成績評価のためのオンライン試験は可能か?
年明け早々の教授会で「いざという時のためにオンラインでの定期試験を考えておいてください」という指示が出された。そろそろ後期定期試験が行われる。個人的に、今考えているオンライン試験について、ここでまとめておきたい。(小野堅太郎)
オンライン試験の必要性?
成績評価は、学生全員において公平でなくてはならない。公平とは、試験前からやり方や採点方法においてあらかじめ周知されていなくてはならない。どこかの大学入試であったように、試験後に裏で男子学生を多くとったり、年齢で切り捨てたりするのは公平ではない。そもそも「いざという時の対応」は、その時が来てから考えるのではなく、あらかじめ完成させておかないといけないので、「今」考えなければいけない。
とはいえ、各大学においてICT環境が異なるため、各大学オリジナルの方策が要求される。ICT知識、想像力と準備・検証力が必要である。さらに、「コロナが落ち着いていれば、やらなくてもいいかもしれない」というマイナス動機も存在する。試験実施でミスが生じたときの不安もある。
制限事項を述べながら段階的に方策について考えてみる。
オンライン試験のためのICT環境
お金もなく、時間もないので、現在の設備環境の中で考えなければならない。九州歯科大学には、オンライン試験に特化した「作って教材」システムというのがあり、コンピューター室(PC100台、一学年収容可)での卒業試験などで長年使用されてきた実績がある。「作って教材」の現在の設定では、学生が自宅からアクセスできない。設定の変更には種々の問題があり難しいようである。「密」を避けるなら、自宅受験となり、本学オンライン講義全般を担っているLMS(学習管理システム)「Moodle」しか選択肢はない。
医学は知識を問う問題が多くを占める。よって、マルバツ、穴埋め、選択肢問題をオンラインで出題することができる。生理学は「身体の仕組み」を学ぶ学問なので、叙述性のある問題をある程度出さなくてはならないので、記述式も必要である。Moodleには、これらの出題形式の問題を作成できる。
マルバツ問題は勉強しなくても50%の正答率、穴埋めは送り仮名など正答が多様になるので自動採点ができない。よって、5択1選択(最低正答率20%)がいいように思う。記述式は、「問題を作らせる」という課題が良い。類似問題が多い場合は点数が低く、独自性の高い問題は点数を高くすることで、後述のカンニングを回避することができる。
自宅受験なので、試験での本人確認が必須である。大学としてMicrosoftのOffice365に契約しているので、リモート講義は無料の「Teams」が使われている。既に、全学生がTeamsの使用を経験しており、教員共にアプリ操作に関しては問題ない。
自宅受験での不正行為は防げない
上記の環境で、何とかカンニングのような不正行為を防げないかをかなり考えた。現状での理想のシステムを組んで、試しに自分が受験してみると、カンニングできるポイントをたくさん見つけてしまった。つまり、受験2回目からカンニングし放題となり、それに対する新しい対策をとれば、新しい抜け穴を見つけられるといった学生とのイタチごっこになってしまう。例を挙げてみる。
①Teams顔出しで本人確認⇒Moodleでの解答を別人に依頼⇒Moodleからランダムに指示を出してジェスチャーを確認⇒真向かいに別人を配置
②Teamsであやしい行動をしていないか監視⇒PC画面や周囲にカンニングペーパーを表示して、視線が大きく動かないようにする⇒知識だけでなく考えさせる問題にする⇒Line等で誰かが作製した模範解答を複数人で共有して文章構造を少し変える
これ以外にも、100名のTeams顔出しが学生の通信環境で耐えうるか、PCを持たずスマホだけしか所有しない学生では試験がやりにくい、など問題ばかりである。最終的に「自宅受験でカンニングは避けられない」という結論に落ち着いた。
結局のところ、「学生を信じるか否か」にかかってくる。これまでの対面式試験でも、見抜けていないカンニングはあったはずである。オンラインだろうが対面だろうがカンニングして単位をとった学生は「不勉強」であるので、将来的には損をしている。一生懸命に勉強して単位をとった学生や落としてしまった学生からすれば不公平感はあるものの、教員側が可能な範囲で「不正行為対策」を講じるしかない。
