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日本と世界における「劇伴」の今。これから劇伴を目指す人へ。【多田彰文先生対談#4】


今回は、数々の有名映像作品の音楽を手掛けられている作曲家の多田彰文先生と、サックスプレイヤー、沢井原兒先生の対談、最終回です。

多田先生は、茅原実里、中川翔子をはじめとするアーティストのサウンドプロデュース、また劇場版ポケットモンスター、クレヨンしんちゃん他、アニメやドラマ、ゲームなどの背景音楽を手掛けられています。

対談では、多田先生が今のお仕事に至るまでの経緯や、普段中々知ることができない、「映像に音楽をつける」というお仕事についてお話を伺っていきます。
ぜひ最後までお楽しみください。(以下、敬称略)

【対談者プロフィール】

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多田 彰文(タダ アキフミ)

作・編曲を手使海ユトロ氏、指揮法を大澤健一氏に師事。日本大学文理学部在学中より音楽活動を開始。
茅原実里・中川翔子など歌手・アーティストのサウンドプロデュース・編曲などを手がける。アニメーションでは「魔法つかいプリキュア!」ED主題歌作曲をはじめとするプリキュアシリーズを編曲。劇場版では「ポケットモンスター」「クレヨンしんちゃん」などの背景音楽を作曲。ゲームでは「ガンパレードマーチ」など「爆・ボンバーマン64」を作曲。また、YouTube動画再生が500万回を突破・新海誠監督の Z会CM「クロスロード」では編曲のほか作詞をも手がける。作曲のみならず様々な楽器の演奏・指揮者・司会者までもこなす。


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沢井原兒(サワイ ゲンジ)

20代より多くのジャズバンドに参加。
アルバムのプロデュースは40枚を超える。
矢沢永吉/RCサクセション/鈴木雅之/加山雄三/今井美樹/米倉利紀/REBECCA/中村雅俊/上田正樹/シーナ&ロケッツ/吉川晃司/小林克也 他、Stage Support / Produceを行う。
インストラクターとしてはヤマハ、音楽学校メーザー・ハウスなどで40年以上。現在は株式会社MOP代表、IRMA役員。

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沢井:最近の作家とかアレンジャーって、打ち込みはできるけど生の楽器はよくわからないっていう人が結構いるんじゃないかと思うんですけど、理想のあり方としては、やはり両方できなくてはいけないというふうにお考えでしょうか。


多田:うーん、両方ともできないから僕が存在していられるんじゃないですか?(笑)


沢井:いやいや(笑)
ただ、アメリカの場合の話をすると、アメリカって音楽家の中で1番ステータスが高いのが映画音楽の作家なんですよ。ジョン・ウィリアムズみたいな。

やっぱり映画音楽をやることで、世の中に認められるというか、みんな最終的には映画音楽をやりたいと思っているらしいんですよ。そういう意味で言うと日本はまだまだ映画音楽がそこまで評価されていないような気がするんですが、その辺りの不満などはないですか?


多田:あまり僕は評価されていないと思ったことはなかったですね。それは報酬的にもそうだし立場的にもそうだし、恵まれているのかなと思います。アメリカだとそうなんですね。


沢井:やっぱりジョン・ウィリアムズなんかだと、全部印税だと言う話も聞きますね。


多田:彼だからということもあるんですかね、契約によって色々と違うのかもしれないけれど。


沢井:ある程度の最低のバジェットがあって、それを超えるとインセンティブとして売り上げの何%かが入ってくるという話を聞きましたけどね。


多田:それはやっぱり、劇伴作曲家の協会みたいなものがあるんですかね。
日本はまだ、作曲家協会、作詞家協会みたいなものしかないですからね。


沢井:そうみたいですよ。まあ、日本で評価されていないという言い方は良くないかもしれませんが、要するに映画音楽をやったら、すごくお金が入ってくると言う事実があれば、やっぱり多くの音楽家がそれを目指すんじゃないかなと思うんですよね。


多田:そういう意味では、割は良いのではないかと思いますけどね。
単純に考えて、歌ものって作詞家と作曲家がいるから半分になりますよね、でもサウンドトラックは作曲家だけなので丸々入ってくることになりますから。
まずその点と、「現状サントラが売れているか、売れていないか」ということは別にしても、やはりサントラをかけてもらう機会がありますよね。
例えば、アニメなり実写なりのコンテンツが二次使用された場合にはそれも含めての金額が入ってきます。
ヒットしたらヒットした分だけまた増えますし、楽譜もできますから、割は良いのではと思いますよ。


