「中東の混乱とイランの戦略」(フォーリン・アフェアーズ・リポート2024年5月号)一言感想FAR
今の世界の権力者の主張を確認するために読んでいます。私は、”行き過ぎた” グローバル資本主義には反対で、各国家の主権を尊重することを支持します。
https://www.foreignaffairsj.co.jp/journal/202405/
中東の混乱とイランの戦略
①イランの戦略目的は何か― 混乱と変動から利益を引き出せる理由
スザンヌ・マロニー ブルッキングス研究所 ディレクター(外交政策プログラム担当)
要点抜粋
『
・10月7日以降の中東における戦略状況は、イランが作り出した。
・テヘランからすれば、イスラエルとハマスの戦争は、中東のパワーバランスをアメリカの覇権からさらに遠ざけ、イランに有利な方向へとシフトさせる好ましい流れを加速している。
・米市民は、中東におけるコミットメントが軍事的、経済的、人的被害をもたらすことにうんざりしている。
・(米国)国務省と国際開発庁は、非政府組織やパートナー諸国政府と協力しながら、「ハマスやイランの支援を受けた武装集団から独立した、パレスチナ文民当局」への支援を急がなければならない。
』
気になった箇所は下記の、
『テヘランの武装勢力への影響力は、中東における過激なライバルがいなくなったことで強化されてきた。サダム・フセインやリビアのムアンマル・カダフィのような資金力のある独裁者が権力の座から追われた後、イランは、武装勢力を支援することに利益にみいだし、資金力をもつ数少ない地域プレーヤーになった』
という部分で、私は、フセイン、カダフィは、米国の利益を脅かす存在だったから消されたと認識しており、その結果、イランが米国の脅威となるパワーを持ったのであれば、因果応報だと考えます。
中国経済を考える
②中国経済は成長を続ける― 悲観派を惑わす4つの誤解
ニコラス・R・ラーディ ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー
中国はこれからも経済成長するという論文。さまざまなデータを示しており、ある程度の根拠はあると思いますが、正確かどうかは私にはわかりません。ただ、経済学における経済主体である「個人、企業、政府」の内、Chinaは企業と政府が一体(程度は不明)であるため、西側の指標・考えをそのまま当てはめているだけの分析は多々ありますが、それは正しくは無いと考えます。
一例
『事業に資金を投入するよりも、(中国)企業は、減少する利益を負債の返済に充てるだろうと考えられた。しかし、ここでも正反対の動きがみられた。中国企業は、絶対ベースでもGDP比でも借入を急増させ、製造業、鉱業、サービス業での投資が増加している。リセッションの兆しはない』
③中国は欧米との衝突コースへ― 実現しない内需主導型モデルへの転換
ダニエル・H・ローゼン ロジウム・グループ パートナー
ローガン・ライト ロジウム・グループ パートナー
中国の輸出に対し、先進国も途上国も中国に反発しているという論文。
私が注目したのは下記内容で、1970~1980年代に日本が米国等から受けた仕打ちは、「手荒な制限」だったと書いています。
抜粋『
問題は、北京が、かつての日本のように、政策修正に応じて、中国の輸出増大に対して手荒な制限を課す先進7カ国(G7)諸国のキャンペーンを阻止するかどうかだ。
』
私は、Chinaは日本の過去の失敗を学び、日本とは同じ轍を踏まないよう行動すると思うので、どのような選択をするのか興味深いです。
なお、上記②は5ページの小論文、この③も7ページと短めなのが気になりました。③の主張の反対の小論文を急遽用意してバランスを取ったとか?
<大見出し無し>
④ナレンドラ・モディとインドの未来― ヒンドゥー・ナショナリズムの長期的帰結
ラーマチャンドラ・グハ クレアカレッジ 特別教授
インドのかつてのカリスマ首相、ネルーおよびインディラ・ガンディーが、任期最後の数年間は政治的なミスによって名声が失墜した事と同じ状況を、モディが辿る事になると評している論文。
参考:インド選挙期間・・・2024年4月19日(金)~6月1日(土)
理由は、モディがどんどん専制的になっている為と論じています。私は本論部が、インドに西側民主主義(もしくはアメリカ型民主主義)を押し付けようとしている、典型的な、アメリカからの圧力・内政干渉の内容だと感じました。ヒンドゥー教(カースト制度)が根付いているインドで、西側民主主義がそのまんま適用できる訳が無いでしょう。
下記内容が本音だと思われます。アメリカが、インドを魅力的だと思った(利用できると思った)ので、アメリカに従わせようとしているように読み取りました。
『2023年4月、インドは中国を抜いて世界でもっとも人口の多い国になった。世界第5位の経済大国だし、大規模でそれなりに整備された軍隊も保有している。これらすべてが、アメリカにとって、中国に対する対抗バランスとしてインドの魅力を高めている』
地政学競争の現実
⑤地政学競争と道徳なき外交の時代― 理念と現実主義をいかに融和させるか
ハル・ブランズ ジョンズ・ホプキンス大学 教授
「米国が中露に対抗するのは、民主的同盟関係だけでは限界があり、独裁主義国家等との連帯も必要となるが、それは国内での幻滅を引き起こすし、世界における米国の道徳的優位を失う危険もある」という問題提起から始まる論文。
米国内の幻滅についてはよく分かりませんが、米国の”道徳的優位”って何?と思いました。私は、米国は金で価値が決まるある意味フェアな世界だとは思っていますが、道徳的では無いと思います。
「民主」とか「道徳」とかの定義が明確にしないと、主張者の都合の良いプロパガンダやレトリックに使われる可能性が大いにあることに注意が必要です。「平等」や「多様性」とかも。あえて定義を定めず、反論しづらい状況を作っているんだろうなと思っています。
⑥ヨーロッパが備える脅威の本質― ドナルド・トランプと米欧関係の崩壊
リアナ・フィックス 米外交問題評議会 欧州担当フェロー
マイケル・キマージ 米カトリック大学 歴史学教授
序文抜粋『
トランプは、北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を決断し、ウクライナを見捨て、プーチンとのパートナーシップを模索するかもしれない。だが、彼は決意に乏しく、無謀なアイデアを実行に移すことはめったにない。むしろ、大混乱をもたらす危険があるのは、トランプのビジョンよりも、気まぐれな性格だろう。道徳観念がひどく乏しく、世間の注目を集め、金儲けをし、あるいは権力と地位を高めるためなら何でもする。トランプは瞬く間に大西洋関係を破壊してしまうかもしれない。実際、アメリカのヨーロッパとの歴史的なつながりを破壊することを「勝利」として売り込めるのなら、トランプはそうするだろう。戦争をあまりにもよく知る大陸が、恒久的な平和でも、鉄のカーテンでもなく、再びカオスに包まれる未来は、決して幻想ではない。・・・』
序文から分かるように、ストレートにトランプを批判する論文である。トランプが大統領就任すると認めているような記載もあり、トランプの大統領就任の妨害より、就任した後の活動を妨害する方針に変わったように思えます。
⑦「グローバルサウス」の問題点― 欧米諸国の思い込みと誤解
コンフォート・エロー 国際危機グループ会長
『ごく最近まで、アメリカをはじめとする欧米の政策立案者たちは、「世界の他の地域は自分たちとは違う考えをする」という、明らかで当然の可能性をまともに考慮してこなかった』
という一節から始まる。この一言だけでも、なんと素晴らしい論文だろうか!
定義を明確にして主張を展開していく、私の好みの内容でした。
また、下記文については、私も、確かに欧米と一括りに捉えてしまっているなぁと考えさせられました。
『欧米という言葉同様に、「グローバルサウス」という言葉は、説得力はあるが誤解を招きやすい。』
論文著者が気になったので調べてみたところ、フォーリンアフェアーズには他の論文はありませんでした。下記記事・動画を発見しました。
Dr. Comfort Ero
https://jp.unu.edu/news/news/competing-solutions-to-keeping-peace-in-africa.html
Current Issues
⑧AIが主導する戦争の時代?― 自律型兵器の脅威にどう対処するか
ポール・シャーリ 新アメリカ安全保障センター 研究部長 上席副会長(研究担当)
『すでに、ウクライナでは、AIが「戦場で誰を殺すかを判断する」完全自律型兵器が実戦配備されており、・・・』というAI規制についての論文です。
『自律型兵器の時代が迫りつつある。全面禁止は、意図は正しくとも、おそらく徒労に終わる。自律型兵器がもつ軍事的価値が大きすぎるからだ。』
には完全に同意で、論文ではこと後いかに規制するか論じているが、私は、”軍事的価値が大きすぎるAI兵器” は部分的な規制もムリかなあと思います。結局、隠れて開発するか、某覇権国家のように堂々と自国に都合の良いルールを決めるか、という事になると思う。
そういえば、ガンダムでは自律型兵器もニュータイプ(人)が操作していたし、漫画「EDEN」では、必ず人の目とリンクさせて、引き金を引くのは人間という制約を設定していたなぁ。
⑨人工知能と地政学― 分裂するAI規制の意味合い
アジズ・ハク シカゴ大学教授
国際的なAI規制の仕組みを作ろうという論文。
結論抜粋『
さまざまな課題に世界が取り組んでいく決意が衰えるなかでも、AIの規制に関しては、諸大国は楽観的な見方をしていた。AIは重大な問題を生じさせる恐れがあり、国際的な協調行動が必要だとみなす点で、米中欧には広く合意がするかにみえた。
だが、そうはならなかった。AIを管理するための法的枠組みを確立するための努力を奨励するどころか、AIの有形、無形の基盤をめぐって、大国は対立を繰り広げている。』
私は、規制をするにせよ、ある程度自由にする(ように見える)によせ、現在権力(お金)を持っている者が有利になる仕組みになると思っています。その中で私たちのやる事は、情報を鵜呑みにせず、論拠を確認し、自分で判断する事だと思います。
世界はAIを統治できるのか― 手遅れになる前に規制を
⑩食糧の兵器化を阻止するには― 忌まわしい戦術にいかに対処するか
ザック・ヘルダー
マイク・エスピー
ダン・グリックマン
マイク・ヨハネス
デブリー・ボフナー・フォアベルク
食糧を兵器にする奴は悪だという、ロシア悪玉論を新たな切り口で書いた論文という理解。食糧が兵器という事はその通りなので、食料を兵器として扱ってきた歴史が整理されている部分は勉強になる。食料自給率が低く、食(やエネルギー・経済)が戦略兵器という認識が無い日本人が目を覚ますには良い内容かもしれません。
論文執筆者の一人にカーギルがいるが、戦争時でもビックファーマーが多くの利益を上げるための主張かなと、訝しんでしまう。
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