メモあるいはいつか書く平成論のための
鈴木光司著『リングシリーズ』、中でもこの二週間ばかり『ループ』について考えていた。それは自分が書いていたものを趣旨替えしてエンタメ方向にしようと思った時に、これって『ループ』的なことなんじゃないかと思ったからだ。で、二十年振りに『ループ』読むぞ!ついでに三部作である前の『リング』『らせん』も読もうと新刊で買ってきた。
実際はリングシリーズは『バースデイ』『エス』『タイド』があり六冊。『バースデイ』は発売時に読んだ記憶がある。
高校生の時にリアルタイムで『リング』『らせん』の映画を観た。三部作完結の『ループ』もその頃読んだが、小説読んでビックリしたはじめての作品だったかもしれない。前二作を否定し、ある種の叙述トリックのため映像化が無理だったから。した瞬間にネタバレする危険性があるから。
映画版『リング』『らせん』では松嶋菜々子が主人公になっている。が、小説では元旦那である真田広之演じる高山が主人公だった。原作者の鈴木さんはデビュー前は奥さんが働きに出て、自分は主夫をしながら子育てをして、デビューに向けて執筆し、『リング』で横溝正史賞最終に残るが落ちて、日本ファンタジーノベル大賞を『楽園』で受賞しデビュー、『リング』もそれに合わせて1991年に単行本が出る。のちに1993年文庫化、ドラマや映画になりシリーズ累計800万部を越えているらしい。近年の小説で言えばトップクラスの売り上げだ。
鈴木さんは体を鍛えるのが趣味でムキムキらしいと聞いた記憶がある。当初というか小説『リングシリーズ』は高山の物語、つまり父性をめぐる物語だった。鈴木さん自身の投影だったはずだ。
でも、みんなもう『リング』と言えば貞子になっていて、貞子というキャラクターは平成の中頃以降には完全に定着してしまった。ましてや映画版では松嶋菜々子が演じた子どもを守るという母性の物語に書き換えられた。しかし、そのおかげで大ヒットし、貞子の呪いというリング・ウイルスは広がり続けた。
父性はもう必要ではない、とすら言えたのか、マッチョイズムは成り立たないと映画のスタッフたちが見通したのか。まあ、人気出てきた松嶋菜々子を主役にしたい!という制作サイドの思惑が時代に合ってしまっただけだと思う。でも、ヒットするような作品は予見しちゃうんでそういうもんだと思う。
「平成」とは「昭和」の幽霊や亡霊みたいなものだったと僕はこのところ人に言ったり書いていた。貞子ってそのどちらでもあり、呪いはインターネットが普及しSNSが拡散したものそのものに思えてくる。だから、貞子は消えないのだ。とすら言える。インターネット以前に書かれてるから予見つうことで。
ゾンビ映画がゼロ年代以降世界中で続々と作られヒットしたのは、新自由主義が失敗し経済的にももうダメぽなのに、それをマジで認めると世界経済が破綻し全人類終了するので死んでるはずなのに生きてる、でも脳ミソも心もなくなっても、まだ生きてる連中を襲い自分達と同じにしてしまおう、消費に従順なだけの存在がほしい、いや、もはや世界はそうなっているのだというメタファだと考えることができる。
1991年6月に発売された『リング』、そしてシリーズ、映像化されたことでリングウイルスは貞子の時代は「平成」が終わる時にすら続いている。「平成」の約三分の二は貞子の時代だったとも言える。貞子は堤幸彦作品の『SPEC』で言えばSPECホルダーであり、『トリック』における山田奈緒子である(ちなみに山田奈緒子演じた仲間由紀恵は『リング0~バースデイ~』で貞子役)。SPECホルダーは特殊な能力を持つ。そのために国家権力に存在を消されている。異なる者たち、一般的ではない者たちを排除し続ける国家と国民たちに彼らは牙をむく。それが続編『SICK'S』においては文字通り病とされる。
貞子が貞子という呪い、リングウイルスを広げ世間を恨むことになった理由は、彼女をニセモノだと言った人や世間であり、彼女は殺されたからだ。『トリック』はマジシャンである山田奈緒子が自称超能力たちのトリックを暴くという話だった。だが、山田奈緒子自身が超能力者だったことがシリーズが進む度に明かされていく。フェイクだらけになっていく世界で、山田奈緒子は本物としての立場に立たされてしまう、それが『SPEC』に引き継がれ、本物(と信じる)たちの戦いが起きる。故に堤さんはひたすらにギャグを小ネタをこれでもか入れ続けるハメになる。
「平成」論のひとつとして鈴木光司「リングシリーズ」は実は重要なのでは? ましてや小説にしても800万部を超えているのにきちんと語られていない。たぶん、語られない。『ループ』は父性が前面に出ていたが、映像化が難しくみんなに忘れられている。というかなかったことにされている。貞子≒リングウイルスは生みの親すらも飲み込んでしまったように見える。
「平成」とは貞子という呪いとともにあった。
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