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20歳が0歳 8
彼の家は都心の広いマンションだった。カルロの家とは比べ物にならない広さだった。おそらく家賃は月に20万くらいだと思う。
アディルは家まで来たのに相変わらず無口だった。なので私の方から「ゲームするんでしょ?」と声をかけた。彼は「うん」とだけ返事をしてマリオカートを始めた。いや古っ
つまんないけど何となく始めたゲームだし、彼もつまらなそうにいていた。私が一位、彼が二位で終わるとやる事はなくなってしまった。
私は帰りたいなと思ったけど、それを察したかのようにアディルは私の手を握ってきた。
わかってた。こいつの本当の目的はこれなのだ。
まあ宗教や国が違くても男なんてこんなもんかぁ。でも不思議と嫌な気はしなかった。わかっていたし、私も同じ気持ちだったから。
そしてマリオカートのついたテレビの画面の前で私たちはキスをした。
あまり背徳感はなかった。悪いことをしてるとは思ったが、正直その自責の念すらほぼなかった。私はこういう女なのかな?それとも関係をはっきりさせていなかったカルロに責任転嫁していたのか、、
アディルが私を抱き抱えてベッドへ行く。カルロの家のものとは違う大きなベッドは2人を迎え入れるのに十分だった。
事が進んでいく…ふと背中に激痛が走った。クソ痛っっ‼️なにこれ?!アディルには噛み癖があった。しかもそれを相手も好きだという前提でしてくるとんでもないキチガイだった。
このときの私は我慢した。それ以外のことは概ね最高だったから。
しかし何度か噛まれるとイライラしてきた。こいつはヤバい。今どき野良犬でもこんなことしない。でもやっぱり他が良かったので我慢した。
夕方になった。まだ日は沈んでいないけど、ビル群の上に見える大きな入道雲がピンク色になっていた。
将来こんな場所に住みたい。私の家は一軒家だったから、高い場所から遠くを見渡すこの光景に憧れていた。とくに夏の入道雲がこの大都市に覆い被さろうとしてる光景を見たかった。
「お腹空いたでしょ?」
「うん」
「僕のおすすめがある」
そういって彼はスマホを触るとオーダーを済ませたようだった。この街のいいところは家から出なくても美味しいものがたくさん手に入るとこだ。
彼が頼んだのはトマトラーメンで、このクソ暑い時期なのに流行っていた。
4人がけのテーブルに2人で向き合って食べるトマトラーメン。少し伸びているけどおいしかった。
2人の間に会話はなかったが、緊張も気まずさも全くなかった。ただ窓から差し込む光の赤がどんどん濃くなっていった。
日が完全に落ちたころ、アディルのキスからまた始まった。そして噛まれてイラついて、でも納得してを何度か繰り返し、落ち着いた頃には夜の11時を超えていた。
アディルがボソッと「泊まっていきなよ」と言った。別に驚かなかったし、それで良いと思った。私もそのつもりだったから。
シャワーの後に貸してくれた服はやっぱり黒で、アディルのイメージは完全に黒になった。
それからお互いにスマホを見つめたまま寝るまで特に話すことはなかった。2人で寝るのにちょうど良い大きさのベッドで心地いいはずなのに、カルロの狭苦しいベッドが恋しくなっていた。
アディルはおやすみとだけ言うとすぐにいびきをかきながら寝てしまった。私はまだ眠れなくてスマホを見続けていると、カルロからLINEが来た。
「今日も暑かったね、試験どうだった?」