも経済的な利益があるという判断をする人たちが出てくるおそれがある(日本IT団体連盟)、課徴金制度の導入の是非を議論する前に、現行の勧告・命令、刑事罰が実効的に機能するように運用を見直すことが先決、課徴金制度導入によって、法目的の達成を著しく阻害し、日本のデジタル競争力が低下の一途を辿っている現状に歯止めがかからず、一層悪化することが想定される(日本経済団体連合会)というものです。

そして、日本経済団体連合会の矛先は個人情報保護委員会にも向きます。
そもそも経済界が導入に反対しているのは、これまでの個人情報保護委員会による執行等の根拠・基準等が極めて不透明で、強い不信感があることが原因と主張しています。
さらに、日本経済団体連合会は、検討会の7名の構成員のうち少なくとも5名が課徴金制度に前向きなスタンスを示していることを問題にし、検討会自体の公平性・中立性を著しく欠くのではないかと指摘しました。

検討会構成員

以上の、経済団体の意見に対しては、構成員から厳しい突っ込みが入っています。
実体的なルールが曖昧でよく分からないとい問題と、実体的なルールに違反した場合にどういう制裁を加えるかという執行の話がごっちゃになって議論されているのではないか(中川構成員)
課徴金と同じ発想の制度は日本においてもいくらでも例はある。非常に単純な人間心理で、損することで次から違反を抑止する。結局なぜ法律違反が明らかである場合に課徴金を入れてはいけないのかという理由はどなたも述べられていない。(中川構成員)
破産者マップのような悪質な事例に対して課徴金をかけるということは、絶対に必要だと思っている。このような課徴金がなぜ努力をしている優良な企業の萎縮につながるのか、ユーザーとしては理解ができない。(長田構成員)
課徴金により萎縮効果が生じるというなら、どのような行為に対して萎縮が生じるのか、生じうるのかのエビデンスが必要。(山本構成員)

②団体による差止請求制度及び被害回復制度

消費者団体

消費者側の3団体は、法の規定に違反する個人情報の取扱いに対する抑止力を強化し、また、本人に生じた被害の回復の実効性を高めるため、適格消費者団体を念頭に、団体による差止請求制度や被害回復制度の枠組みの導入を求めています。

経済団体

一方、新経済連盟と日本経済団体連合会は、団体による差止請求や被害回復請求の制度の導入には強く反対しています。
その理由は、以下のとおりです。
団体による差止請求について、個人情報の分野については、「法に違反する不当な行為」の外形的な判断が困難であり、事実関係の詳細な調査や専門性も求められるところ、団体による差止請求制度を導入した場合、実際は当該事業者とは関係のない事象であっても疑いをかけられて差止請求を想定した申し入れ等が発生するなど、事業活動に大きな委縮効果を及ぼす懸念がある。(新経済連盟)
被害回復請求制度については、事業者の過失による漏えい等事案の公表をきっかけに、被害と認識していない消費者も含めて団体が多額の賠償を請求することが可能になると、事業者への委縮効果は計り知れない。(新経済連盟)
適格消費者団体の性質等によって、企業への影響度合いが計り知れない中、適格消費者団体による上記制度を導入することは事業者に対する委縮効果を惹起。(日本経済団体連合会)

なお、日本IT団体連盟は、引き続き丁寧な議論が必要と主張しているものの、強い反対意見までは述べていません。

検討会構成員

経済団体の意見については、やはり構成員からの厳しい突っ込みが入っています。

個人情報保護委員会の思考の根拠、基準が不明確で強い不信感があるから導入に反対というが、個人情報保護委員会に対する信頼感がないのであれば、個人情報保護委員会の法執行に代わって別の主体が法の実効性を確保する機能を果たす団体訴訟については、賛同してよいのではないか。(森構成員)
適格消費者団体の性質によって多く提訴されるとのことだが、適格消費者団体による差止請求・被害回復請求は極めて低調である。(森構成員)
適切な安全措置を講じていれば漏えいの訴訟で負けることはないので、心配する必要はない。(森構成員)
特商法や消契法の適格消費者団体が、優良でちゃんとしている企業に対して大きなダメージを与えるような事実があるのか、この仕組みができたときも経団連から濫訴濫訴と言われたけど、現実にその心配はなかったのではないか。(長田構成員)

第1回検討会後のフォロー

以上のとおり第1回検討会では激論が交わされたわけですが、その際に消費者側、経済団体側、構成員からでた質問については、後日、それぞれの立場から丁寧な回答がされています
対立が激しい論点ではありますが、丁寧に、かつ透明性をもって議論が進んでいるように見受けられます。
第2回以降の議論も追いかけていきます。


弁護士 森田岳人(松田綜合法律事務所 パートナー)
2004年10月東京弁護士会登録。松田総合法律事務所入所。2016年4月より同事務所パートナー。2021年1月より名古屋大学未来社会創造機構 客員准教授。東京弁護士会AI研究部所属。
最近は、個人情報・プライバシー関連法務、AI・データ関連法務、自動運転・モビリティサービス関連法務に、IT関連法務に注力。
「個人情報保護委員会の動向」(共同執筆/ジュリスト 2023年10月号(No.1589) | 有斐閣)、「与信AIに法規制はなされるか ―差別・公平性の観点から―」(共同執筆/「金融法務事情」 2022年6月10日号)、「AIプロファイリングの法律問題──AI時代の個人情報・プライバシー」(共著/商事法務)ほか。


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