見出し画像

活動電位を得た神経はさらに進化して跳躍伝導を得る #00060

 神経シリーズ最終記事は、「跳躍伝導」です。神経は伝導速度を上げるためにスゴイ方法を取りました。活動電位を飛ばしたんです!神経が如何にして1秒間に100メートルものスピードを出せるようになったかを解説します(小野堅太郎)

 これまで話してきた活動電位による神経伝導では1秒間に1m程度のスピードしか出ません。恐竜など大きな動物で20mほどしっぽがある場合、脊髄に信号が伝わるのに20秒もかかってしまいます。この間にしっぽを食べられてしまいます。よって、大型の生物になるためには、神経伝導速度を上げる必要があったわけです。神経軸索の直径を大きくすることで、ある程度伝導スピードを上げることができますが、直径を5倍にしても2.2倍ほどしかスピードは上がりません(長さ定数計算より)。

 そこで有髄神経線維が出現します。有髄とは、神経軸索にシュワン細胞というのが取り巻いて、その部分にイオンチャネルが発現しないようにすることで膜抵抗を限りなく上げるわけです。小野の計算では最大2000倍に膜抵抗を上げているとなりました。2000倍も膜抵抗が上昇すると電気緊張性電位は45倍遠くに伝わるようになります。現在最も伝導速度の速いAα線維は1秒間に100m伝わります。無髄線維より直径が5倍大きいので、膜抵抗が2000倍となればスピードは2.2 x 45 = 99倍となります。実際は、有髄線維の活動電位の大きさ(振幅)は無髄より大きいですし、単位面積当たりの細胞質抵抗に変化がある場合もあるので、抵抗が2000倍まで上がっているかどうかはわかりません。

 有髄軸索の中でシュワン細胞が取り巻いていない隙間のことを「ランビエの絞輪」といいます。ここだけで活動電位が発生することになります。つまり、あるランビエの絞輪で発生した活動電位は次のランビエの絞輪にまで飛び移ることが可能となりました。これにより最大100倍もの伝導スピードを達成することができたわけです。

 ここで、先の恐竜の話に戻ります。有髄化により100倍のスピードを得たので、20mのしっぽでも脊髄に信号が伝わるのに僅か0.2秒です。十分逃げられますよね。厳密には、変温動物は伝導速度が哺乳類より遅く、噛みつかれたことにより反応する有髄神経は、無髄神経より2倍程度しか速くないため数秒かかっていたことは否めません。大型恐竜は堅い皮を持ち、かつ襲われない環境が生存に必須であったと考えられます。

00:00 前回の復習
00:30 今回のダイジェスト
00:53 本編スタート(跳躍伝導)

04:09 恐竜がしっぽの先に噛みつかれたら
05:33 伝導速度に個人差はあるのか?
06:02 アスリートのスタートは0.1秒

補足・訂正

 後半はオリンピックの話になり、フライング1発失格が話題となっています。Google検索したところ、2003年には現行ルールになっていますね。小野は1回目は許されると思っていました。陸上競技ではフライングがあったらレースを中止し、その選手を失格にして再スタートをするようです。一方、水泳競技ではフライングがあってもレースは継続し、結果が出てからフライング選手を失格として順位を決めるらしいです。

動画クイズの答え

 YouTube動画エンディングのクイズの答えは、これまで動画を見ていただいた人なら簡単ですね。「伝導は活動電位が軸索を伝わる過程で、伝達は神経末端のシナプスでの化学情報伝達のこと」です。この説明でわからない人は、もう一回復習してください!


全記事を無料で公開しています。面白いと思っていただけた方は、サポートしていただけると嬉しいです。マナビ研究室の活動に使用させていただきます。