「米外交戦略 民主党と共和党の立場」フォーリン・アフェアーズ・リポート2024年8月号 一言感想
グローバル主義側が推進する考えを知るために購読しています。(私は、国家(国民)主権を尊重で、行き過ぎたグローバル主義には反対です)
米外交戦略 民主党と共和党の立場
①力による平和の復活 - 二期目のトランプ外交を描く
ロバート・C・オブライエン 前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)
ジョン・ボルトンの後任として、トランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めた方による、トランプを肯定する論文。
私は、この論文をトップを持ってきた事を、米国外交問題評議会=グローバリスト側が、トランプを認めるという方向転換を示したと認識しました。(トランプは素晴らしい、では無く、次の4年はトランプでいっか、とか、トランプ政権下でどう儲けるかなぁ、という方向転換という予想です)
序文抜粋『トランプがアジアの同盟諸国に防衛にもっと貢献するように求めるのは、相手を不安にすると考える評論家もいる。だが現実には、「同盟関係は双方向の関係であるべきだ」というトランプの率直な発言の多くを、アジア諸国は歓迎し、トランプのアプローチは安全保障を強化すると考えている。トランプは(19世紀初頭に米大統領を務めた)アンドリュー・ジャクソンと彼の外交アプローチを高く評価している。「そうせざるを得ないときは、焦点を合わせた力強い行動をとるが、過剰な行動は控える」。トランプ二期目には、このジャクソン流のリアリズムが復活するだろう。ワシントンの友好国はより安全で自立的に、敵国は再びアメリカパワーを恐れるようになるだろう。』
論文内で参照されていた、過去のFAR記事
バイデンは2018年に「民主体制を権威主義国家の攻撃からいかに守るか」という論文を発表しているが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、このストーリーを無視した。
②民主党の外交戦略 - リスクの外交的管理を
ベン・ローズ 元米大統領副補佐官 (戦略コミュニケーション担当)
著者は、オバマ政権で大統領補佐官だった方です。トランプ政権の問題が、バイデン政権を妨害したみたいな内容ですが、アメリカの問題として俯瞰して捉えると、的を得た内容が多々ある論文だと感じました。
序文抜粋『
誰が米大統領になろうとも、世界戦争は避けなければならない。深刻化する気候変動危機に対応し、人工知能などの新技術の台頭に取り組んでいく必要もある。問題を解決するために、アメリカがブラフや軍事力増強だけに依存するわけにはいかない。むしろ、外交に焦点を合わせなければならない。ウクライナの経済を支えて国家基盤を強化し、ロシアとの長期的交渉に備えさせるべきだ。イスラエルを支える一方で、パレスチナ人の新たな指導者の育成とパレスチナ国家の承認に向けて努力する必要がある。そして、台湾の軍事能力に投資する一方で、北京とのコミュニケーションチャンネルをつくり、問題の平和的解決への国際的支持を動員しなければならない。』
ドキュメント アメリカの分裂と政治危機
③政治暴力と民主主義の危機 - アメリカの分裂と政治危機(7/14)
ロバート・リーバーマン ジョンズ・ホプキンス大学 教授(政治学)
トランプ暗殺未遂の後、急遽企画したと思われるインタビュー記事です。反トランプであり、トランプの勢いが増す事を心配しています。
まとめ箇所抜粋
『今回の銃撃事件の前から、トランプが勝利し、2期目を迎えれば、行政府がトランプの野望やこだわり、あるいは政争の道具にされる恐れがあるとわれわれは感じていた。心配なのは、この事件がトランプをさらにその方向に向かわせはしないかということだ。この事件をきっかけに、トランプとその側近たちが、政府の立場に政治的に反対する兆しがある人物を、司法省やその他の検察当局に抑え込ませようとするのをイメージするのは難しくない。いまは手袋をはめているとしても、いずれ、それを外すかもしれない。』
④なぜドルは強いのか - 堅牢化するドル体制
エスワール・プラサード ブルッキングス研究所 シニアフェロー
ドルが、今後も世界一強い通貨であると論じています。
私は、本論文は西側経済中心の視点であり、世界全体で考えると、BRICS等の通貨が活性化する可能性は大いにあると思っています。また、実体経済の観点だけでなく、デリバティブも含め考えると、実体・実物を担保する通貨や経済体制が現れることを期待しています。
