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美大卒の私が、美術1年生の知人と交換アートにチャレンジした話


子供のころ、自分は天才だと思っていました。


絵を描いたりものをつくったりするのが好きで、つくると周りの人がすごく褒めてくれたからです。


でも、ものをつくる道を目指せば目指すほど、次第にその自信はへし折られていくことになります。

美術系の高校に入ったら、絵が上手い子なんてたくさんいるのです。
美術予備校に通ったら、デッサンや色彩構成は上手い順に並べられてしまうのです。
美大に入学したら、徹夜してつくった作品も評価されなかったりするのです。

でもへし折られるたびに、悔しい!と思ってがんばるんですよね。
そんな中でも好きだからつくることを続けて、もっとうまくなりたいと思い続けてきたのだと思います。

おそらく同じ界隈の人は似たような経験をされてるのではないかと思います。
(あまり内容を知らないけれどブルーピリオドも似たような話なのかな?左利きのエレンでは主人公のデザイナーの男の子にめっちゃ共感しましたが)


そうしてなんやかんや武蔵野美術大学を卒業してデザイナーをやっている私の元に、最近知り合ったコピーライターの吉田さんから連絡がきました。


吉田さんは石川県在住ですが、同じ少女漫画が好きなことが判明したりなど、話が合ってすぐに意気投合した仲でした。


「まなさん、ちょっとパンダ描いてくれます?」


「?????」


突然の謎のお願いでしたが、最近iPadで絵を描いたりしていたので、よくわからないけど送ってみようと思い、フワフワしたパンダを描いてみました。

白黒だったのでけっこうすぐ描けました。


この画像を送ってみると、


「決まり!採用!」

と返事がありました。何かに採用されたようです。


よくよく話を聞いてみると
「今年は絵を描いてみたい。アートをつくってみることで仕事の幅を広げられないかと考えている」
「でも美的センスがないので、まずは美大出身の私の力を借りてみたい」

とのこと。
私が高校時代に油絵を描いていたという話も覚えてくれていたようです。


なんかおもしろそうなので、この話にのってみることにしました。


どういう方法がいいか話し合ったところ、東京と石川でキャンパスを郵送して送りあう「交換日記」ならぬ「交換アート」をやってみるのがおもしろそうだという話に落ち着きました。


ここからは私たちの交換アートの記録です。


2022年6月19日


私がキャンバスを用意することになったため、気合いを入れて「よし、世界堂に買いに行くぞ!」と新宿に出発(世界堂=画材屋。新宿の店舗はでかくて品揃えが豊富。ハチクロにも出てきたはず!)。


でも新宿に着いたら暑すぎて、世界堂まで歩くのが億劫になってしまいました。。。
昔フライングタイガーでよくキャンバスを買っていたことを思い出し、急遽、駅からすぐのフライングタイガーで購入!


軽いしけっこういい感じ


帰宅後、すぐに制作にとりかかりました。


美術1年生の吉田さんに、どういう状態でキャンバスを渡すのが正解なのか…
難しいなと思いましたが、

「いや、アートに正解はない!!」


そう思い、あまり深く考えず、昔買って一番たくさん余っていたピンクと白の絵の具をとにかくもりもりのせてみました。


吉田さんが布地のキャンバスが初めてということで、このキャンバスの生地の感じとかも知ってほしいと思い、塗らない部分も半分くらい残した状態で吉田さんにお送りすることにしました。


いや、半分以上いっちゃってるな…


吉田さん、これみてどう思ったかな…と少し不安になりながら次のターンを待つことにしました。



2022年6月24日


私は焦っていました。
吉田さんから夜に届くように発送してもらったのに、その日の仕事が撮影で、時間が押してしまっていたからでした。


終わったと同時にダッシュで帰ってなんとかその日に受け取ることができ、わくわく、どきどきした気持ちで梱包を開封。


おおおおお!!!


立体の恐竜と岩?山?がついている…!!!!
きっと金箔は石川在住だからこその表現。


キャンバスに立体をはりつける発想があまりなかったので、すごい…と感動。


吉田さん、全然センスなくないやん…!!

しかもピンクの補色の緑を使ってくるなんて…上級者じゃね…?と思う私。

これは試されている…よし、それなら…!


そう、夜をつくってみたのです!


