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「何やってんねん……」

僕がまだ大阪でフリーターをしていた、20代前半の頃のある日。

友人に誘われて、早朝から交通量調査のアルバイトに出かけた。現場は家から車で1時間ほどのところにある臨海地域である。

車を道路の脇に停めて、パイプ椅子を2つ並べ、他愛もない話を交わしながら、湾岸線を走り抜ける車をカチカチとカウントする。

午前10時を過ぎた頃だっただろうか。ある1台のワゴン車が、いきなり僕らの目の前で止まった。中にはサングラスをかけた、いかにも関わってはいけない風のオッサンが乗っている。

「頼むからどっか行ってくれ……」という僕の心の声もむなしく、そのオッサンはドアガラスを下ろし、こちらに話しかけてきた。

「おい!こんなところで何やってんねん!」

親父だった。ちなみに僕は、親父に交通量調査に行くことなど一切話していない。

「いやいや、親父こそこんなところで何やってんねん!ていうか、よく気づいたな!」

「何か見たことある奴がおるなーと思ってな。今日、そこの球場で野球の試合があるんや。それを見に来たんや」

あまりの偶然に驚いたが、やがて親父は「ほな、頑張ってください」と言って去っていった。友人は「めっちゃビビったわー。なんでおっちゃんこんなところにおるねん……」と、先刻の恐怖を引きずりながら言った。全くその通りである。

そうしてまたパイプ椅子に腰掛けて仕事に戻ったのだが、ものの5分も経たないうちに、親父が引き返してきた。一体何があったというのか。

「どないしたん?」

「試合、明日やったわ!」

そう言って、家の方へと帰っていった。

「何やってんねん……」

僕と友人は、ただその場に立ちすくむしか、なすすべを知らなかった。

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杉原 学
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