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歴史の流れと強権指導者 - フォーリン・アフェアーズ・リポート2025年2月号感想
世界最高峰の外交シンクタンク「米国外交問題評議会」の月刊誌FAR(フォーリン・アフェアーズ・リポート)を読むことで、
・外交分野の高い抽象度のゲシュタルト作成
・(FARは米国利益の視点なので)日本の利益および世界平和の視点の思考訓練
を目的として購読しています。
歴史の流れと強権指導者
①歴史のなかのトランプ - 繰り返される秩序との闘い
マーガレット・マクミラン オックスフォード大学 名誉教授(国際史)
序文抜粋『ある種の指導者は歴史の流れを変えられるという見方を受け入れるとしても、政治や社会が大きく変化するのは、制度が権威を失いつつあるときだ。事実、民主国家への信頼は失われつつある。そして、国際ルールを破って何の責任も問われない指導者がいれば、それに続く者がでてくる。1914年のように、過ちや誤解が対決へつながっていく危険は常に存在するが、いまやその危険はますます大きくなっているようだ。トランプ政権が孤立主義的政策をとり、NATOから脱退し、中国と対立し、世界の多くの国々と関税戦争に突入すれば、世界はどうなるだろうか。それによって、世界がより安全な環境を手にするとは思えない。』
反トランプ論文です。米外交問題評議会は、トランプ就任後も反トランプ路線を継続していることを理解しました。アイザック・アシモフのファウンデーションを引き合いに出すなど、ポエティックで文章としては面白い
核をめぐる韓国の立場
②韓国の核武装を認めよ - 北朝鮮の脅威とアメリカの干渉
ロバート・E・ケリー 釜山大学政治学部 教授
キム・ミンヒョン 慶熙大学政治学部 教授
序文抜粋『大陸間弾道ミサイルを開発した平壌は、いまや核兵器でアメリカの都市を攻撃する能力をもっている。このために、アメリカが(自国が反撃されるリスクを冒しても)韓国への安全保障コミットメントを果たすかどうかがいまや問われている。しかも、米韓同盟を批判してきたドナルド・トランプが大統領としての2期目を迎える。北朝鮮の核の兵器庫が拡大し、トランプ政権下のアメリカが後ろ盾としての信頼を失うにつれて、韓国の市民やエリートの核武装オプションへの支持は高まる一方だ。問題は、ワシントンが韓国の核武装路線に否定的なことだ。同盟国が危険にさらされたままの状態にあることを求めるのではなく、ワシントンは、ソウルが安全保障への道を自ら見つけることへの障害を取り払うべきだろう。』
核の傘の議論は、日本にも完全に当てはまる議論だと思います。論文では、韓国が核武装しても日本は核武装しないと述べています(反核感情が高い為)。
私は、ロシア(核保有国)によるウクライナ侵攻によってNPT体制が崩壊した今、日本も核について議論する事が必要だと思います。
トランプが直面する世界
③プーチンの対欧米戦争は続く - ウクライナを越えた戦い
アンドレア・ケンドール=テイラー 新アメリカ安全保障センター シニアフェロー
マイケル・コフマン カーネギー国際平和財団 シニアフェロー
一部抜粋
『二期目のトランプ政権がモスクワとの関係の正常化に関心があるようにみえるとしても、ロシアとの対立は激化していく環境にある。』
『したがって、米欧は、ロシアに対抗するための能力を整備するためにいま投資しなければならない。そうしない限り、いずれはるかに大きな代償を支払うことになる。特に第2次トランプ政権は、ロシアへの政策上の優先順位を下方修正する余裕はないはずだ。』
といった内容の論文。ロシアが強くなっているという分析は同意しますが、故に脅威であるという結論は同意しかねます。ロシアが西側以外の地域(The Rest)のリーダーシップをとっていることを認め、西側はどう共存するかという視点に立って欲しい。
④北京が対米関係を静観できる理由 - 緊張と孤立主義の間
ヤン・シュエトン 清華大学 国際関係研究所 名誉所長
Chinaは、米国大統領がトランプになることを恐れていないという自信に溢れた論文。
序文抜粋『北京にイデオロギーを国際的に広める計画はなく、中国共産党は国内の政治的安定を維持していくことを重視している。トランプも同様に国内を重視しており、両国が直接衝突するようなイデオロギー対立に緊張がエスカレートすることはないだろう。むしろ、ロシアと緊密な関係にある中国は、その影響力を利用して、効果的な和平取り決めを特定するために、トランプと協力できるだろう。米大統領の経済保護主義志向は緊張を高めるだろうが、北京はそのような対立をうまく切り抜けられると考えている。トランプの孤立主義も、北京が米同盟国との関係を改善する機会を提供するとみている。中国の指導者たちは彼の権力者としての復活を恐れてはいない。』
⑤いかに戦争を終わらせるか - ウクライナのNATO加盟を認めよ
マイケル・マクフォール 元駐露アメリカ大使
