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『明けないで夜』 書籍ミニ感想#3

燃え殻著『明けないで夜』を寝る前に読む。燃え殻さんのエッセイは日中というよりは夜にのんびり読みたいような感じがする。
日常に起きる事柄や誰かとの関係性ややりとり、忘れられない光景や言葉は日中というよりは陽が沈んでから、世界が暗闇に染まっていくと自分の中に蘇ってきたり、不意に現れたりする。そんな読者の孤独と寄り添ってくれるエッセイになっていると感じる。
燃え殻さん自体が体験したこと、忘れられないことが綴られているのに、どこか他人事ではないように思えるのは彼の視線や人との接し方や距離が文章として伝わってくることも大きいのだと思う。
どこか頼りないような、ずっと抱えてきたものが決して晴れることはないような、どうしてこんなことになってしまったんだというような諦めに似たような、そんなものもエッセイから感じられるが、それでも時にはどこかの温泉街に仕事をブッチしてでも逃亡して、あるいは馴染みの飲食店やバー、知り合いに会うことのない場所へ燃え殻さんは逃避行する。そうやって日々を乗り越えていく、それを読んだ読者は逃げられなくてしんどくなって、ギリギリのところでいる人には逃げていいんだという希望にすらなっていく。
ずっと逃げ続けることはできないけど、死んでしまうかもしれないほど追い詰められていたら逃げたほうがいい、誰かに迷惑はかけるとしても誰もが誰かに迷惑をかけて生きている。もちろん、そういう時に「仕方ないな」と言ってくれる人がそばにいればいいのだけど、そんな人がいてくれる状況なら逃げたいと思うほど追い詰められないかもしれない、だから、背中を押されるのだろうし、いざとなったら「ここから」出ていければいいんだと思えるのだろう。そういう優しさと夜に忍び込むような自分を消したいと思う時に、孤独だなって感じる時に寄り添ってくれるのが燃え殻さんのエッセイだと思う。

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