オンライン口頭試問
スマホで検索すれば、大概の用語説明が検索できる時代。「○○を覚えているか、列挙できるか、意味を把握しているか?」といった知識を問うことの重要性が下がっていることは否めない。しかし、その知識がなければ、文脈を追えないので「理解」に時間がかかり、「自ら学ぶ、考える」ということの障害となる。「教科書や資料を見てもOK」とするなら、知識を問う問題はそもそも不可能となる。
ならば「Teamsでの口頭試問」はどうだろうか。九州歯科大学は1学年100人もいるので、一人5分で500分、8時間以上かかってしまう。5名ずつの20組に分けて、1組10分でも200分で3時間以上。できなくはないが、果たして5~10分で正当な学生評価が維持できるだろうか。学生数の少ない学部・学科なら可能であろうが、本学では現実的ではない。
具体的なオンライン試験の案
カンニングはオンラインより対面式の方が確実に防げる。ならば、オンライン試験を考慮した対面試験を用意すれば、いざという時にオンライン試験に対応できる。現在考えているオンライン・対面式共通の試験方式についてまとめてみた。
知識を問う問題:歯科医師国家試験風の5択1選択問題を出題する。例えば、対面式ならば、本試験用に50問、再試験用に50問の、合計100問を用意しておく。オンラインでは、この100問プールからランダムに50問を出題し(本試験と再試験共に)、カンニングできないほどの短い時間制限を5問ごとに設けて行う(5問2分×10セット=20分)。
理解を問う問題:ある程度の狭い範囲のテーマを上げて(キーワード提示など)、自分で問題を作らせて解答を書かせる。これでは全員高得点になるので、類似問題が一定数超えると配点を低くする(類似問題30以上は2点だが、類似問題が3つ以内なら10点とか)。
知識を問う問題では、選択肢問題のMoodle入力は大変なので、あらかじめAikenフォーマットでプール問題として、たくさん問題をストックしておけば「インポート」で瞬時に読み込める。コピペで対面試験にも使える。
Aikenフォーマット
「薔薇の名前」作者は誰か。
a. ウンベルト・エーコ
b. ミヒャエル・エンデ
c. ショーン・コネリー
d. クリスチャン・スレーター
e. フィッツジェラルド
ANSWER: a
理解を問う問題では、例えば「映画マッドマックス【怒りのデスロード】について学習した医学関連の範囲内で問題を作成し、その解答を述べなさい。」とか「ウルティマオンライン、ソードアートオンライン、荒野行動といった3つのキーワードを使用した解答に対する問題を作成し、その解答を述べなさい。」などが有効である(この例はあくまでも「マナビ研究室note」をご覧いただいている方向けの例である)。小野ならば、それぞれに「マックスが多くの人に安全に輸血できた理由について血液型の観点から考察しなさい」「オンラインゲームが現実世界と融合する可能性について具体的な作品を上げながら共通点と関連性について述べなさい」といった問題を作る。解答としては、長文ですが、過去記事を参照のこと。
というわけで、こういった内容で対面試験を用意し、いざという時、オンライン試験に切り替えればよい。オンラインではカンニングを十分には防げないが、学生を信じるしかない。いずれにしても、出題傾向が変わり、学生間で再現されている過去問が使えないので、今年の学生たちが悲鳴を上げるだろう。申し訳ないものの、より意味のある学習評価となると思う。
あと、講義グラレコの提出を毎回学生に課しているが、毎回素晴らしい作品を提出してくる学生が数名いて、正直、この学生たちは十分学習できているので試験の必要性を感じていない。結局、試験というのは「サボる」学生を減らすことが大きな目的となってしまって、形骸化している部分がある。本来は「できない」学生を抽出して、深く再指導する機会でなくてはならない。オンライン試験の導入は、「試験の在り方」自体を考える良い機会であった。