IMFのSDR通貨バスケットのウェイトが調整されている事は初めて知りました。(2022年の最新改定で、ドルのウェイトは2ポイント近く上昇し43%となった)
序文抜粋『インフレの急進を警戒する内外の投資家が、いずれ、米国債を投げ売りするかもしれない。トランプが再選されれば、アメリカの金融市場とドルへの信頼が低下する恐れもある。しかし、逆説的ながらも、混乱はドルにとって好都合なのだ。経済的・地政学的混乱は安全な投資の魅力を高め、通常、投資家はもっとも信頼できるドルへ回帰する。資本の自由化と政治改革が必要になる人民元の国際通貨戦略を、北京が全面的に認めることはあり得ない。ドル相場を語る上で重要なのは、結局のところ、アメリカの強さよりも世界の弱さなのだ。このギャプが変化するまでは、アメリカがいかにひどいカードを切っても、ドルが下落することはないだろう。』
⑤貿易で紛争を防げるか - 貿易と平和の真実
スティーブン・G・ブルックス ダートマス大学教授(政治学)
一部抜粋『実際、貿易は、紛争を緩和することも、助長することもある生産のグローバル化、つまりグローバル企業による国境を越えた経済活動の分散は、大国間では安定化効果をもたらすが、途上国間では紛争リスクを高める。国際的な金融フロー、つまり、債券、株式、通貨などの国境を越えた取引には、明確な作用は認められない。
ワシントンは、この現実を適切に理解していないようだ』
私も、この著者の言う”現実”を適切に理解していません。私は、意図がある限り、手段はいくらでも生み出す事が出来ると考えており、現在は戦争・紛争と経済は関連している(戦争と経済を関連させる意図がある:例えば、欧米の軍産複合体や、Chinaの超限戦の考え方)という認識です。
なお、近々論文著者による「political economy of security」が出版予定だそうですが、2024/8/13時点では検索してヒットしませんでした。
アメリカとアジア
⑥対中戦略を強化するには - アジアシフト戦略を越えて
オリアナ・スカイラー・マストロ スタンフォード大学 国際研究所 センターフェロー
「Lost Decade: The US Pivot to Asia and the Rise of Chinese Power」で明らかにしているように、アメリカはアジアへのピボット(軸足を移す)に繰り返し失敗してきた。」そうです。
抜粋
『アメリカは、これまでと同じようなことを繰り返すだけでは、中国とは競争できない。ワシントンには新しいアイデアと戦略が必要だ。その第1歩は、同盟関係の見直しかもしれない。例えば、中国による軍事的な攻撃だけでなく、経済的な攻撃に対しても、集団的な対応枠組みが必要かもしれない。不快な権威主義者に統治されている国から、遠ざかるのではなく、外交を強化すべきだろう。さらに、途上国にもっと資金援助する必要があるし、そのような援助に付ける政治条件を緩和しなければならない。インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムなどの中国の近隣諸国に接近して、基地を建設し、海上ルートにアクセスし、領空を飛行する権利を確保するのと引き換えに、経済援助と安全保障を提供すべきだろう。』
⑦アジアとトランプの脅威 - 不安定化リスクにどう備えるか
ビクター・チャ ジョージタウン大学教授(政治学)
反トランプ論文。トランプ政権一期目を上手く関わった(トランプの特異性を利用した)各国も、二期目でも同じようにいくと考えるのは誤りだと論じている。
序文抜粋『オーストラリア、日本、韓国という緊密な同盟国を含む、インド太平洋におけるすべての米同盟国は、トランプ二期目が新たな問題を突きつけてくる事態にもっと危機感をもつべきだ。トランプは、バイデン政権とアジア諸国がまとめた防衛、経済・貿易構想の再交渉を求めるか、解体を試みるかもしれない。同盟国をこれまで以上に貿易上の敵対国とみなし、アメリカの軍事プレゼンスの削減を試みるだろう。独裁的指導者たちと親交を深め、アジアの核不拡散環境を揺るがし、朝鮮半島の核武装化を刺激する恐れさえある。』
ちなみに、もしトラ(Moshi-Tora)='What if Trump?' は海外でも認識されているようです。
参考:
論文内で参照していた、ジョン・ボルトン回顧録「トランプ大統領との453日」
著者の最新の共同著書「korea a new history of south and north」
・・・表紙がオシャレ(ピンク!)だ!!
