0016 《雨の朝のクレープ.》
旅先では、誰かに助けてもらってばかりいる。道を教えてもらったことも、重たいスーツケースを運ぶのを手伝ってもらったこともある。そんな優しさにふれるたびに、その国を好きになってしまうのだ。
ジェルブロワという、フランスの小さな街へ来るのは初めてのこと。雨がしとしとと降っている。想像していた以上にこじんまりとしたこの場所には、朝から空いているカフェも、夜遅くまで営業しているレストランもない。早朝にこの街に到着してしまった私は、木の下で雨宿りをすることになった。ひんやりとした朝の空気と濡れてしまったシャツのせいで、身体がしんしんと冷えてくる。「旅の始まりがこれか。」と気持ちが沈んでいく。
30分ほど経ったころ、少し先にあるクレープ屋の灯りがついた。小走りでそこへ向かう。窓から中を覗くと運よく店主と目があった。オープン前の気配の中、「お茶をさせていただけませんか?」とお願いする。彼は笑顔で迎え入れてくれた。
紅茶と、焼き立ての甘いクレープと、店のあたたかさが体に深く沁み入った。
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