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「ワールドトリガー」の努力論が素晴らしすぎたので、まとめてみる

※文中リンクはAmazonアフィリエイトを含みます。

「ワールドトリガー」という漫画が、生涯ベスト級に好きである。現役連載中の漫画としては迷いなくトップに挙げるくらいに思い入れがある。

そんな「ワールドトリガー」の最新話(ジャンプSQ.2024年11月号掲載)で描かれている努力論・成長論があまりに素晴らしく、めちゃくちゃ心に刺さったので、ぜひ多くの人に知ってもらいたい。同時に、作品自体の普及にも少しでも貢献したい。

そのために、自分なりにその努力論の要点をまとめてみたいと思う。以下、未単行本化の内容や画像引用を含むので、単行本派の人などはネタバレご注意ください。

背景(知ってる人は読み飛ばし推奨)

その努力論は、若村麓郎ろくろうという登場人物が、自らの強さに関する疑問をヒュースという人物にぶつけ、その答えとして語られる。

若村は主人公でもなんでもなく、物語の中心となる「ボーダー」という組織の一員に過ぎない。ボーダーの戦闘部隊には3〜5人ほどの小隊がいくつもあり、ともに「近界ネイバーフッド」と呼ばれる異世界からの攻撃への防衛任務にあたったり、訓練を兼ねて部隊どうしで仮想空間でのランク戦を争い、しのぎを削ったりしている。

若村はその中で香取隊という中位ランクの部隊に属しているが、この部隊は伸び悩む時期が続いている。いっぽうで主人公チームである玉狛第2(三雲隊)は、デビュー間もないにも関わらず大躍進を遂げ、たった1期のランク戦で香取隊を含む多くの部隊を追い抜いてしまった。

しかし、玉狛第2の隊長である三雲修は、戦闘経験も才能も乏しく、単純な能力では作中最弱クラスでしかない。個人としてはあまり秀でたもののない(とはいえ能力・経験自体は三雲に遥かに勝る)若村は、そのあたりで三雲にシンパシーを感じつつも、玉狛第2がなぜ劇的に勝てるのか、理由がわからなかった。

そして、訳あって各部隊員をシャッフルした臨時部隊が組まれる中、ヒュース(彼も玉狛第2の隊員)と同じ部隊になった若村は、「自分と三雲は何が違うのか?」という形で自らの疑問をぶつける。

ヒュースは、厳しい話になるがそれでも聞くか、と若村に意思確認をしながら、答えはじめる。

そこでヒュースの出した答え、つまりこの文章のテーマである努力論を僕なりに整理すると、以下の3つの要点を見いだせると思う。

①期限を決めない努力は、自覚できない無駄を生み出す

ヒュースは若村に、「目標はあるか」と聞く。若村は一応の答えを出すが、「その期限は?」と聞かれると答えられない。

いっぽう、玉狛第2と三雲には時間がなかった。ストーリーの説明になってしまうので詳細は割愛するが、彼らにはどうしてもデビュー間もないランク戦で上位に入らなければならない理由があった。必要に迫られたことが三雲の「何が何でも勝ち筋を見つける」能力の成長を促し、部隊を飛躍させたという。

ここまでならよくある「期限を決めて物事に取り組みましょう」というお話だが、この後にその理由として語られる内容が、普段ダラダラと努力っぽいことをしているだけの僕のような人間に刺さりまくる。

それは、「目標に期限がなければ、失敗を正しく認識できない」というものだ。

葦原大介「ワールドトリガー」より
出典:ジャンプSQ.2024年11月号(Kindle版,位置163/844)

目標に期限がない場合、失ったはずの時間や労力などの資源は自分の中で「いつか成功すれば返ってくるもの」となり、つまり「自分はまだ何も失っていない」と思い込むことができる。

それでは本当の意味で失ったものを認識できず、したがって反省も改善もない。これを「足踏み」という、と話は続く。

ああ、本当に耳が痛い。具体的な目標を決めずに努力するほうが、長く楽しく目標に向かっていられる、などと考えていた自分の甘さが恥ずかしい。それはただ、時間の浪費に近い「努力に似た何か」を正当化しかねない論理なのだ。

②高すぎる目標は、「足踏み」になりやすい

そしてヒュースは「足踏み」が起きやすい状況として、本人の認識よりも高すぎる壁に挑んでいる場合の話をする。

若村の所属する香取隊は、隊長である香取葉子に引っ張られて強くなってきたチームだ。香取は器用で才能もあり、個人での能力が高い。ランク戦で点を取るのもほとんどは香取で、若村はそのサポートが中心。

