【不正、AI、自動化、利益調整】研究メモ:先行研究の探し方と日本の動向
みなさん、こんにちは。今回は博士論文や研究・実務で役立つ先行研究の情報を、自分用メモも兼ねてまとめてみました。キーワードは「不正」「AI」「自動化」「利益調整」。これらの領域は、会計学・監査論・データサイエンス・組織論など複数の学問分野が交わる、とても刺激的な研究テーマです。自分自身、どこから手を付ければいいか悩むことも多いので、参考になりそうな論文や書籍、探索のコツなどを整理してみました。
1. 不正会計・利益調整研究の基礎
1-1. 海外の代表的文献
Healy & Wahlen (1999)
利益調整の基礎理論を整理した有名文献。経営者がどんな動機でどのように利益調整を行うかを俯瞰するのに最適です。Dechow et al. (1995)
Jones Modelなど、利益調整の検知手法の礎を築いた一冊。ディスクリショナリー・アクル―ルの概念を学ぶ際に必ず名前が挙がります。Beneish (1999)
Beneish M-Scoreの論文。不正企業をスコア化し、粉飾決算の疑いがある企業をあぶり出す方法を提示しています。
こういった海外文献は不正や利益調整の基本をおさえるうえで、避けて通れない研究ばかり。英語文献が苦手な人は、要約記事やレビュー論文を先に読むのもアリです。
1-2. 不正検出モデルと内部統制
Beneish M-Score
数値ベースで「おかしな会社」を見つける仕組み。米国では実務でもある程度活用される場面があるそうです。COSOフレームワーク
組織全体の内部統制やリスク管理をどうデザインするかを解説した有名フレームワーク。不正が起きる構造的要因の理解に役立ちます。
利益調整や不正は「発生をいかに防ぐか」という視点も大切。内部統制や監査の仕組みを理解し、会計数字だけでなく、組織・ガバナンス面にも着目することが重要だと感じています。
2. AI活用・自動化の先行研究
2-1. データマイニングや機械学習系
Kirkos et al. (2007)
データマイニングで「怪しい決算書」を判別できるか検証した初期的研究。Perols (2011)
機械学習と統計モデルを比較し、不正検出の精度を実証的に評価しています。
これらは「どのアルゴリズムを使えば不正検出に強いか?」という疑問に対して、さまざまなモデルを試しているのが特徴。
ディープラーニングや自然言語処理(NLP)を用いた発展的研究も徐々に登場し、たとえばフットノートやMD&Aなど文章の中にある「嘘の兆候」をあぶり出すテキスト解析も活発です。
2-2. 自動化・連続監査(Continuous Audit)
Vasarhelyi & Halper (1991)
連続監査の初期構想を示した古典的文献。リアルタイム監査やRPA的な発想がすでに議論されていました。Issa et al. (2016)
AIを使った監査業務の高度化や監査人の役割変化について提言している研究。どこを自動化して、どこを人間が判断するのか、その分担が今後の課題です。
ビッグデータ分析・RPA(Robotic Process Automation)などを組み合わせ、リアルタイムに不正をモニタリングする仕組みは確実にトレンドになりつつあります。
3. 日本の研究者や国内文献の探し方
「とはいえ、海外論文ばかり読んでいると、日本の監査制度や会計慣行とのギャップが大きい……」と思ったことはありませんか? 私も同じ悩みを抱えています。そこで、日本の研究動向を調べるコツを簡単にまとめてみました。
3-1. 学会・研究会を活用
日本会計研究学会 (JAAA)
「利益調整」「不正会計」関連の報告が年次大会や部会で行われるケースあり。日本監査研究学会
「不正検出」「AI監査」の最新研究を追うのに有力。『監査研究』には不正関連の論文が掲載されることも。日本内部統制研究学会
AIの導入やRPAによる内部監査などがテーマの発表も増加傾向。日本公認不正検査士協会 (ACFE JAPAN)
機関誌『不正検査研究』に、不正事例や検査手法の事例が載ることもあります。
3-2. 国内主要ジャーナル・大学リポジトリ
『會計』(日本会計研究学会機関誌)、『監査研究』(日本監査研究学会)、『企業会計』(中央経済社)など
学術論文から実務寄りの論説まで幅広く取り扱われています。CiNii Articles / CiNii Research
キーワード「不正会計 AND AI」「利益調整 AND データマイニング」「機械学習 AND 不正検出」で検索すると、学会発表や大学紀要論文がヒットすることも。大学機関リポジトリ
一橋大学や神戸大学などのビジネススクールで、利益調整や不正会計を扱った修士論文・博士論文が公開されている場合があります。
3-3. 監査法人のレポートや専門書
大手監査法人やコンサルファームが、AI・データアナリティクスを活用した監査や不正検出に関するレポートを出していることも。学術論文ほど厳密な検証はないかもしれませんが、実務での具体的な活用事例や最新動向が得られるのが魅力です。
4. 今後の研究を深めるポイント
学際的アプローチ
不正や利益調整は、会計学だけでなく組織論、経営心理学、情報科学など複合的な視点で見ると新たな発見が生まれやすいです。定量 + 定性の二刀流
例:不正企業データを用いた機械学習モデルの構築(定量分析)+ インタビューやケーススタディ(定性分析)を組み合わせると、より説得力のある議論につながります。海外モデルの国内適用
Beneish M-ScoreやJones Modelなどを日本企業に当てはめると、面白い差異や有効性の限界が浮かび上がるかもしれません。連続監査・RPAなどの実務応用
大量データをリアルタイムにモニターし、異常を即座に検知する仕組みは、今後どんどん広がりそう。実際の企業導入事例などを調べると、新しい研究テーマが見つかるはず。
5. まとめ
「不正」「AI」「自動化」「利益調整」というキーワードが交差する研究領域は、まだまだ発展途上でありながら、技術革新や社会的ニーズの高まりとともに急成長しています。海外の代表的論文やモデルを抑えつつ、日本の制度や文化、実務現場を踏まえた実証研究を進めると、オリジナリティを出しやすいと感じています。
海外文献に学ぶ
不正検出のモデル構築や利益調整の測定など「学術的フレームワーク」をしっかりインプット。日本独自の視点を探る
会計・監査制度の差異、企業文化の影響、言語特性(日本語のテキスト分析)などをからめると面白いテーマになりやすい。実務・技術動向にもアンテナを張る
AI監査やRPA、ビッグデータ連続監査といったキーワードでの実務研究が徐々に増えています。文献は多角的に探す
学会誌・大学リポジトリ・監査法人のレポートなど、複数の情報源からアプローチするのがおすすめです。
今後はさらに自然言語処理や生成系AIが進化していくことで、不正会計を巡る研究のアプローチも多様化していくでしょう。自分の研究テーマに合った文献をコツコツ探しながら、みなさんと情報交換していければ嬉しいです。それでは、今回のメモ兼ブログが少しでも参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました!