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Agenda2025:フォーリン・アフェアーズ・リポート2025年1月号感想

フォーリンアフェアーズ・リポートは、世界で最も影響力のある外交シンクタンクである米国外交問題評議会が、米国の立場で、米国の利益を考えた論文集です。私は、日本の国益を踏まえた世界平和という抽象度で読んでおり、その一言感想です。

総評:シリアについて論文3本掲載しており、米外交問題評議会が大きく注目していた事がわかりますが、思ったより落ち着いているという印象です。イスラエル、ロシア関連については、トランプ就任で大きく変化していますので、2月号を待ったほうがよさそう。


Agenda 2025

①反欧米ブロックへの強硬策を - 中露分断策の不毛

オリアナ・スカイラー・マストロ スタンフォード大学国際問題研究所 センターフェロー

序文抜粋
『中国、ロシア、イラン、北朝鮮という枢軸メンバー間の相互関係の深さを推定したり、彼らを引き離そうと努力したりするのではなく、ワシントンは、これらを独裁国家のブロックとして扱い、同盟諸国にも同様の対応をとるように働きかけるべきだ。中国を枢軸のリーダーとして扱い、ある枢軸メンバーが好ましくない行動をすれば、(中国を含む)他の枢軸メンバーにもペナルティを課すようにすべきだ。ロシアの戦争努力を支援する中国企業だけに制裁を科すのではなく、アメリカは中国という国を対象に経済制裁を実施する必要がある。そして、ロシアが交渉テーブルに着くまで、制裁は継続すると北京に伝える。もはや代替策は存在しない。』

私は、この方針は民主党系の考えと認識しており、トランプ政権では変わると考えています。アメリカの利益という視点では理解できますが、世界平和という視点も踏まえたレポートを期待したい。


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②中東の危険な均衡 - イランとイスラエルのパワーバランス

スザンヌ・マロニー ブルッキングス研究所 副会長

序文抜粋『今後、イランとイスラエルの直接的な軍事衝突が常態化すれば、劇的な変化が生じ、そこにあるのは、ひどく不安定な均衡にすぎなくなる。直接攻撃の敷居が低くなれば、攻撃と報復の応酬が続き、中東でもっともパワフルな二国家が全面戦争、それも、アメリカも巻き込まれ、中東とグローバル経済に大きな悪影響を与えるかもしれない戦争に突入する危険は高くなる。一方で、弱体化したイランが核兵器を保有することで孤立の道を選び、その結果、核拡散潮流が生じる恐れもある。そのような未来を防ぐことが、ドナルド・トランプ次期米大統領の大きな課題になる。』

トランプ政権によって(時期としてはぎりぎりバイデン政権でしたが)イスラエル関連の紛争は一旦落ち着きました。

イラン側の見解は、イラン国営放送ParsTodayが参考になります。

https://parstoday.ir/ja


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③AIの台頭と国家の衰退 - AI企業の台頭と宗教の復活

ヘンリー・キッシンジャー 元米国務長官
エリック・シュミット 元グーグルCEO兼会長
クレイグ・マンディ アライアント・コンピューティング ・システムズ共同創業者

序文抜粋『AIは、国際システムで競合するアクターの相対的地位をリセットし、国家に国際政治インフラにおける中心的役割の放棄を強いるかもしれない。今後、社会的、経済的、軍事的、政治的なパワーを独占するのはAIを所有・開発する企業かもしれない。そして、国籍よりも宗教的単位のほうが、アイデンティティや忠誠心にとって、より関連性の高い枠組みにされるのかもしれない。世界が、AI関連の企業連携に支配されるにせよ、ゆるやかな宗教別のグループに分散していくにせよ、それぞれのグループが権利を主張して衝突する新しい「領土」は、物理的な土地ではない。それは、デジタルランドスケープになるだろう。』

キッシンジャーさんがご存命の頃の書籍の抜粋です。
Genesis: Artificial Intelligence, Hope, and the Human Spirit(初版発行:
2024年11月19日)からの抜粋

