『すばらしき世界』『聖なる犯罪者』
1月12日
西川美和監督『すばらしき世界』試写を。今作では殺人を犯し、服役していた三上(役所広司)が戻ってきた世界でどう生きていくか、人と関わるのかが描かれる。西川監督作品はずっと観てきたが、確実に泣かせそうとしている箇所がいくつかあった。今までそんな感じはしなかったけど、ワーナーだしやり方を少し変えたのかな。まあ、普通に泣いた。条件反射だから仕方ない。
吉澤(長澤まさみ)のシーンは多くないものの、彼女はテレビプロデューサーとして、あることで逃げ出したディレクター津乃田(仲野太賀)にとても大事な事を言う。津乃田は三上を取材対象としてカメラで撮影しているわけだが、映画やドラマに出演する俳優とドキュメンタリーの被写体はまるで違う。
カメラで撮ることは暴力性をはらむ、とくに後者の場合は撮る側がしっかり意識して責任の所在をはっきりしてないと暴力性はどんどん増していく。だからこそ、津乃田は吉澤に大事な事を言われたあと、三上との関わり方が嫌でも変化していく。
三上は仕事に就こうとしても、なかなかうまくいかない。わずかだが、少しずつ心を許せる他人が増えてくる。それが居場所になるし、人が生きていくためには重要なことであり、結局、人がやり直せるかどうかのベースは居場所があるかどうかなんだろう。
ただ、今の世界では間違いが許されない。自己責任という言葉によって、冒険をしにくい世の中になり、一度やらかしたことはネットに刻まれる。昔よりも失敗からは逃げ切れなくなった。
三上が当たり前の生活をしたい、堅気として生きたいと願う思いもなかなかうまくはいかない。それは生きづらさを感じる人たちに共感されるはず。
残念なことは今の日本では、檻の中に入るべき為政者たちが捕まらないまま、のうのうと偉そうにしている。その皮肉のようにもこの映画は見えなくもない。
あと、このところ、仲野太賀出演作はハズレがない、というか、彼の時代が来てるんだろうな、と思った。
1月21日
PARCOにあるホワイトシネクイントにて、「週刊ポスト」連載「予告編妄想かわら版」で取り上げた『聖なる犯罪者』を鑑賞。
パッと見はトレスポ×聖職者な今作。主人公のダニエルが少年院から仮釈放なのかな、仮退所だっけな、をしたらすぐにクラブ行って酒にタバコにドラッグやって、そこのトイレで心理学専攻している大学生の女の子とセックスしてるっていう、少年院出る前に神父に酒やタバコは外出てもやるなよって言われて、はいって言ってて、すぐそれしてて、いやあ、俗物で欲望に忠実だなって思った。それは人間らしい、でも、彼には信仰心は確かにあって、物語はそれ故に展開していくことになるのだけど。
実話を基にしているのだが、日本映画で近いのは西川美和監督『ディアドクター』。嘘をついて、そのまま嘘の自分を、なりたかった何かを演じ続ける。最後辺りはキリスト教圏内だともっと深いとこで理解できるんだろうな。かなり好きな作品でした。
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