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20歳が0歳 3

10分ほど歩くとクラブの前に到着した。ここは移民地区か?と思うほどに外国人で溢れている。ネオンの看板、外まで響く低音、黒い壁に赤い文字盤が光っていた。

クラブの前にはカルロに声をかける外国人が複数いた。男女問わず距離が近くて、クラブの前に溜まっているみんなは片手にお酒を持っている。苦手かも。「この子はまなみだよ。英語はできるけど、スペイン語はダメ。」と彼が紹介をするとみんなすぐに「まなみ!」と呼んでくれて「何してる子?どこに住んでる?カルロとはどんな関係?」と聞いてきた。ほとんどが黒髪だったけど、中にはウェーブのかかったブロンドっぽい髪の綺麗なモデルみたいな子もいた。

チャラそうなカルロより歳上そうな黒髪の白人男性が「友達?」とニヤニヤしながらカルロに聞いていた。カルロは笑って質問を誤魔化したけど、なんだかすこしモヤモヤした。

多分これは、彼女と認めてほしいとか、女として見られたいとかそういうことではなく、普通に友達!それでいいだろという半分呆れに近い感情。だけどあとの半分は自分でもよくわからなかった。というか、外国人も笑って誤魔化したりするんだね、、

「入る前に軽く飲もう。まだ時間早いから」とカルロは言ったがもう日付は変わっている。私の基準だともう12時だけど、クラブの12時はまだ1日の始まりにすぎない。向かいのコンビニでお酒を買う。この頃はスミノフがマイブームで、私はスミノフの赤にした。彼が選んだのはストロングゼロのロング缶。ウケる。おまえ日本に染まりすぎ。

私はお酒を一本取ると彼が「一本で良いの?もう一本買っておけば?」と言った。それもそうかともう一本取り出すと、私が持っていた二本とも彼が手に取りそのままお会計してくれた。奢りの約束は守ってくれたみたいだった。

クラブの前に戻り、みんなの会話になんとか入る。ここでお酒を片手に繰り広げられるのは大した会話ではない。最近どう?この前の彼とは?彼女とは?どこからきたの?普段の仕事は?その服、気合い入ってるねとか本当にくだらないものばかりだ。

私が少し退屈に思っていたそのとき、アジア系の男が話しかけてきた。タンクトップから見えるムキムキの腕がなんかむさ苦しい。しつこく話しかけてきて、その度にカルロの影に隠れる自分がなんかダサく感じてしまった。愛想笑いしてヘラヘラしていた自分が情けなかった。

見かねたカルロが友人と話してるところに入れてくれたが、私の得意だったつもりの英語力が大したことなかったのか、カルロたちのスペイン訛りが強いのか、大した話はできなかった。今日ここにきてから自信を失ってばかりだ。2本目のスミノフを早々と飲み切ると、彼が「じゃあ中に入ろう」と言った。

すでにクラブ前に来てから30分ほど経っていたので、やっとという気持ちだった。

今日、このために終電を見送り、ここへ来た。一瞬不安になりながらも押さえつけられないほどの好奇心が湧いてくるのを感じた。例えるなら小学生の遠足の前日、いやそれ以上の。

クラブを前にして、0歳の私は新しい世界にドキドキしていた。

まずIDチェックと呼ばれる身分証の確認を受けた。その後、暗い階段を降りていく。外の雑踏なんかと比べ物にならないほどの音楽が耳と頭に響く。受付で料金を払う。たしか女性の方が少し安かった。カルロが前に立ち、「この子のも」と言われ支払ってくれた。私は「お酒出してくれたしいいよ」と言ったが、彼は「これもお酒だから」といって、レシートを渡してきた。

え、何これ?おまえこんだけ金かかってんだよってこと?レシートをしまおうとすると、「しまわないで!すぐに使うから。それを出せばドリンクが無料になるよ」と言われた。あぁそういうことだったんだ。早く言えよ!それから店員さんに腕にスタンプを押された。透明なスタンプなんだけど、ブラックライトで照らすと光るらしい。

受付を抜けるともう頭に響くなんてものじゃない。血液までも揺さぶられるような音楽に、色とりどりのライトが光り、分煙されていないのか少し煙くて光がフロア中にぼやっと反射している。幻想的に反射した煙の中をレーザーが突き抜ける。

圧倒されて立ち尽くす私に、逆光でよく見えない彼が言った。

「何してるの?踊ろう。クラブだよ」

少しの恥ずかしさと、たくさんの好奇心を持って私は右足を前に出した。

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