
The Centenary を振り返る: "Vaudeville"
レーベル100タイトル記念企画として、クラウドファンディングのご支援により制作させていただいた『The Centenary』(KDR-100〜102)。まずは、改めて関わっていただいた全ての方に御礼申し上げたい。
ご支援いただいた方やプロデューサーを「買ってでて」くださった方はもちろん、素晴らしいイラストで世界観の礎を築いてくださった結賀さとる先生、ゲストボーカルや演奏家の皆さま、エンジニアの坂さん、特殊仕様のパッケージに根気強くお付き合いくださった印刷業者の方々、リターン品作成に関わっていただいた多くの方々、600名以上のご支援者さまへ漏れなくリターン品をお届けくださった発送代行業者の皆さま…。
本当に数多くの方のご協力でlove solfege始まって以来の一大プロジェクトを無事完遂することができた。
本当にありがとうございました。
はじまりの港町 — "Vaudeville"世界の誕生
さて、この記念作品の表題曲からはじまる、disc1 "Vaudeville"。
CD同梱のライナーノーツ冊子にも記載した通り、「レーベル100タイトル記念のお祭りCD」であること以外、ほとんどなんの制約もない状態でのスタートだった。
確かメンバー内で企画書の出し合いはしたような覚えはあるが、結局明確にコンセプトやプロットが固まらないまま企画が進んでいった気がする。
結賀先生にイラストを発注する際にも、何も決まっていない状態でお話しするわけにもいかず、ひとまずとっかかりでもいいから用意しなければと思った時、ある企画書の存在を思い出した。
タイムスタンプによると2022年の2月ごろに書き上げたらしい『il banchetto』と仮タイトルをつけた企画書。内容は「船で海外から渡ってきた移民によって建てられた港町で、最初期に建てられた家がやがて町の歴史を展示する小さな博物館となり、地元の人々に愛された後、老朽化により記念式典と祝宴を最後に取り壊される、その家の一生を描く」というプロットだった。
結局『il banchetto』は制作されることはなかったが、このプロットを下敷きに、「港町のお祭り」という舞台がまず出来上がった。そしてその舞台を結賀先生が美しく緻密に彩ってくださり、"Vaudeville"の世界が形成された。
"Vaudeville"はストーリーCDなのか
先日、X(旧Twitter)で「"Vaudeville"の物語が好き」という旨のポストを拝見した。感想をいただけるだけでもありがたい上、好きだと言ってくださることのなんと嬉しいことか。小躍りしかけたところ、ふと冷静になって考えてみると「果たして "Vaudeville"は物語なのだろうか」という疑問が浮かんだ。
「港町のお祭り」を舞台としているが、ハレの日の光景としては至って地味である。実際片田舎の港町をイメージしているため、地味で問題ないのだが、楽曲と切り離して歌詞だけを読んでいただけるとお分かりになる通り、そもそも起承転結がほとんどない。
船は祭りが終わればまた仕事の航路に戻るだけだし、バイオリンは祭りの日じゃなくても道端で鳴り響いているし、いつの間にか盗まれていたブーツが返ってくることもない(鳩は帰ってくるけど)。
ヤマもなければオチもなく、ドラマ性がほとんどないのだ。
ライナーノーツ冊子で本作を「群像劇」と言っているが、歌詞だけでは本来「劇」と名乗れるようなものでもなく、曲という演出家が加わって、やっと劇らしくなっている。そして、全曲を通して聴くと、なんとなく薄ぼんやりと箱庭の輪郭が浮かび上がってくる、そんな作品である。
"Vaudeville"を物語として愛することができる人は、きっとなんでもない日常に物語を見出して、それを愛せる人なのだろう。
日ごとに 気づかない速度で
少しずつ何かが変わっていくだろう
けれど ふと立ち止まるときに
そっと傍らに 添える情景を
表題曲の歌詞にある通り、そんな素敵な方々のなんでもない日常に寄り添える作品となったなら、誇りに思う。
いとしの我が家 — 他作品との繋がり
幻の企画書『il banchetto』のプロットをご覧になって、お気づきになった方もいるのではないだろうか。実は、2023年冬のコミックマーケット103で数量限定頒布したマキシシングル『天使の降る屋根裏』(KDR-107)の二曲目、「ホーム・スイート・ホーム」は同じプロットから派生している。
元々記念式典よりも「家の一生」に重きを置いていたプロットだったため、舞台設定を引き抜いてもなお使えるピースが残っていた。
せっかくなので、当時の原詞 —— 日本語詞でも稀に原詞を書くことがある—— をご覧いただこう。

KDR-107表題曲の「天使の降る屋根裏」は全く別のプロットだったが、取り合わせが良かったため、「ホーム・スイート・ホーム」を加えてひとつの企画として制作した。
love solfegeリスナーの皆さまは、我々がきっちり緻密な企画を練って楽曲制作をしていると思われているかもしれないが、比較的 —— 少なくとも私が加入して以降は —— 柔軟かつ臨機応変にケース・バイ・ケースで制作を行っているのである。このnoteでは、そういった裏話もできる限り公開していこうと思うので、興味のある方はぜひ今後もお付き合いいただけましたら幸いです。
いいなと思ったら応援しよう!
