きみトリ×ラーンネット 10代とトリセツをつくる授業 第3回レポート
きみトリプロジェクトの高橋ライチです。
神戸のオルタナティブスクール「ラーンネット・グローバルスクール」さんとの協働で、思春期クラスにて10代の皆さんと一緒にトリセツをつくる授業に取り組んでいます。
初授業のようす
通年授業について
1学期 1回目授業 イヤだとOKについて
1学期 2回目授業 イヤだとOKのトリセツ発表
2学期のテーマは「心の声を聴く」です。
1学期の「イヤだとOKのトリセツ」授業で、みなさんが生き生きと自分の気持ち・仲間の気持ちについてみつめていたことを受けて、2学期は「そこからさらに解像度を上げて心の中を探究してみよう」とこのテーマを選びました。
共感を体験する
1学期はやむなくオンラインでの授業となりましたが、今回は現地に行けました。画面ごしで見ていた美しい学び舎に、実際に立ち、子どもたちのエネルギーに触れることができて「現場で実体験すること」の力を感じました。
色づき始めた六甲山の木々を背景に、5,6年生11人と輪になって座り、真ん中に「感情のカード」と「ニーズのカード」の二種類を並べました。心の中は見せ合うことができないけれど、言葉になると、やりとりができます。カードという具体的なモノになると、さらにそのやりとりがしやすくなります。
まず、今回のテーマである「心の声を聴く」の「心の声」とは、「感情」と「ニーズ」の二層に分けてとらえることができるということを紹介しました。これは、NVC(ノン・バイオレント・コミュニケーション 非暴力コミュニケーション)の考え方によるものです。
・嬉しい、幸せ、怒り、悲しみなどのさまざまな「感情」は、その人にとって大事な何かが満たされているか損なわれているかなどをお知らせしてくれている。
・大事な何か、とは、人間にとって普遍的な、必要=ニーズである。
・今日は、相手の話を聴くときに、出来事だけを聞くのでなく、
「感情」と「ニーズ」を一緒に感じてみよう。
ということをみなさんに共有しました。
(詳しくはNVCジャパンのサイトをご覧ください。『きみトリ』ではp.110 「怒りのトリセツ」の項でご紹介しています。)
最初は、話しやすい「嬉しかった経験」について、1人にシェアしてもらいました。それからみんなでその人の感情をカードの中から選んで「幸せな気持ち?」「感動じゃない?」などと【共感】を試みます。
話してくれた人は、ひとつひとつ受け取ったカードをみて「うん、それもある」「それはないかな」などと自分の心と照らし合わせて、【自己共感】を深めていきます。
さらにもうひと掘り、「感情」だけでなく「ニーズ」のカードも探していきます。
話が抽象的になってしまうので、例えを使って補足しました。
「感情が表にあらわれているお花だとすると、その根っこの地面の中にあるお芋がニーズだよ」と説明すると、「お芋!」とよい反応が返ってきます。芋掘りを楽しむように、さきほどの嬉しい話の奥にあるニーズをみんなで探しました。
「そのとき『学び』が満たされたのかな」「『意思疎通』ができたから嬉しかったの?」など、驚くほどの活気で、感情の奥に、どんなニーズが満たされたのかを想像し合いました。まさにみんなでわいわい芋掘りしてるみたいでした。
さて、次は嬉しい話ではなく、残念な話でやってみました。思春期になると、これまでより複雑な感情に直面することが増えてきます。居心地の悪い感情が湧いてきて、自分でもどうしたらいいのかわからないとき、その奥にあるニーズをたぐっていくと、自分がどうしたいかが見えてきます。自分ひとりでニーズをみつけるのが難しくとも、誰かが「聴いてくれる」と、みつけやすくなります。
残念な話、がっかりした話、怒っている話、などは感情だけにフォーカスすると聴く側も苦しくなることがありますが、ニーズを一緒に感じると不思議と苦しくなく、むしろ希望が湧いてくることもあるのです。このことを、思春期の入り口で知っておくことが、みなさんの助けになりますように。
さきほどと同じように、1人の体験から、みんなで感情とニーズのカードをたくさん選んで芋掘りをしました。みなさん掘るのがうまくなっています。
1対1で聴き合う
話したいことがあふれてくる人がたくさんいて、1日中輪になって聴いていたいくらいでしたが、休憩をはさみ、今度は2人組で聴き合う実習をしました。
