今日の天使(2)
単調な日々の中で、鬱々とした時間の波が襲ってくることがある。そんなとき、ふと微笑みかけてくれる今日の天使。
今日の天使『特売麦茶』
散歩にでも出れば、険悪な空気も解消できるだろう。そんな期待は裏切られ、二人は微妙な距離を歩いていた。
不機嫌なのは昨日眠れなかったせいだ。頭が冴えて眠れない。それは隣の部屋の騒音への怒りと、寝る前に飲んだ濃い緑茶のせいかもしれない。
「麦茶買ってくる」
空気の悪い部屋に戻りたくない。それに、麦茶を切らしていた。
寝る前に緑茶を飲む羽目になったのはそのせいだ。
踵を返し、ひとりスーパーマーケットへ向かう。
店内をあてもなくうろうろ。それだけで少し心がまぎれた。そこは常連のおばちゃんたちの柔らかいオーラに満ちていた。
彼方に青い山が見える。ブルーマウンテンではなく、麦茶のパックの山だった。
「特売 100円 お一人様2点限り」
いつも198円のやつだ!ありえん。安い。
パッケージの笑福亭鶴瓶が微笑みかけてくれる。
私も彼に微笑みかけた。
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一人の人間の一日には、必ず一人、「その日の天使」がついている。
これは中島らも「その日の天使」へのオマージュです。