私が注目している点は、メディアは大衆をアジテートする手段として機能してきて、それがAIに変わるのだろうという事です。
テクノロジーおよびそれを権力基盤とする人たちがどう考えいるのか意識して、このような記事と接しています。


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停戦交渉は実現するか

④停戦交渉と欧州の立場 - ウクライナと欧州の安全を確保するには

エリー・テネンバウム フランス国際関係研究所 安全保障センター ディレクター
レオ・リトラ 新ヨーロッパセンター シニア・リサーチフェロー

序文抜粋『2025年に、ロシアとの包括的な和平合意が成立する可能性は極めて低い。合意が成立しても、それは休戦に限られ、政治的協議は先送りされるだろう。交渉が実現しても、米露(そして潜在的には中国)の交渉者が、サウジやトルコの仲介で欧州大陸の将来を決定するとすれば、それは悪夢のシナリオだ。「ウクライナとヨーロッパの主要国がテーブルに着かない交渉などあり得ない」と強く主張しなければならない。そして、ロシアの攻撃を阻む抑止力として、ウクライナ領内に欧州部隊を派遣する覚悟をもつ必要がある。欧州部隊の軍事プレゼンスは安全保障の盾として機能し、欧米の手堅いコミットメントを示すことになる。この環境でウクライナに侵攻すれば、欧州とNATOを巻き込む危険が高いため、ロシアはエスカレーション策に訴えるのを躊躇するはずだ。』

論文①と同じ感想で、ヨーロッパの立場としては理解できますが、世界平和も含んだ考えをして欲しい。


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⑤ロシアとの交渉を実現するには - 経済制裁の強化を

セオドア・ブンツェル ラザード地政学アドバイザリー マネージング・ディレクター
エリナ・リバコバ ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー(非常勤)

序文抜粋『「流れは自分の側にあり、妥協する環境にはない」とモスクワは考えている。つまり、さらに経済圧力をかけなければ、ロシアが2025年にウクライナ戦争の停戦交渉に応じることはないだろう。現状で停戦を急いでも、それは、モスクワがさらに触手を伸ばすための、小休止になるにすぎない。一方、ロシア経済の生命線であるエネルギーからの収益を低下させ、欧米製のデュアルユース製品の輸入を大幅に抑え込めば、ロシアが戦争を継続するのは難しくなり、交渉に応じるインセンティブを高められる。原油価格とインフレ率が低下しているいま、欧米は2022年当時よりもロシアのエネルギー・フローを混乱させる、より積極的な施策をとれるはずだ。』

上記論文④と同じ感想。あと、エネルギー含む経済面でロシアに圧力をかけるのは無理(だった)と私は認識しており、そういう主張を撤回せず継続するのは、他の意図(例えば特定者の利益のみを考えている等)があるのではと勘ぐってしまいます。

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トランプと世界

⑥トランプ政権と中国 - 取引主義と競争戦略

ラッシュ・ドーシ 米外交問題評議会 中国戦略イニシアチブ・ディレクター

序文抜粋『トランプの関税引き上げの威嚇策は、中国側の行動を変化させるための交渉戦術なのか、デカップリングを達成するための確定路線なのか、あるいはこの二つのミックスなのかはわからない。いずれにしても、北京は、トランプ政権が(関税策などで)同盟パートナーシップを傷つければ、相手を取り込める余地が生じると期待している。北京は、ヨーロッパや日本との外交エンゲージメントを強化し、インドとの国境紛争の緊張緩和も模索している。さらに、中国への競争的なアプローチを実行する上でもっとも大きな障害となるのは、トランプの取引主義なのかもしれない。対中政策は、1期目同様に、大統領の「取引主義」と側近たちの「競争的アプローチ」という異なる衝動によって特徴付けられることになるかもしれない。』

私は、トランプが得意なディールによって、Chinaが有効的な問題解決を意図する方向になる事を期待します。その中で、日本は、自国ができる役割を考え、果たして欲しい。


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⑦ヨーロッパの安全保障 - 自立的欧州安全保障へ

ノルベルト・レットゲン ドイツ連邦議会議員(2014年-2021年外交委員会委員長)