驚いたことに私が「2人組になります」と話すとすぐに「11人なんだけど、どうする?」という声があがります。「どうしようか」と問うと「3人組でやる」「俺がウォッチャーになる」などどんどん意見が出ます。私が「3人で交代すると時間が1.5倍必要だね」「ウォッチャーもいいけど全員に体験をしてほしいな」など希望を伝え、ひとりはナビゲータのあおらさん(この学年の副担任で、「思春期クラス」の授業を担当されている方)と組むことになりました。
「休憩の前にペアを決めよう」とさーっと子どもたちだけで5年と6年が組むペアを作ってしまいました。この行動の速さ、主体性、自治力。これが普段たくさんの探究活動をしている人たちの力なのだと感嘆しました。
実習は7分間。普段の会話のように相互に話すのではなく、1人の経験を1人が聴きます。感情とニーズの言葉を一覧にした紙を2人でみながら、あてはまるものに〇をつけていくというやり方です。交代して逆の立場も体験しました。
もう1度みんなの輪に戻って、感想や発見についてシェアタイム。これまた次々と自分の言葉で語ってくれます。ひとりひとりの学びとる力と、輪の中にそれを分かち合うつながりの力に、大きく心を動かされました。
私が「前日緊張で眠れなかったんだよね」というと「それは自己表現のニーズじゃない?」など、さっそく共感をしてくれたことにも、感激しました。共感を伝えに行った私が、共感のすばらしさを浴びていました。
トリセツをつくる
次回は12月に、トリセツの発表をしてほしい、と伝えると、すでに1学期に1度やっているので「あー、トリセツね」と、すぐに伝わったのが嬉しい。共通言語となっている!しかも、早くも頭の中で構想が立ち上がり、その場でワークシートに書き込み始める人が数人いて、それにも驚きました。
感情について、ニーズについて、聴くことについて、など今日やったことをふまえて、トリセツづくりのテーマ設定は自由。
発表形式は、スライドでも文章でも壁新聞でもラップ(!)でも自由。
「心の声を聴く」という概念を知って、体験してみて、そしてこの1か月ちょっとでみなさんがどんな探究をしていくのか、とても楽しみです。
肌で感じるインクルーシブ
思春期クラス担当で、光学年(5,6年生)副担任のナビゲータ・あおらさんとテラスで記念撮影。ラーンネット・グローバルスクールのスタッフは子どもたちの探究的な学びをナビゲートする役割なので、「先生」ではなく「ナビゲータ」と呼ばれています。
授業内容を考えたり、普段のようすをきいたりと、あおらさんとは膨大なメッセージのやりとりをして支えていただいています。子どもたちの身近にいる大人と、きみトリプロジェクトのような外部からやってくる大人とが、連携することでつくられる場の可能性を感じています。
子どもたちは外からやってきた私を驚くほどすんなり受け入れてくれて、興味を示し、こちらが意図した以上のことをぐんぐん吸収していました。ひとりひとりが、その子らしく多様なままそこに居てよくて、表現をせきとめるものを感じません。その輪の中に私も含まれていたのでした。私らしく、私のままで居てよい。なんと心地よいエネルギーだったことでしょう。
多様性とかインクルーシブとか、文字ではよく見るし概念は知っているつもりでしたが、肌で、全身で体感したのは初めてです。その場では言葉にもならなかったのが、後日感動をあおらさんとメッセージでやりとりする中で「あれがインクルーシブだったのだな!」と身体に残る感覚に名前がつきました。
まさに、言葉にならない強い衝動やわいてくる気持ち、未消化の体験を言語化することを伝えに行ったはずの私が、同じくらいの学びを頂いていたのだと思い知らされました。大人だから子どもだからということじゃなく、双方向に学びは起こっているのですね。
ラーンネットの基本理念である、お互いを「照らし合う」時間。そこに私も含まれていたのだと、じわじわと後から感動を味わっています。
きみトリの授業にご興味のある方へ
きみトリプロジェクトでは、こうした継続的な学びの場を、学校、学童、居場所、コミュニティなどの方々と一緒につくります。まずは単発からの実施も可能です。プログラムにご興味を持たれた方はぜひ、ご連絡ください。
書籍購入の際は、コミュニティ単位で注文をとりまとめていただくと、割引価格での頒布も可能です。もちろん購入しなくても授業の実施は可能です。
お問い合わせ
きみトリプロジェクト
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