今日の天使(4)
単調な日々の中で、鬱々とした時間の波が襲ってくることがある。そんなとき、ふと微笑みかけてくれる今日の天使。
今日の天使『風の子』
頭の中にはタスクがたまり、部屋とパソコンの中にはゴミがたまる。
八方ふさがりだ。どこから手を付けていいかわからない。すべてを捨ててやり直したい。だけどすべてをあきらめて放置する。
人も苦手だ。人と関わらなければ関わらないほど、苦手意識は蓄積していく。
台風が来る。今度のは大きいらしい。とは言えいつものように大げさに言っているだけだろう。その甘い読みはフラグだった。
やつは駆け抜けていった。ベランダの仕切りを突き破り、ベランダスリッパをかっさらって。
「非常時にはここを突き破って避難してください」
マンションの隣のベランダとの間に設置された仕切り。彼は常々そう訴えかけていた。私を突き破って逃げてくれと。なんと自己犠牲的な。しかしそれは我々人間に向かってであって、風の子、おまえにではない。
彼の破片が散らばっている。それを弔いにベランダに出る。
隣の住人と目が合う。目隠しの役目を果たしてくれていた彼はもういない。
「凄かったですね、今回の台風」
「ええ、びっくりしましたね」
雑談と微笑みをかわし、破片を拾う。
八方ふさがりだった心に風が通った。
他のゴミもタスクも片付けてしまおう。どうせ本当に大事なのはひと握りだ。
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一人の人間の一日には、必ず一人、「その日の天使」がついている。
これは中島らも「その日の天使」へのオマージュです。