自治体の姉妹都市
ロシアがウクライナに侵略する戦争が始まってしまいました。一刻も早く戦争が終結することを祈ります。さて、そんな中でこのような記事を見かけました。
京都市がキエフ市の姉妹都市であるということは初めて知りました。
そして、これを機に自治体の姉妹都市について考えてみようと思います。
1.姉妹都市とは
京都市に限らず、姉妹都市として国内・国外の自治体と交流・提携している自治体が多くあります。お互いの文化交流が主な目的です。イベントをしたり、使節団を送りあったりします。私も観光の部署にいたときは、姉妹都市から来た学生さんの案内をしたことがあります。また、災害時には援助物資を送ることもあります。一歩進んで、行政のノウハウを交換しているところもあるようです。
国別に姉妹都市の数を見てみると、
アメリカ:458
中国:379
韓国:165
オーストラリア:107
カナダ:72
ブラジル:58
ドイツ:56
フランス:54
ロシア:48
といった感じになっています。
出展 自治体国際化協会ホームページ
http://www.clair.or.jp/j/exchange/shimai/countries/
こうしてみると、日本と関係の深い国が並んでいることがわかります。ちなみにウクライナは、キエフ市(京都市)とオデッサ市(横浜市)の2市が姉妹都市となっています。
2.姉妹都市の2つの潮流
毛受敏浩さんの「姉妹都市の挑戦-国際交流は外交を超えるか-」(明石書店)では、姉妹都市には2つの潮流があるとしています。ヨーロッパ型の姉妹都市と、アメリカ型の姉妹都市です。これは初めて知りました。
第二次世界大戦後、ヨーロッパで敵対した国同士、フランスとドイツの都市が交流することで戦争の惨禍を防ごうとしたのが、ヨーロッパ型の姉妹都市の始まりとされています。最初は気まずかっただろうなと思います。よくぞ交流を企画したものです。
一方で、アメリカ型の姉妹都市とは、冷戦期にアイゼンハワー大統領が提唱した市民が外交の担い手となるピープル・ツー・ピープル・プログラムを起源としているようです。これも非常に政治的な意図をはらんだものですが、政府の意図を超えて交流が進んだようでもあります。
いずれにしても、異なる国の自治体同士が交流を行うのは第二次世界大戦後のグローバルな世界を象徴しているともいえます。
3.90年代以降は減少傾向
こうした2つの潮流を背景に姉妹都市の取り組みが進められてきましたが、90年代以降、姉妹都市提携自治体は減少傾向にあるそうです。佐藤智子さんの『自治体の姉妹都市交流』(明石書店)では、次の理由を指摘しています。
① 平成の大合併
合併前のそれぞれの姉妹都市をそのまま引き継ぐと合併後の市町村にとって負担になってしまうからでしょうか。
② 自治体の財政難
文化や交流というのは真っ先に予算が切られる分野ではあります。
③ 外国人の定住化
非日常的な交流よりも、外国人が地域で住むようになり、日常的な交流や多文化共生の取り組みが優先されているのかもしれません。
④ 姉妹都市交流の意義の問い直し
年に数回、限られた市民が交流する。こうした姉妹都市の交流の在り方が正しいのかという問題意識はあるかと思います。もちろん、交流をすること自体に意味があるという意見もあるでしょう。しかし、自治体の施策は常にその費用と効果については検証が必要なのもまた確かです。
4.外交ではなく交流
姉妹都市の取り組みのことを「自治体外交」と呼ぶ人もいますが、そもそも、自治体が外交をすることは想定されていません。
地方自治法において、地方自治体は地域の身近な事務、国は「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」を行うといった役割分担が明記されています。国レベルの「外交」と地方自治体レベルの「交流」は、分けて考えるべきでしょう。
国同士の外交がうまくいっているときに、それを自治体レベルでより親密にする効果はあると思います。逆に、国同士の感情が悪化しているときに地方自治体レベルの交流を続けることに意義があるのかもしれません。一方で、ある国に対して国民感情が悪化しているときに、地方自治体レベルの交流を進めることは、市民から反発を受けるおそれもあります。国の代わりに自治体が外交を担えるとは軽々に考えるべきではありません。
このように考えていくと、姉妹都市は平和を希求する交流の在り方ではありますが、限界もあります。国際問題を考えるときには、現実的にできることとできないことを峻別していかなければなりませんが、国際交流の一つである姉妹都市についても、できることとできないことはきっちり考えていかないといけないといえそうです。
さて、今回のウクライナ侵略において、世界各地で侵略を止めるべきとの国際世論が形成されています。国際世論の一つとして、ウクライナの都市と姉妹都市となっている自治体が連帯を示すこと、何らかの支援をすることはできるでしょう。一方で、ロシアの都市と姉妹都市となっている自治体が、どのような姿勢を示すのかについて注目していきたいと思います。
参考文献
毛受敏浩「姉妹都市の挑戦-国際交流は外交を超えるか-」(明石書店)
佐藤智子「自治体の姉妹都市交流」(明石書店)
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