序文抜粋『戦争を終わらせるには、ロシアにウクライナの一部領土を与えるのと引き換えに、北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナ加盟を実現させる洗練された計画が必要になる。恒久的な平和を生み出すには、このような妥協をするしかない。「勝利しつつある」と考えているプーチンに和平交渉に入るように説得できても、トランプはゼレンスキーも説得しなければならない。これは大きなチャレンジになる。領土奪還を諦めるならば、これらの土地に住む市民も見捨てるのか、それともウクライナ西部への移住を保証するのか、ゼレンスキーは決断しなければならない。そして、トランプ自身、和平交渉を実現するために、ウクライナ支援を維持(さらには拡大)する必要がある。』
私は、「(a)ロシアにウクライナの一部領土を与えるのと引き換えに」と、
「(b)北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナ加盟を実現させる洗練された計画」を同時に満たす事は無理だと思います。
論文を読むと、著書は(b)案に重きを置いているようです。
⑥対中貿易規制と国際協調 - グローバル貿易と同盟関係
ピーター・E・ハレル カーネギー国際平和財団 非常勤フェロー
序文抜粋『世界の工業生産に占める中国の割合は2000年の6%から2030年には45%に達すると予測されている。これに対してアメリカのシェアは25%から11%に低下する。これは、中国との地政学的対立のさなかにあるアメリカと同盟国にとって、許容できるコースではないだろう。トランプは(同盟国の製品を含む)すべての輸入品に20%の「普遍的基本関税」をかける路線を見直し、同盟諸国と協調して新たな合意をまとめる方が、アメリカの経済と安全保障にはうまく機能することを認識すべきだろう。冷戦期のように、多国間輸出規制レジームなどを通じて貿易と安全保障の両面で協力する一方で、同盟国との二国間貿易赤字には関税よりも、むしろ、相手国の内需を促す路線をとるべきだろう。』
私は、関税はカントリーリスクと思います。リスク見積もりは民間企業の場合はそれぞれ企業判断でしょうが、国家においては、国内中心の経済を作る事が国益になると考えます。
Current Issues
⑦中国の報復社会 - 何が問題を引き起こしているのか
ペイドン・サン コーネル大学 准教授(中国・アジア太平洋研究)
序文抜粋『中国では2024年に、無差別に民衆を襲撃する暴力事件が少なくとも20件発生し、その犠牲者は90人を超えた。ある研究によると、2004―17年に世界で報告された大量刺殺事件の45%が中国に集中している。政府関係者は、こうした「社会への報復」攻撃を「孤立した事件だ」と説明している。だが、事件の背景には経済の停滞、格差、社会的流動性の欠落や社会的疎外などが引き起こす中国社会の亀裂があるし、根底には、社会不満を増幅させる政府の抑圧が存在する。共産党が経済的機会を拡大し、構造的な不平等や不公正を減らしていかなければ、やがて「社会への報復」攻撃以上の大きな問題に直面するかもしれない。』
China国内の暴力事件が多いのは事実のようですが、増加しているのか、また、インパクト(China国内および国際的影響どちらも)については読み取れませんでした。
⑧AI開発レースの地政学リスク - 米中、ビッグテック、ミドルパワー
レバ・グージョン ロジウム・グループ ディレクター
序文抜粋『ワシントンにとって、AIはグローバルな技術優位を維持しなければならない新たなフロンティアだ。アメリカは輸出規制を通じて中国の技術開発を抑えようとし、一方の中国は国の力を動員してアメリカに追いつこうとしている。米中が技術覇権を模索する一方で、いずれの影響下にも入ることを避けたいミドルパワー、そして、開放的市場を通じた技術の世界的普及を重視するテクノロジー企業は、AI開発を通じた多極世界への道を思い描いている。問題は、AI規制によって追い詰められた北京が、アメリカを中国の存続を脅かす脅威とみなし、テクノロジー競争を安全保障領域へ向かわせる恐れがあることだ。』
FAR誌上のAIのテーマは、「どの程度統制するか」という物が多かったと記憶で、それが、「米国VS China」に変わったという印象を受けました。
⑨ロシアの軌道に組み込まれるジョージア - ハンガリー化するジョージア
クリスチャン・カリル ジャーナリスト
ジャーナリストによる、ジョージアの与党「ジョージアの夢」(新露)を批判する記事。
序文抜粋『12年前に政権党になって以降、「ジョージアの夢」は巧みに国を掌握してきた。かつて首相を務め、同党に大きな影響力をもつビジナ・イヴァニシヴィリは、官僚、司法、法執行部門の事実上すべての主要な役人を、段階的に党に忠実な支持者に置き換えていった。こうして、「ジョージアの夢」は、自分たちの条件で思うままに権力基盤を固め、ついには、欧米の影響力を遮断することを目的とする「外国の代理人」法を成立させ、不正な選挙を実施した。「ジョージアの夢」は、すでにビクトル・オルバン流の国家乗っ取りへ向けた重要な一歩を踏み出し、いまや欧米からロシアへと決定的に軸足を移そうとしている。』
著者の本
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