トランプが、ロシアーウクライナ紛争を停戦させればNATOの影響力が下がり、将来のロシアの侵略を招くと懸念している。そのため、今、防衛努力を優先させる事が、ヨーロッパの未来を守る事と唱えている。

私は、侵略を憂慮するならば、有効関係を築いた方が良いと思います。ディールのための防衛力は理解できますが。

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⑧イスラエルの幻想とジレンマ - ネタニヤフとトランプ

シャロム・リプナー アトランティック・カウンシル シニアフェロー(非常勤)

序文抜粋『イスラエル国防軍の幹部たちは、「ガザとレバノンにおける目標はすべて達成した」とネタニヤフに伝え、ガザから人質を帰還させ、レバノンにおける紛争を終わらせるために譲歩することを支持している。ネタニヤフもこの方向に進むことをある程度希望しているかにみえる。だが、連立政権内の極右強硬派(スモトリッチとベングビール)は、人質解放に反対し、ガザと西岸をイスラエルの長期的な支配下に置くことを望んでいる。一方、多くのイスラエル人は、アメリカの新政権は「イスラエルを無条件で支援する」と考えている。だが、トランプの支持を前提にすれば、イスラエルは世界で孤立することになるかもしれない。今後、ネタニヤフは「トランプを満足させると同時に、スモトリッチとベングビールをなだめる」という不可能な任務に直面するかもしれない。』

論文②でも書きましたが、イスラエル関連の紛争は一旦落ち着いた模様。その中で、ネタニヤフ政権に強硬派がいるのは事実のようですので、トランプとイスラエルがどういう方針で関係を築くのか注目しています。


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⑨日本とトランプ - 試されるリーダーシップ

マシュー・P・グッドマン 米外交問題評議会地政学研究センター ディレクター

論文によると、トランプ次期大統領に対する日本政府の懸念は、関税、為替、対中デカップリングの同調等で、期待事項は、アメリカに進出している日本企業の減税や規制緩和、多国間主義の軽視による相対的な日本の発言権の維持等である。
また、日本政府は、石破首相はトランプに気に入られないと捉えているという。

私は、日本政府には国営のための主体的な対策を検討して欲しいと思います。

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ドキュメント アサド体制の崩壊

⑩新シリア紛争の行方 - 関係諸国はどう動く

スティーブン・A・クック 米外交問題評議会 シニアフェロー(中東・アフリカ研究担当)

抜粋『現状ではシリアには国際的なジャーナリストはいない。シリアから発信される報道は誤報や偽情報である可能性が高い。』という評価は興味深いです。


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⑪アサド後のシリア - 待ち受ける危険

スティーブン・A・クック 米外交問題評議会 シニアフェロー(中東・アフリカ研究担当)

上記⑩と同じ著者。
抜粋『イスラム主義政治勢力がシリアでパワーを蓄積していることをかねて警戒してきたアラブ首長国連邦、サウジアラビア、ヨルダン、エジプトが、ハヤト・タハリール・シャム(HTS)がダマスカスで統治体制を組織化するのを傍観するとは考えにくい。』


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⑫ロシアの基地は温存されるか - シリアの体制崩壊とロシア

トーマス・グラハム 米外交問題評議会 特別フェロー

一部抜粋『ロシアの当面の関心は、シリア内の戦略的基地であるタルトスの海軍基地、そしてフミイエム空軍基地(タルトゥースから東・内陸へ約80kmの位置)を守ることだろう。これらの基地は、中東におけるロシアの影響力を行使する上で重要なだけでなく、東地中海への足場だし、リビアやサヘルでの軍事プレゼンスを含む、北アフリカでのロシアの作戦を支援する後方支援の拠点となっている。
だが、ロシア国防省に近い軍事ブロガーを含む多くの専門家は、アサド政権が崩壊し、過去10年の大半を費やして粉砕しようとしてきたイスラム主義勢力が勝利した以上、ロシアはこれらの基地を手放さざるを得なくなるとみている。』

論文⑩-⑫をとして、シリアが混沌としている事は理解できました。


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