沢井:なるほど。日本で言うとアニメがグローバルに活躍していて、世界中で認められるようなものが今後もどんどん出てくると思うんですよ。
そう言う意味でいうと、アニメをはじめとする映像音楽の分野を目指す音楽家が増えてくると思うんですが、やはりいろんな知識がないと、映像音楽を作ることは難しいですよね。
そういう人たちにむけて「こういうことを勉強した方がいいよ」とか「こういう考え方でいた方がいいよ」とかいうものがあればお聞きしたいです。


多田:音楽のことはまず『MANAB』で学び、音楽以外のことをむしろインターネットやSNS、リアルでの人との交流の中から積極的に学んでほしいと思っています。劇伴においてはこの『音楽以外』の様々な知識を得てからの知見をどう音楽にアウトプットするかが大切となるので。

沢井:なるほど。MANABにくれば、多田先生のクラスで色々なことが学べるということですね。


多田:劇伴コースはゼミ形式を採用していますが、ソルフェージュなど、通常音大で習うような作曲に必要なことについて、ここではとやかく言うつもりはないんです。
もちろん劇伴をやる以上は楽器や楽曲について触れざるを得ないのでそこを中心にやりますが、このコースを受講するメリットとしては音楽以外のことを学ぶための手がかりが盛り込まれているというところです。

なので、音楽以外のことをどう学んでいくのか、そしてなぜそれが必要なのかということがわかるかなと思います。
それをやるために、例外としてこういった曲を作ってみようというような課題を出したりはしますが、決して音楽の理論をわかっていれば作れるということではないのが劇伴の面白いところだと思います。


沢井:分かりました、ありがとうございます。
では最後に、自分が作ったもの以外の映像音楽で「すごいな」と思った作品があったら教えてください。


多田:うーん、やはり『エヴァンゲリオン』の鷺巣詩郎さんですかね。あと尊敬するのは、菅野祐悟さん。後輩だと林ゆうきくんですね。素晴らしいと思います。
本当に名前をあげればキリがないですね。
海外いうとハンス・ジマーだったり、ジョン・ウィリアムズだったり、もちろんそれはいうまでもないですけれども、個人的にはジェームズ・ニュートン・ハワードという作曲家がすごく好きで、彼の作品は好んで聴いています。


沢井:なるほど。ハンス・ジマーが今すごく売れているじゃないですか、あれはどう思いますか。


多田:素晴らしい作曲家だと思います。彼を境に映画音楽の形態がガラッと変わったんですよね。


沢井:なるほど、そうなんですか。


多田:はい、それまではメロディックな音楽が主体だったものが、僕が認識する中では、彼を境にテクスチャー主体になってきたんですよ。


沢井:じゃあハンス・ジマーが映像音楽の流れを変えたというふうに認識されているのですね。


多田:僕の知識の中ではそう解釈しています。
もちろん、「そうじゃないよ、もっと前からあるよ」とおっしゃる方もいるとは思うんですが、やっぱり何かにつけて彼が題材に上がってくるじゃないですか。
それはやっぱり、彼が映画音楽に対して転機を投げかけたからということではないかな、と思っています。


沢井:なるほど。本当はもっとお話を聞きたいのですが、本日はそろそろ時間となりました。今回は本当にありがとうございました。


多田:ありがとうございました。

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今回、作曲家・多田彰文さんの対談を4回にわたってお送りしてきました。

これまで映像作品を楽しむ上でたくさんの劇伴を聴いてきましたが、実際その音楽がどんなふうに制作されているのかということに関しては、今回の対談で初めて知ることができました。

しかし考えてみれば、お気に入りの映像作品のワンシーンで、感動したり手に汗を握ったり、楽しい気持ちが高まったりする瞬間にはそこに流れる音楽が大きく関係していたように思えます。
「あの映画のあのシーンの曲を聴いただけで泣ける」、「このアニメの戦闘シーンの音楽を聴くとやる気が出て作業が捗る!」ということがありますが、それは多田先生のおっしゃていた劇伴の持つ「音楽以外の部分」が働いて、聴いている側の感情を動かしているからではと感じました。

劇伴の世界を知れば知るほど、映像作品をより一層深く楽しむことができそうですね。

今後も「アーティストのミカタ」では、今後も音楽のプロとして活躍されている方をゲストにお迎えした対談企画を行っていく予定ですので、ぜひチェックしてみてください😁

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