というか、ピンクと青のグラデーションっぽくして、夕方か朝方っぽい空に見えてもいいし、昼と夜が同時に存在する世界に見えても、どちらでもいいなと思ったのでした。


白い布地の部分をほとんど消してしまったけれど、吉田さん大丈夫かしら…と若干の不安も少し抱えながら、石川へと発送。



2022年6月27日


さあ、吉田さんはどう出たのか…?

開封!


お!岩場ができている!!

鳥も飛んでいる!!足跡みたいなものもついている!!


紫の丸い貼り付けてある紙が私には海辺にある大きい石に見えました。
この恐竜は海の近くにいるのかもしれない。そう思いました。


そこで閃きました。


海も陸も作れば良いのではないか…?


と思うと、どんどんこれも描いたらいいんじゃないか、というものがでてきて止まらなくなってしまい…


あれ、書きすぎたかな…?とまたまた少し不安になる私。


吉田さんが異素材を貼り付けてきてくれるのがめっちゃいいなと思い、自分もやりたくなり、キラキラのマニキュアで雲を描いてみたり、星を描いてみたり。
梱包に使っていた六花亭のマスキングテープを吉田さんが「いいね!」と言ってくれていたので、この世界の植物として貼り付けてみました。


ちなみに、海の部分は色鉛筆。
(思ったより色がのらなかった…)


描きすぎてしまったけれど、予定していた日数的に次で吉田さんが描くのはラスト。


「今回やりすぎかな?くらいやっちゃったのですが、遠慮せずに、私がつくったものが見えなくなってもいいので、どんどんやっちゃってください!!」とお伝えしました。


吉田さんからは「めっちゃ楽しみです!」「どんぱちします!」との返信だったので、ワクワクしながらラストターンを待つことにしました。



2022年7月2日


今日でこのアートが終わる。そう考えると少し寂しい気持ちになっていました。

午前中に届くヤマトの配達を待ち、無事に受け取って、ワクワク、ソワソワしながら開封。

封筒も何回か使い回したのでボロボロに…


あれ…?

ハッピーバースデー!?


私の誕生日は11月なのに、謎にカラフルなバースデーカードが同封されていて?と思いましたが、聞いてみると私っぽい感じだったので送ってくれたとのこと。


うれしい。


角度によって絵が変わるやつ好きなんですよね。どうしてわかったんだろう。
カラフルでかわいいカード、ありがとうございます!!


さて、絵の方はどうなったのか。


プチプチを解きます。


おおおお!!

世界に太陽が生まれている!!!

そして星がビーズで立体的になってる!!!

拡大するとこんな感じ。かわいい。


野菜のハンコなんて存在を忘れてしまっていたし、ビーズを作品に貼り付けるのもめっちゃいいな。自分でもやってみたい。


と、ぐるぐるキャンバスを眺めているうちに、さらに「おおっ!?」という点が。



裏にもある!!!

新聞の記事。内容を読んでみると、たしかにこの絵に関連してそう。


裏に貼るという発想も今まで全く考えたことがなかったので、めっちゃおもしろいなと思いました(表面にあまり描く場所がなかったからかもですが…)。

展示されるのは表面だから、なかなか裏面に何かするという人はなかなかいなそうな気がします。



そして側面には。


なるほど、側面に署名!!
署名のことをすっかり忘れていたので、私の書く部分をあけてくれていて、ほっこり嬉しい気持ちになりました。
(私の名前があとでもよかったのに…!)


もうこれで終わりでもいいのではないかとも思ったけれど、最後にこの作品をさらに良いものにするにはどうしたらいいか、考えました。


・この恐竜がいる世界を、さみしい世界じゃなくて楽しい世界にしたい。
・この交換アートの思い出をどこかに入れたい。


どうしようかな…


悩んだ結果、完成させた作品がこちらです…!!!!!!!



この交換アートの制作がすごく楽しかったので、恐竜がひとりぼっちでさみしそうなのは違う気がして、他の恐竜も加えました。
(とはいえ、片方を肉食獣にしてしまったため、もう1匹はきっと食べられそうになっているのですが…)


あとは陸をつくったことで吉田さんの描いた足跡が消えてしまった部分があったので、足跡を入れたり、恐竜の食べる木の実を追加したり。
(後で聞いたら別に足跡は入れてなかったですとのこと。そしたら青い部分は足跡ではなかったのか…!)


