(後編)8年ぶりの韓国で結婚式友人代表スピーチ&歌を披露するというハードなイベントを乗り越えた話
高速鉄道を利用してソウル駅に着いた後は友人からの案内を頼りに、ホテルの最寄り駅であるオリュドン(梧柳洞)駅へと向かった。
ところで、韓国の駅名を覚えるのは大変だなと思っていたが、固有名詞とはいえ表記には漢字(正確には中国語)とカタカナがあり興味深かった。途中で通り過ぎた乗り換え列車が比較的多い「クロ」駅は「九老」と書くようだ。
9人の老人が長寿を享受したという伝説から来たらしい。中国は唐の時代の白居易を含む9人の老人も画題でよく取り上げられると知り関心する。
私は高校時代世界史が苦手だったが、それはカタカナで表記される言葉が意味のない音の連なりに感じていたからだったことを思い出す。実際は、音にも深い意味や土地の歴史の足跡が刻むこまれていることを改めて感じた。
さて、ソウル駅での話に戻す。乗ったことのない駅で正しい列車に乗るのは緊張する。Naver mapというアプリで乗り換えについては確認したが心許ない。近くにいたご婦人2人に声を掛けた。
「あの、すみません。こんにちは、日本から来たのですが、オリュドン駅に行きたいのですがここで待っていればいいですか?」
(저기요, 안녕하세요. 저희 일본에서 왔는데, 류동역에 가고 싶은데 여기서 기다리고 있으면 괜찮습니까?)
偶然そちらの方面に行くようで、「そうですよ、ここで待ってればあと5分で着きますよ」と丁寧に教えてくださった。見知らぬ外国人に親切にしてくれてありがたい。
無事、駅に到着した。降りる際に先ほどのご婦人2人と目が合った。先ほどはありがとうございました、と伝えると笑顔で「いいのよ」と返してくれた。
どれだけ技術が発達し、異国の地でアプリを駆使して目的地に辿り着けたとしても、こうした何気ないやり取りと、言葉が通じる喜びは決して置き換えることができないなと思った。達成感と感謝の気持ちでなんだか胸がいっぱいになった。
ホテルのチェックインを終える。エレベーターを上がりダブルベッドの30平米ほどある広々とした部屋に足を踏み入れる。
朝6時に起床して16時にようやくホテルに着いたせいかベッドで横になる。
さて、結婚式当日。
韓国の結婚式は日本と違って一日複数組が挙式を行うため、会場に到着した時間にはまだ前の組が式を挙げているのが見える。12時前である。
少し式場をぶらぶらして12時30分くらいになると、グラデーションのように友人の関係者たちが会場に入ってくる。新婦は広島時代の友人で3年ぶりに会うことになるのだが、別室でウェディングフォトを大学時代の友人や親戚と写真撮影を行っていた。
個別に写真を撮る時間はこの時間しかないようで、式が始まる前にと、多くの人がウェディングドレスに身を包んだ新婦の周りで写真を撮っていた。華やかな雰囲気で楽しくなってきた。久々の挨拶を済ませてにこやかに会話を交わす。
この時点で挙式まであと15分だがなんとまだリハーサルの話を聞いていなかった。
そして来場客が300人程度来ていることを知る。これは、緊張してきた。
ようやく新郎が声を掛けてきて、リハーサルが始まった。式場の方が説明をしてくれるのだが段取りがテキパキしすぎていてとても速い。私のリスニング能力では聴き取れないことが多かったが隣に新郎がいてくれたおかげで流れは理解できた。
実は今回の歌、新郎が途中で歌い出すというサプライズがある。私が会場に向けて歌う中、目の前に新郎新婦が立っているのだが、客席に背を向けた新郎の手にはマイクがあり、途中から歌い出す、という流れである。
しかし、このサプライズ、お決まりのパターンらしくみんな驚きはしないという。やや切ない。
さて、ぞろぞろと会場に人が入ってくる。目視したところ200人はいそうだ。挙式の流れはスムーズでものの20分くらいで新郎新婦の両親への挨拶などが行われていった。
あっという間に出番だ。
スピーチから始まる。
アンニョンハセヨ!ヨロブン!
(みなさんこんにちは!)
この後のセリフがあるのだが、当たり前のようにセリフが飛んでしまった。終わった。どうしようもないので客席を見回す。
と思ったら、良い感じの間合いで拍手が起きた。ラッキーである。このタイミングで見事に次の言葉を思い出すことができた。
新郎と新婦との出会いについて話し、スピーチが終わる。
「今日は2人のために歌を準備しました。」
イントロが流れて仕舞えばあとはいつも通り歌うだけだと割り切った。
クデラン(그대랑)「 君と」という歌、2人でなら煮えたぎる窯の中へも飛び込んでいける、そんな結婚式にぴったりの歌詞だ。
サビに入り新郎の歌が私の声と重なる。
会場には合いの手が加わり、終盤に行くにつれ歓声も増えてきた。
最後のサビ、震えかけた声で歌い切った。
満場の拍手。1ヶ月前から準備した甲斐あってか、歌詞を間違えることなく終えることができた。
その後ビュッフェ会場で、たくさんの方から声を掛けてもらえた。良い声だったよ、泣いてしまったよ、いつから音楽をやってるの、韓国語のスピーチよかったよ、こんな素敵な言葉を10人以上からかけてもらった。本当に来て良かったと思えた。
8年ぶりの韓国は、人の優しさと幸せな門出に触れる貴重な、思い出深いものとなった。また訪れる日が来ることと、新郎新婦2人の幸せを願いたい。
寒波の到来も気にならないくらい心が温まる1月末の旅だった。次に来るときは、もっと歌も韓国語も磨いてお世話になった方々に恩返しをしたいと思う。
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