『燃ゆる女の肖像』『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』『私をくいとめて』
12月4日
『燃ゆる女の肖像』をル・シネマで鑑賞。ギリシア神話の「オルフェウス」と「エウリュディケ」の話が軸にあった。黄泉の国に妻の「エウリュディケ」を連れ戻しにいった夫の「オルフェウス」はハデスに地上に出るまで振り向いてはならないと言われてしまったものの、彼は妻の方を振り向いてしまったことで彼女が黄泉の国に吸い込まれるように消えてしまった、という話が主人公のふたりの女性にあり、終盤にはこの「振り向く」という行為が大きな意志を感じさせるものとして描かれていた。ただ、途中でウトウトしてしまったのでうまく感情移入ができなかった。
12月13日
『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』をル・シネマにて鑑賞。
ニュートンの被写体になった自分との彼との思い出について、モデルになった女性たちが語っていくインタビューがすごくいい。美しく気高い写真たちについて、知性とユーモアで写真の力やフェミニズムや差別について自分の言葉で話をしていて、とても魅力的だった。彼の妻でありフォトグラファーであるジェーンが撮った夫もすごくいい。まったくこのヘルムート・ニュートンについて知らなかったけど、こんなにカッコいい写真を撮っていた人がいたのか、写真集とか買ってみようかな。
12月24日
大九明子監督×綿矢りさ原作×能年玲奈主演『私をくいとめて』をヒューマントラスト渋谷で。
本名なのに使えずに、「のん」って名乗るしかないのってすごいよね。『千と千尋の神隠し』みたいに名前を奪われている状況がずっと続いている。芸能界というのが博士さん曰く、あの世みたいなものだったら、本名さえも奪われるのかもしれないよなとは思わなくもないし、それがトンネルの向こう側であっても、おかしいことだけどね、と思うので「のん」ではなく、能年玲奈とあえて書いておく。
能年演じる主人公のみつ子はおひとりさまが上手になっている女性であり、時折家にやってきて料理をお裾分けしてもらう年下の多田くん(林遣都)に恋心を抱いているが、長年のひとりに慣れている彼女は中々前に進むことができない。
おひとりさまの先輩でもあり、仲の良いノゾミさん(臼田あさ美)やバリバリ仕事ができる澤田(片桐はいり)などとの交流や関係性もあり、仕事先は心地よいものとなっている。だが、昔はセクハラ男性上司がいたことものちにわかる。そんなみつ子は部屋や土日にひとりで出かけると誰かと話をしている、その相手が脳内の「A」(声は中村倫也)という存在で、所謂自問自答のような形になっている。そのやりとりが物語を進めていくが、大学の友達の皐月(橋本愛)が結婚して住んでいるイタリアに行った際などには消えたりしていた。
みつ子がノゾミにもらった件で温泉に行った際に行われていたお笑いのイベントには「THE W」で優勝した吉住が出ており、彼女に絡んでくる男性客を見て、彼女はかつてのセクハラ上司のことを思い出すなどのシーンがある。吉住にエールを送るセリフもあり、彼女は「THE W」の優勝者となった現実もあるので映画の世界と現実が繋がったような気持ちになる。
みつ子は次第に多田くんとの距離が深まっていくが、彼女の中にある不安やこれまでのことなどが爆発するようなシーンがあり、感情が不安定な人に見えなくもないのだが、人間が内面に抱えていることとしては共感できるし、そういうものを人は他人に見せていないだけなんだよなとも思う。能年玲奈の表情もいいし、感情のアップダウンも含めて、好きな映画だった。
また、このところ『細野晴臣と彼らの時代』を読んでいたのだけど、映画を見るまでYMOが散開して、元はっぴいえんどの面々が松本隆さんに呼び寄せられるように歌謡曲の世界で再結成したみたいなところまで読んでいた。映画を観たら、大滝詠一さんの『君は天然色』が主題歌になっていて劇中でも流れた。そして朝ドラ『あまちゃん』の能年玲奈と橋本愛コンビが再び共演して笑っていたから、なんだかうれしくなってしまった。映画とは関係ないんだけど。