【まえがき】「節分お疲れ様会」の衝撃
その瞬間、昨日まで静かだった迷路のまちにどよめきと歓声、拍手の音が鳴り響いた。
つい先程までゆるキャラたちと共に歌やダンスを交えた歌劇を披露していたその男は、集まった観客に向かってこう宣言したのだ。
「来年、2025年2月2日、フレトピアホールにて、この「節分お疲れ様会」と徳島県の大歩危峡で行われている「四国妖怪フェスティバル」を、ここ小豆島で同時開催し、「妖怪万博」と称して全国から人を集めます!」
トレードマークの青いツナギに、鬼のパンツを意識したトラ柄の布を纏い、サングラス姿でマイクを持つその男は、「妖怪美術館」を運営するMeiPAM(メイパム)の代表である佐藤秀司氏。「チョーケシ兄やん」を名乗ってダンスや歌のパフォーマンスもしており、小豆島で“兄やん”といえば彼を思い浮かべる人が多い地元の有名人だ。
彼は宣言をこう締めくくった。
「来年2月1日・2日、「妖怪万博2025」でまた会いましょう!」
2024年2月4日。瀬戸内海に浮かぶ離島 小豆島にある「妖怪美術館」。
「節分お疲れ様会」に遊びに来ていた私は“兄やん”の宣言に沸く観客の中、驚きで声を発するのを忘れてただ立っていた。
あまりに規模が違いすぎる。
2月といえば、小豆島にとっては寒くて長い観光閑散期。
ホテルをはじめ、様々な観光施設が休館や営業時間を短縮するなど、1年で一番元気のない時期と言ってもいい。現に前日目の当たりにした町の様子は閑散としていて、以前、秋に来た時に比べて自分たち以外の観光客の姿を見かけることは片手で足りる程だった。
そんな時期に大きなイベントを開催すると。
しかも、古民家を活用した「妖怪美術館」の前庭であるここよりも何十倍も広い3000人のキャパシティを誇るフレトピアホールが会場だという。数多のアーティスト達がライブを行ってきたお台場の「Zepp DiverCity TOKYO」とほぼ同じ規模のキャパシティなのだ。
古民家の前庭から「Zepp DiverCity TOKYO」とほぼ同じ規模の“箱”へ…ジャンプアップが過ぎんか?
それに加えて、準備のメインになるであろう主催の妖怪美術館のスタッフは個展などで出張の多い妖怪画家の館長を含めても5名。
妖怪美術館は作品の展示だけでなく、「地元の賑わいを生み出す」という設立からの理念のもと、観光客の誘致など美術館の運営の枠を超えて多岐に渡る活動をしており、普段から独自イのベントも多い。
この「節分お疲れ様会」も、閑散期に島に人を呼ぶために彼らが生み出した独自イベントの1つなのだ。彼らは、そんな美術館の運営と並行して動員3000人規模のイベントの準備を進めることになる。
妖怪万博開催に向けた彼らの努力はおそらく計り知れないものだろう。そこには、少人数での準備ならではの工夫もあるかもしれない。私は好奇心を抑えられなかった。知りたい、そして何より「妖怪万博」がどんなイベントになるのかを見たい。その気持ちを胸にこの連載の企画を携え、妖怪美術館に取材を申し込んだ。
これは、妖怪美術館への取材をもとに、“兄やん”こと佐藤氏をはじめ、妖怪美術館スタッフの視点を通して描いた「妖怪万博2025」開催までのドキュメントであり、前書きを書いている今現在も進行してる小さな美術館の奮闘記である。
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