子どもが心配5
今回は、前回4に続いて、小泉先生の子どもの幼少期の育て方です。
幼少期は特に、自然の中に身を置くことが大事
小泉 人間が意識や精神を獲得していく過程で、体がその基本になっている
ことは間違いのない所です。
赤ちゃんが生まれてすぐにやることは、「手を伸ばす」ことです。
そうしてななかを触ったとき、硬い、柔らかい、温かい、冷たいな
ど、様々な情報が感覚と共に取り込まれます。
次に赤ちゃんは、つかんだ物を自分のほうに引き寄せて、小さいもの
だと必ず口に入れます。しゃぶるんですね。これら一連の行為にり、
赤ちゃんは手指や唇、舌などによる体性感覚をさらに発達させていま
す。
そして、ハイハイをして移動する様になると、自分の動ける空間が
広がり、幅広く、精度の高い情報を獲得します。
やがて視覚や色覚がさらに発達し、もっと高次の脳機能が発達して
いくのです。体がなければ何も起こらないわけです。
養老 そう、ハイハイを始める赤ちゃんの所から人間の学習のプログラムが
動き始めると言っていい。ハイハイをして動き回る様になるにつれ
て、視覚入力が変わってきます。
それによって、出力ー自分の反応も変わる。
うごくとしかいがひろがることもわかるし、机の脚にぶつかりそうに
なれば避けることも覚える様になる。それを繰り返していくのが学習
です。
戦後に日本人は、「身体」の問題を意識しなくなった、または忘れて
しまい「脳」だけで動くようになった。
小泉 例えば誰かが動いている様子を画面で見たとしても、自分自身がそう
いう体験をしていなければ、何をやっているのか、最初は理解できな
いはずです。でも自分に同じ様に動き回った経験があれば、画面を
見るだけで、それが現実の画像では無くても何を表しているかが分か
ります。そういう意味で、一番最初に必要なのは実体験なのです。
発達は時間軸に沿って変化します。時間の矢は反転できません。
ですから順番が本質的な意味を持つのです。
幼い時に、自然と触れ合うことによって、豊かな幅広い感覚系が育ま
れるのです。乳幼児期に豊かな情報を取り込むことが一生の宝になる
と私は思います。
それに実体験は、認知世界を広げるうえで重要です。というのも、
私達は実際の世界と、そこで起きているすべての事を体験できること
はできないからです。人間の脳は、実体験の中の特徴的なものを抽出
して、それをもとに外の世界を認知しますから、実体験が多ければ
多いほど認知世界も広がります。
あと、バーチャル体験と決定的に違うのは、意識下にまで多くの
”生の情報”が入り、脳神経を活性化させることです。
実体験では脳は、意識するまでもなく互換を総動員して無数の情報を
取り込んでいきます。一方、バーチャル体験だと、どうしても得られ
る情報が限られます。作られた世界は、人間の脳を一度通した抽象化
されたものだからです。
だから脳が柔らかな幼少時は特に、自然の中に身を置き、同時に沢山
の人と接して出来るだけ多くの実体験をさせることが大事なのです。
子どもに限らず大人も、現代人はそういう実体験の大切さに対する認
識が希薄になってきていますから、もっと危機感を持たなければいけ
ないと思います。
養老 バーチャル体験への依存が高まると、「知っている」という思い込み
がどんどん強くなることも問題です。私の「バカの壁」をより堅固に
し自分が知りたくない事について自主的に情報を遮断する危険がより
高まりそうです。
小泉 後、過保護、過干渉の問題がります。「褒めて育てる」ことは
「甘やかす」ことではありません。例えば赤ちゃんが食べ物に手を突
っ込んで、中にある何かを取ろうとしているとします。その時に、
親や周囲の人が「手が汚れるからダメよ」と食べ物を取り上げたりす
ると、赤ちゃんは神経回路を刺激する機会を阻害されることになりま
す。又ハイハイしている時にぶつからない様に物をどかしたり、転ば
ぬ先に手を差し伸べたり、大人が赤ちゃんの行動に必要以上に手出し
をするのは、神経回路ををつくるという子供にとって大事な時期に、
刺激をシャットアウトしてしまいかねないのです。
もちろん、ケガや病気にならない様に見守り、保護してあげることは
大切ですが、行き過ぎは禁物です。
きつい言い方をすると、極端な過保護、過干渉は、脳神経科学的に見
ると、赤ちゃんに猿轡をはめて手足を縛るようにして脳神経回路を
構築できなくしてしまう過程に近い、ということです。
私もここを読んで、幼少期の子育てが如何に大事かということと、如何に大変かということが実感として分かりました。そして、昔、共働きしながら二人で子育てしてた時に、近所の人達、親にどれだけ助けられたかも思い出しました。それが出来ない、頼めることが少ない現代の人達は本当に大変だとも思います。