⑧世俗社会と宗教 - 神なき時代と宗教の役割
シャディ・ハミド ワシントン・ポスト紙 コラムニスト
「グローバル化が進む社会では、ローカルな宗教は衰退する傾向がある。これに対して、キリスト教とイスラム教の普遍主義的教えは、標準化された儀式と支援構造を提供することで、社会の急速な変化や農村部から急拡大する都市への移住によって生じる混乱の衝撃を和らげられる」と主張する論文。
参考(論文内で参照された著書等)
神の時代の終わり? ― 世界における宗教の衰退
ロナルド・F・イングルハート ミシガン大学名誉教授
2020年9月号掲載論文
「社会が発展すると、生存がより確実になる。このように安心できるレベルが高まると、人間はさほど宗教的ではなくなる」
The Divine Economy: How Religions Compete for Wealth, Power, and People
- Paul Seabright
「世界はかつてなく、少数の宗教に支配されつつある」
Current Issues
⑨トランプにどう向き合うか - 同盟国指導者が果たすべき役割
マルコム・ターンブル 元オーストラリア首相
オーストラリア首相(2015年9月~2018年8月)として実際にトランプに接した方の、トランプとの接し方についての興味深い論文です。
トランプが大統領就任後、初めての電話会談の内容 抜粋
『それでも私は、この問題を取り上げた。電話会談で私は、オーストラリアはアメリカが(難民交換協定の)約束を守ることを期待しているとトランプに伝えた。トランプは「この協定はとんでもない代物で、自分を政治的に追い詰めることになる」と怒り狂い、「オバマは愚かなことをした」と語った。アメリカ大統領に怒鳴られるのは気が重かったが、私は耐えた。電話が終わるころには、トランプは不承不承、この件に同意した。』
ポイントはここだと思います。抜粋
『トランプと私の指導者同士の関係は、お互いの性格と当時置かれた状況によって、正しいスタートを切れた。自分の立場を主張し、引き下がらないことで、オバマ大統領との取引を守るように新大統領を説得できただけでなく、敬意も勝ちとれた。』
日本の首相も、タフに交渉して欲しいです。
⑩国民連合とフランスの未来 - その本質は変わっていない
セシル・アルデュイ スタンフォード大学教授(フランス研究)
7月7日の決選投票前に書かれた小論文。反ルペン(国民連合:Rassemblement National:RN)です。なお、論文⑪は、決選投票後に書かれたものです。
序文抜粋『
2011年に国民連合の党首に就任して以来、マリーヌ・ルペンは党をより親しみやすいものに変化せようと努力してきた。より民主的立場をとると約束し、ロシアのプーチン大統領を称賛した過去の発言を撤回し、最近ではイスラエルの擁護者として自らを位置づけた。しかし、だまされてはならない。国民連合はいつもどおり過激だ。立場を穏健化させているように取り繕っているが、いまもモスクワ寄りの立場をとり、欧州連合(EU)を敵視している。そして、彼らが、移民やその子どもたちから権利を奪おうとする差別主義者であることに変わりはない。』
⑪フランスは未知の海域へ - 政治的混乱の行方
マティアス・マタイス 米外交問題評議会 シニアフェロー
続、反ルペン(国民連合)の論文です。
まとめの箇所抜粋『
この夏から、マクロンは議会内の他のさまざまな政党の意見を考慮し、妥協しなければならなくなる。フランスの大統領は、軍や国家安全保障機関の指揮権を含め、外交政策に大きな影響力をもっているが、マクロンはもはや国内問題で政府のアジェンダに口出しできなくなるだろう。ウクライナを支援することについて、大まかな継続性は維持できるだろうが、対ロシア戦争でウクライナを支援するためにより多くの資金を提供するのは難しくなるかもしれない。国防やエネルギー政策など、EUの新たな取り組みについて、マクロンは前政権よりもさらに安定性を欠く新政権によって手足を縛られるだろう。』
⑫イギリスの新外交政策 - 健全化した外交姿勢、山積する課題
セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会 シニアフェロー
ブレグジットは誤りだったとする小論文。
序文抜粋『イギリス市民の多くは、ヨーロッパとの関係修復に前向きになり、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への支持も高まっている。「NATOや防衛に前向きの姿勢をとり、ウクライナを支持し、少なくとも反ヨーロッパではない」。このイギリスの外交アウトルックは、労働党政権の外交基盤としても有望だろう。だが、イギリスは、山積する外交課題に直面する一方で、低成長や多額の公的債務の重荷に苦しみ、高齢者介護や公的医療保険制度(NHS)をはじめとする公共サービスへの投資を求める大きな国内圧力にさらされている。』
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