【高校物理】力学分野「特講 換算質量」
参考書,問題集ではほとんど扱われない「換算質量」。
しかし入試問題を注意深く見ると,いろんなところに見つけることができる「換算質量」。
毎年,私は(力学分野を終えた)高校3年生にこの「特講 換算質量」を行います。「2体問題を解いていると,2物体の質量の『積/和』という形に出会わなかったかい?」という質問をすると,うなずく者がいます。
「換算質量」の知識は受験に必須ではありませんが,「こんな見方もある」ということを伝えるには最適な教材だと感じています。
「運動エネルギーは分けられる」って分かりますか?
相対運動の問題を「慣性力」ではない方法で解いてみませんか?
(「換算質量」は,2体問題でその威力を発揮します!)
「陽子と電子の質量が等しくなってしまう」という私の説明のウソを暴いてください(笑)
【講義1】講義&例題「換算質量の導入」
過去問解説 東京大学(1978年)
「換算質量の導入」です。
運動エネルギーが分けられるという事実(数学的恒等式)から,質量の次元をもつ「あるもの」が導かれます。
「相対運動のエネルギー」は覚える必要はありませんが,知っていると力学現象の裏側が見えてきます(検算にも使えます)。
下のツイートにありますが,「2体問題の解法」をまとめておきます。
(1) 実験室系(慣性系):束縛条件が必要
(2) 重心系:運動量保存則成立 → 慣性系
(3) 相対運動:① 相対加速度 ② 慣性力 ③ 換算質量
この特講では (3)③に注目しますが,他の解法との関係にも言及します。
【講義1】の内容をベースに,講義動画をつくってみました。
参考にしてください。
【実戦問題1】「相対運動のエネルギー」
過去問解説 共通一次(1989年)
「換算質量」が表舞台に出てくることはあまりありません。
この問題のように,計算してみたら結局それが相対運動エネルギーだったというパターンが多いのです(換算質量を知っていると,自分の出した答えに自信がもてます!)。
この年(1989年)の共通一次試験の理科では得点調整が行われました。
理科の各受験科目の平均点が物理53.5点,化学73.8点,生物44.3点,地学71.3点で,著しく異なる事態が発生しました。物理と生物の選択者に著しく不利であるとして,次の計算式によって点数調整(かさ上げ)を行われました。物理:(調整後の点数)=48.8+0.512×(調整前の点数)
生物:(調整後の点数)=47.2+0.528×(調整前の点数)
いや,これはスゴイ計算式です。物理は0点答案でも48.8点がつくということですから。しかもこの物理の「48.8点」と換算係数「0.512」の決定に,その数年前に行われた共通一次の「理科Ⅰ」(物理・化学・生物・地学の4領域の総合基礎科目,1985年から共通一次試験の全受験生の必須科目として課せられたが,1987年に必須科目から削除)のデータが使われたらしいのです。ツッコミどころ満載やねぇ。
【実戦問題2】「繰り返し衝突」
過去問解説 日本大学(理工学部)
「繰り返し衝突」に関する典型的な入試問題を,「換算質量」の観点から解きなおしてみます。通常の解法を確認した後,「別解」として「相対運動のエネルギー」に注目した解法を紹介します。
【実戦問題3】「重心系」
過去問解説 東京大学後期日程(1992年)
「重心系」です。これが出題された当時は「難問」に分類されていた問題。
(<新傾向>とか,書かれていましたね)
しかし実はこの問題と同じ趣旨の問題が,東大で出題されるはるか昔(1971年)に奈良県立医科大学で(原子物理の問題として)出題されていたことに気がついているのは私だけでしょう(笑)
【講義2】講義&例題「ひとつの例」
過去問解説 慶應義塾大学理工学部(1992年)
私が毎年,高校3年生に出題している ”難問” を紹介します。
運動方程式を2本立てます。そしてその2本の式を合わせると…とんでもない「結論」が待ってます。その「結論」はもちろん間違っているのですが,どこで間違えたのかを正確に答えられる生徒はあまりいません。
例題は「換算質量」の導出問題です。解説動画も用意しました。
【講義2】の内容をベースに,講義動画をつくってみました。
参考にしてください。
(例題)の解説動画です。是非!
【講義3】講義&例題「慣性質量・重力質量」
過去問解説 「単振り子の周期」
東京大学(1999年)・慶應義塾大学医学部(1981年)
「慣性質量」や「重力質量」という言葉は初めて聞いたかもしれませんね。この物理量の説明をした後,2つが異なると仮定して「単振り子の周期」を求めてみます。
このレベルの問題を解き慣れている生徒からは「『積/和』っていう形 よく見かけるな,と思っていたんです。この講義でスッキリしました」という感想が聞かれます。
【講義4】講義&例題「積/和」って何だろう?
私は定義や語源についてよく調べます。すると,意外な事実や見落としていたことが明らかになることがあります。
「換算質量」の英語表記を調べてみると,どこにも「換算」という意味が見当たらないのです。なぜ日本の物理学者は「換算」という和訳をしたのか,知っている方がいたら是非教えてほしいです。
「積/和」という形は,いろいろなところに登場します。
この講義では ”分類” を試みました。それらに共通点はあるのでしょうか。数学の「調和平均」が「積/和」に近い形をしています。関連があるのでしょうか。焦点距離にも「積/和」が見られます。
「積/和」って何だろう?
この問いを生徒に投げかけると,いろいろな考察が私のところに寄せられます。それぞれの生徒の視点が独特で,私は毎年,その考察を楽しみにしています。
【実戦問題4】「荷電粒子の運動」
過去問解説 埼玉大学
最後に,電気分野の問題を解きます(しかし,実は力学問題です)。
最後に出てきた答えに「換算質量」が発見できると思います。この問題で「換算質量」がどう関わってくるのでしょうか。答から逆に考えてみてください。
この問題はひっかかる者が多い問題なのですが,ひっかからなかった者も「なぜその式が成り立つのか?」という問いにはなかなか答えられないのです。それは,そこまで突っ込んで説明した参考書や問題集がほとんどないからです。