そして、今回の交換した思い出を入れるために、ずっと郵送に使っていた梱包材を、ぐるっと一周キャンバスにはりつけました。


何往復もしたので、つぶれている部分もあったけれど、それも思い出。


でも意外にプチプチをきれいに切って貼るのが難しく、汚く見えてしまったりしたので、何回かやりなおして意外と1番時間がかかっている部分になりました。


吉田さんが貼ってくれた記事はJAXAの探査機はやぶさが「りゅうぐう」という小惑星から持ち帰った砂に、生命の源となるタンパク質の材料のアミノ酸が含まれていた、という内容の記事だったので、
表面にも使用した金のマニキュアがざらざらしていて砂っぽいなと思い、星っぽくも見えるように散りばめました。


ちゃんと署名も追記。(上から梱包材貼ってしまいましたが、透明なので一応見えます)


出来上がった数時間後に、吉田さんとZOOMで話すことに。

ZOOMでも作品を見せつつ、写真を何回か撮ってそれを見ながら話しました。

追記部分を話した後、吉田さんからこう聞かれました。


「自分より圧倒的に絵が下手な人とつくってみて、正直どう思いましたか?」


私は間髪をいれずに答えました。

「めっちゃ楽しかったです!!!!!!!!」


…そうなんです、今回のこの制作は、純粋に楽しくつくることができたなと思う体験だったのです。



今までも、もちろんずっと楽しんでつくっていると自分では思っていました。
でも、よく考えたら、美大受験時代から大学の制作、就活、デザイナーとしての仕事、公募コンペの出品など他人の評価やプレッシャーを感じながらの制作ばかりにいつの間にかなってしまっていたのかもしれません。


きっとここ数年、頭で考えすぎていたのだなと思いました。
ただ手を動かしてつくりあげていくことによって、子供の頃に感じていたような単純なつくる楽しさ、おもしろさのようなものを、思い出せたような気がしていました。


吉田さんは、この交換アートについてお母様にも話されていて、お母様から「アートセラピーみたいだね」と言われたそうです。
吉田さんのお母様は臨床心理士をされているらしく、私たちがやっていたようなことに近い療法があるというのをご存知でした。


たしかに、癒しの効果はあった気がする…!


吉田さんは、ご自分でご自分のことを「美的センスがない」と言っていましたが、私は全然そんなことはないと思いました。
というか「自分には美術の才能はない」と思っている人全般に対してもいつも思っています。


私が美術系の高校や大学に行って体感したことは、「アートは自由」ということなんです。


これは冒頭で書いたことと矛盾しているようにも思われるかもしれませんが…


たしかに、デッサンや色彩構成などの受験科目にはある程度の正解があり、そこを目指すものとされます。
デザインはクライアントがいてつくられるものなので、クライアントの納得や、商品ならその売り上げなど効果が伴うことが期待されていると思います。


でも、アートは違うのではないでしょうか。

便器さえ作品になる世界だと思えば、何をつくったっていいと思いませんか?


「自分には絵心ないんで」


という人とたまに会いますが、私はそういう人たちが描く絵とかってけっこう面白いし、アートだなと思います。


美術に興味がない人は、ただ単にあまり褒められる機会が少なかっただけなのではないかと思います。
どうしても大人や周りの人は「上手く見える絵」を褒めてしまうようなところがあると思いますし…


私は、それぞれの人(の作品)に対して「その個性いいね」と言えるような社会になれば、もっとアートを気軽に楽しめる人が増えるのではないかなと思っています。

(自分がアートを語れる立場かどうかはわからないので、個人的な見解にはなりますが)


吉田さんとも「これって学校とかでやってもおもしろそうだよね」という話になり、たしかにこれはいろんな人に体験してもらいたいなと私も強く思いました。

きっと1人でつくるより、楽しさが倍になるんじゃないかと思います。


このオンラインの時代に、実際に石川と東京でキャンバスをリアルに往復させるという試み。
気軽に始めてみたものが、こんなに気づきを得られるとは思ってもみませんでした。
この機会をいただけて、吉田さんにはめちゃくちゃ感謝です!!



吉田さん側の記事のリンクも貼っておきますので、ぜひそちらも読んでみてほしいです。


最後に、タイトルどうする?と話し合って、迷いに迷ってつけたタイトルで締めたいと思います。
この交換の期間、私たちが1番よく使っていた言葉です。


「届いたよ」






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