そのため、仕方のないことではあるが、若村は本来ぶつかるはずの壁にぶつからずに来てしまった。

そしてヒュースは、チーム戦の基礎を学ばずに来てしまった若村は、まだ自分や味方がどう動くべきかを考えられる段階にない、と厳しい言葉を放つ(逆に三雲は自分の弱さを自覚し、チームとして勝利することに振り切ったからこそ、結果を出すことができた)。

葦原大介「ワールドトリガー」より
出典:ジャンプSQ.2024年11月号(Kindle版,位置183/844)

そして、若村が成長するためにはいったん部隊を抜け、一番下から順にステップを踏んでいけばいい、と提案する。しかし、この時点で自信を喪失しかけている若村は、「もし自分には最初のステップを登る力がなかったら、どうすればいい?」と問う。

それにヒュースは、目の前のステップをさらに細かく刻み、一段ずつ自分が登れるものにしていけばいい、それこそが努力だ、と答える。

葦原大介「ワールドトリガー」より
出典:ジャンプSQ.2024年11月号(Kindle版,位置187/844)

これもよくある「困難は分割せよ」「できることからこつこつと」という話だといえばその通りだが、誠実に実行できる人間は多くないように思う。人にはプライドがあり、なかなか自分の本当のレベルが自己認識より下にあることを認められない。

中学生が数学についてけなくなるのは、小学生レベルの算数ですでにつまづいている場合がほとんどだが、だからといって算数をやり直すことに素直に応じる中学生はそう多くない、と何かで読んだ覚えがある。このへんのプライドを捨てられるかどうかが、自分にあった成長の道を得るための鍵なのだろう。

自分はどうだろうか。いま僕は英語学習をメインテーマにこのnoteから発信活動を始めたつもりだが、自分の英語のレベルがどこにあるのかきっちり把握しているとは言い難い。

それも自分の「これくらいはできるはず」というプライドが崩れるのを恐れているからかもしれない。向き合わないといけない。

③人から借りてきた「答え」は、自分のものにはなりにくい

ヒュースとの問答の中で、若村は自分にないものを持っている人間と渡り合えるだけの武器が欲しい、だから三雲の経験や強さの秘密を聞きたい、という。自分を変えてくれる「答え」となる「何か」が欲しい、と。

しかしヒュースは、これにも「強くなるための「何か」や「答え」は本当に存在するのか」と投げかける。それにかまけて、現実的な鍛錬を積まないのでは意味がないのではないか、と。

葦原大介「ワールドトリガー」より
出典:ジャンプSQ.2024年11月号(Kindle版,位置169/844)

人はそれぞれ置かれた立場・条件が違う。表面を真似ても、同じ強さを手に入れられるとは限らない。むしろ、そうして手っ取り早く強くなれる「何か」を探していることこそが、先述の自分のレベルへの認識と合わせて、「足踏み」をしてしまっている原因ではないのか、と説く。

現実から目を逸らして、あやふやな飛躍の可能性に期待するのは典型的な「足踏み」だ、とここでも厳しい言葉。若村がかわいそうになってくるが、これも正論であり真理だろう。

このあたりは、この漫画で語られているからこそ意味があることのように思える。上でも少し述べたように、ヒュースの「答え」に込められているメッセージ自体は普遍的なことというか、よくありそうなものではある。「自分で考えなければ身につかないよ」というのも、どこかで聞いたことがあるといえばそうかもしれない。

しかし、それを作者ないし登場人物たちがきちんと自分で咀嚼したうえで、まさに借り物ではない自分の言葉で語るからこそ、人の心に届き、響くものになっているのだと思う。

この「登場人物たちが自分の言葉で話す」という点は、僕が「ワールドトリガー」を大好きな理由の一つでもある。ぜひこの文章を読んでくれたみなさんも、作品を読んでその借り物ではない言葉の数々に触れてみてほしい。もう一回Amazonリンク貼っときますね。今度は電子版で。

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僕は「大人の学び直し」をテーマに発信活動をしようとこのアカウントを立ち上げたばかりだが、その時期にこうしたメッセージに出会えたことを幸運に思う。自分のやることを見直し、指針のひとつとしていくことができそうだ。この作品を愛していて本当に良かったと思う。

作中でボコボコに凹まされた若村が、今後どのようにしていくのかは現状まだ描かれていない。でも、彼なりの答えを見つけて前に進んでいくのだろうと信じている。

僕もヒュースの厳しい答えに「喰らった」身として、若村とともにすこしずつ歩んでいきたい。同じメガネ仲間として頑張ろうな。

さて、まず自分のレベルを知ることから始めよう。英語のテスト受けてきます。それではまた。



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