「補強トレーニングは競技に特定すべき」の本質を誤解していない?
ただ競技の練習をするだけでは、限度がある。さらなるパフォーマンスの向上を目指すためには、競技練習で鍛えられない筋力の強化が必要になってくる。このように最近は様々な競技選手が筋トレに取り組むようになったことが筋力を向上させることによって競技力が上がるという考えが根底にある。しかし、補強運動の話をすると、競技に特化した、つまり競技の動きに近いものでなければならないという誤解が多くされている。競技の動きを真似た動きでなければ筋トレによる体力向上が競技に生かされないという考えは,
はっきりいって、過ちだ。
なぜ補強運動が必要か
技術練習では、同じ動きを繰り返す。つまり、動きの幅が決まっていて可動域が限定しているわけだ。その範囲においての動きが得意になる一方で、いつも同じ狭い可動域の中で動くことで関節が硬くなったり、より広い可動域での動きをすることができない。競技ではいつもこの可動域で動いているからこれが適切だと思われがちだが、本当はそうなのか。適切だと思い込むことで、可動域を広げたところでの動きが実際に技術のレベルアップにつながるという可能性を拒んでいる。
もう一つ、補強運動が重要なのは、可動域と同様で、技術練習では負荷のかかるところが限定しているので体で強いところと弱いところが出てきてインバランスが生じやすいから体をバランスを保つために補強運動が必要だ。
特に主要筋肉の反対にある拮抗筋に当たる筋肉については、鍛えないままにしておくと、主要筋との筋力の差が大きくなりケガのリスクが高くなってしまう。補強運動で筋肉のバランスを保つことができる。最後に、当たり前だが、体力を向上することが力発揮を良くしパフォーマンス向上につながる。
なぜ、競技の動きに特定した補強運動のみが良くないのか
先述したように競技の動きは限定的なもので、体全体が平等に鍛えられないからインバランスが生じやすい。技術練習に加えて補強運動で競技の動きを真似た内容だけ実施すれば、パフォーマンス向上に対して改善する必要のある課題が改善できないだけではなく、ケガのリスクが高くなってしまう。ケガのリスクについては、同じ可動域での動きを反復的に繰り返すことでケガのリスクが上がるだけではなく、競技の動きに似せるためにスクワットなどの運動の動きを変えてやると不自然な動きになり変な負荷のかけ方によるケガのリスクが増大してしまう。補強運動の目的は技術練習で鍛えられないものを鍛えることにあるので、だからこそ補強運動の内容は技術練習と違うものになるべきだ。
とはいえ、実は補強運動が競技の技術に特化したもの
補強運動を技術に特定したものにする必要はないという話をしたけれど、だからといって競技とまったく違うことをすべきというものではない。矛盾のように聞こえるかもしれないが、特定すべき部分は、動きではなく、課題だ。マラソン選手は走るときに走りの動作で短いスクワットを繰り返すから補強運動で同じような短いスクワットをウエイトによる負荷をかけて実施すればいいというわけではない。それは良い補強運動にはならない。マラソン選手は、短いスクワットを数多く繰り返す走り込みの練習によって股関節の可動域が狭くなってこれがストライドを狭め走るスピードを上げるうえで問題になっている、という課題があるとしよう。競技の練習でいつも股関節の狭い可動域の中でしか動かないから股関節の可動域の柔軟性の向上は、競技の練習だけでは解決できないということになる。課題を克服して股関節の可動域を広げるためには、競技練習と別で補強運動を実施する必要がある。それで、補強運動では、深いところまでスクワットするという内容のものをすることで股関節の可動域が広くなるという効果が得られる。この意味では、補強運動は、競技における課題を克服することを目的としているので特定しているといえる。つまり、実施する内容が特定するのではなく、その内容の目的が特定する、ということだ。
体力と技術を結び付ける必要がある
補強運動を実施したことによって体力が向上する。しかし、それだけでは競技のパフォーマンスが上がるわけではない。なぜなら、力加減が変わっているはずだから、いつも通りの力の入れ具合で競技をしたらパフォーマンスが上がるどころか悪くなる可能性があるから。たとえば、ゴルフでは、体力が向上したことによって飛行距離が長くなるはずだが、短い距離にボールを飛ばすために入れないといけない力が少なくなっているはずだ。だからいつも通りの力加減でボールを打ったら飛びすぎる可能性がある。ここを直して体力向上をパフォーマンス向上につなげるためには、体力が向上したあとに体力と技術を統合するように技術を身に付け直す必要がある。これは、単に技術練習だけ十分だし、もっというと体力トレーニングをしながら技術の練習を継続するはずなので実は同時進行で体力向上と技術の身に付け直す練習がされていて特別な練習時期を設ける必要はないが、体力が向上したからといってそのまま競技パフォーマンスが上がるというものではない、ということだけを覚えておいていただければと思う。