【高校物理】原子物理分野「原子」
1.【光電効果】(講義・例題)
金属に光を当てると電子が飛び出すことがあります。
これは金属の内部の電子が,光からエネルギーを受け取って
外部に飛び出したのです。
この現象を光電効果といい,飛び出す電子を光電子といいます。
光電効果は,1887年,ヘルツによって発見されました。
その後,詳しい研究 ( レナルト,1902年 ) によって,
次のような特徴が知られるようになりました。
・ 照射する光の振動数がある値(限界振動数)を越えなければ
電子は飛び出さない。
限界振動数は,光を当てる金属の種類によって決まる固有の値。
・ 振動数が限界振動数よりも大きい光を当てると,
光電子は,光の強さ(明るさ)に関係なく,すぐに飛び出す。
・ 光電子の運動エネルギーの最大値は,光の強さに関係なく,
光の振動数で決まる。
・ 限界振動数よりも大きい一定の振動数の光を当てると,
飛び出す光電子の数は光の強さに比例して増えるが,
光電子の運動エネルギーの最大値は変わらない。
こうした事実を説明するための仮説が,
アインシュタインの光量子仮説(1905年)です。
2.【光電効果】(実戦問題)
共通一次試験追試験(1989年) 過去問解説
光電効果の問題で問われているのは次の3つです。
・ 阻止電圧をつくる電気回路を含む装置の意味が分かること
・ 電子に関するエネルギー保存則が立てられること
・ グラフの特徴を説明できること
その際,エネルギーの単位が [J] か [eV] であるか気をつけよう。
3.【コンプトン効果・ブラッグ反射】
(講義・例題) 同志社大学(1999年)
過去問解説
コンプトン効果とは,
物質に X 線を当てたとき,
(物質内の静止した電子で)散乱される X 線の中には,
入射 X 線よりも波長の長いものが含まれる現象です。
コンプトン効果は,X 線を波動(電磁波)と考えると説明できません。
コンプトンは,アインシュタインの唱えた光量子仮説に基づき,
X 線がエネルギーと運動量をもつ光子の流れであるとして,
この現象を説明しました(1923年)。
結晶では,
X 線の波長とほぼ同じ程度の間隔で原子が規則正しく並んでいるため,
結晶は X 線に対して回折格子として働き,干渉の現象を起こします。
ラウエは,硫化亜鉛の結晶に (連続) X 線を当て,
ラウエ斑点とよばれる回折像を得ました(1912年)。
このような現象を,X 線回折といいます。
ブラッグ父子(父子ともに1915年ノーベル物理学賞受賞)は,
X 線回折を利用して,結晶中の原子の配置を調べました。
ブラッグ反射とは,結晶に X 線,電子線などが入射したとき,
結晶面間隔,波長によって決まる特定の方向に強い反射を起こす現象
です。
4.【コンプトン効果・ブラッグ反射】
(実戦問題)
東京工業大学(2005年)・
慶應大学医学部(2011年) 過去問解説
光波が波長よりも大きな物に当たって反射されたり,屈折したり,
波長程度の物に当たって散乱されたりしても,
波長や振動数は変化しません。
変化するとすれば,
エネルギー保存則を満たすように振幅が変化するだけのはずです。
コンプトン効果は,
X 線が波動であると考えると説明がつかない現象なのです。
5.【物質波】(講義・例題)
X 線などの電磁波は,波動としての性質だけでなく,
粒子としての性質も併せもつことが示されました。
ド・ブロイは,光の場合とは逆に,
ふつうは粒子と考えられている電子などにも波動性があるのではないか
と考えました。この波を,物質波といいます(1923年)。
デビットソンとガーマーは,
ニッケルの表面に電子線を当てたときに生じる回折のようすを調べ,
この考えが正しいことを確かめました(1927年)。
6.【物質波】(実戦問題)
福井大学(1990年) 過去問解説
物質波の一種である電子波の屈折とブラッグ反射についての考察です。
【解説】の(補足)では,
電子の加速電圧が150Vで,電子波の波長が X 線程度になること
を示しました。
この電子波の応用例が「電子顕微鏡」です。
光学顕微鏡(レンズを使った顕微鏡)では,
回折のため,可視光の波長よりも小さな物体を見ることは難しい。
分解能(2点を識別できる最小の距離)は,𝟏𝟎⁻⁷𝐦 程度です。
電子顕微鏡では,
加速電圧を高くすることによって,高い分解能が得られます。
電磁場によるレンズ作用(電磁レンズ)を用いているのですが,
現在の分解能は,𝟏𝟎⁻¹⁰𝐦 程度です(原子の姿も観察できます)。
7.【原子構造】(講義・例題)
新潟大学(2003年) 過去問解説
高温の気体から出る光のスペクトルは,
輝いた線がとびとびに現れる線スペクトルです。
線スペクトルは,気体の原子から発せられた光によるもので,
その波長は原子の種類によって決まっています。
スイスの中学校の教師であったバルマーは,
水素の可視光線の領域の線スペクトルを調べ,
1885年,波長に規則性があることを発見しました。
これが,水素原子の内部構造を知るための重要な手がかりとなるのでした。
ラザフォードの研究室で行われたガイガーとマースデンの実験では,
2万個に1個の割合でα粒子が大きく曲げられたそうです。
金箔の厚さはわずか0.00004cmでした。
報告を受けたラザフォードは,
「あなたがたが15インチの砲弾を1枚の紙切れに向かって発射したら,
それがはね返ってあなたがたに当たるくらい,
私にとっては信じがたいできごとであった」
と述懐しています。
8.【原子構造】(実戦問題)
京都大学後期日程(1992年) 過去問解説
原子物理の面白さは,
原子のことを研究していたら,広大な宇宙の一部が分かってしまう
というところにあると思います。
この京都大学の問題はその一例です。
「ピッカリング系列」という聞きなれないスペクトル系列を,
ボーアの原子モデルでひも解いていくと…
9.【X線発生】(講義・例題)
千葉大学(1999年) 過去問解説
X線は,紫外線よりも短い波長の電磁波の一種です。
X線発生のメカニズムは2種類あります。
連続X線と固有X線(特性X線)です。
連続X線は,
高電圧で加速された電子が,ターゲット(陽極)に衝突するときの
急減速によって放射されるX線です。
(この現象を制動放射といいます)
固有X線は,
高電圧で加速された電子が,陽極中の電子を金属の外部に叩き出し,
空いた軌道にエネルギーの高い陽極電子が遷移するときに発生します。
10.【X線発生】(実戦問題)
埼玉大学(1983年) 過去問解説
X線を発生させる方法は,
この埼玉大学の問題のように,X線管を用いるのがふつうです。
X線管を用いると通常,
「連続X線」と「固有X線(特性X線)」が発生します。
そして,発生させたX線を用いて,
コンプトン効果やブラッグ反射などの現象を起こさせます。
強いX線を放射させる方法の1つに「シンクロトロン放射」があります。
これは,電子を数百 MeV から数 GeV のエネルギーに,
円形加速器(シンクロトロン)で加速させることで起こします。
電子は,(常に)曲がるために制動放射によってX線を出します。
シンクロトロン放射は連続スペクトルをもちます。
円軌道の曲率半径が小さいほど,
スペクトルは短波長側に伸び,X線強度(強さ)も高くなります。
以上です。
マナブ