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歯は割れにくくできている〜天然歯にみる接着の重要性〜 #00050

 ご存知の通り、天然歯は表層のエナメル質と象牙質(+セメント質、歯根膜など)から構成されています。実は、天然歯はエナメル質と象牙質がうまく接着して一体化していることで生活歯として機能しています。今回は、接着の観点から天然歯(生活歯)について考えてみたいと思います。(池田弘) 

 日常生活において、我々は硬いものや弾力が強いものなど、様々な食物を生活歯で噛み砕いています。生活歯は、齲蝕がほとんどなければ80年くらいは機能し続けるのです。何気ないことなのですがとてもすごいことだと私は思います。人工的な道具ではこれだけ長く機能するものはそんなにないと思います。それでは、なぜ生活歯は食物を噛んでいるときに壊れることなく機能することができるのでしょうか?この理由について考えてみましょう。

 まず、エナメル質と象牙質はどんな組織なのか?

 エナメル質は、96%程度がハイドロキシアパタイトなどの無機成分から構成された硬組織です。そのため、それ自体は非常に硬いんですが、脆くて壊れやすいです。一方、象牙質は、ハイドロキシアパタイトなどの無機成分とコラーゲンなどの有機成分から構成される複合的な硬組織です。そのため、エナメル質ほどは硬くないけど、しなやかで割れにくいです。天然歯は、硬いエナメル質が食べ物をすりつぶしたり砕いたりする役割を担い、しなやかな象牙質は、エナメル質が壊れないように下支えしていることでうまく機能しています。そのため、生活歯にはエナメル質と象牙質はどちらも必須なんです。

 もし、象牙質がなくてエナメル質だけで歯が構成されていたと仮定します。そうするとどうなるのでしょうか?おそらく硬いものを食べている際に、生活歯が割れることが多くなると予想されます。同様に、象牙質だけではどうでしょうか?この場合は、割れたりするというより摩耗してなくなっていくことが多いでしょう。

 それでは、接着が天然歯とどう関係するのでしょうか?上述したように、エナメル質と象牙質は違う組織であるため、それらは明確な界面で二つに分かれています。このエナメル質と象牙質の界面は”エナメル象牙境”と呼ばれています。このエナメル象牙境は、コラーゲン繊維でエナメル質と象牙質をうまく接着させる役割を果たしています。もし、エナメル象牙境がなく、エナメル質と象牙質が接着していないとどうなるのでしょうか?その場合は、エナメル質は象牙質の上に乗っているだけになります。そうすると、食物を噛んでいるときに、硬くて脆いエナメル質に応力集中が起こりやすくなり、すぐに割れてしまいます。しかし、実際の生活歯は割れることは頻繁に起こりません。なぜなら、エナメル質に生じた応力を象牙質に伝播させることでうまく緩和させているからです。

 このように、天然歯(生活歯)はエナメル質と象牙質がエナメル象牙境で接着していることにより機能することができるのです。この事実から考えても、クラウンを支台歯に接着させて一体化させることの重要性がわかると思います。この内容についてもう少し詳しく知りたい方は、動画をご覧ください。

01:10 天然歯の硬組織
02:10 エナメル質と象牙質の性質
05:30 天然歯の破折
06:55 エナメル象牙境が破折防止に及ぼす役割

補足・訂正

 エナメル象牙境は英語でDentin-Enamel Junction (DEJ)と呼ばれます。

動画クイズの答え

 YouTube動画エンディングのクイズの答えは、「エナメル質」。エナメル質と象牙質の曲げ強さは、それぞれ約400MPaと300MPa。一方、曲げ強さは約100MPaと約200MPa。つまり、エナメル質は圧縮に強く、曲げに弱い。象牙質と一体化することで、曲げ方向にかかる力をいなしている。

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