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キャイランミクラのダークな世界観は一見の価値アリ。皇女イルーランと比する被り物MVをご紹介(オススメMV #156)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の156回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回は、キャイラン・ミクラという一風変わった3ピースバンドのMVを紹介します。
何が変わっているかというと、うら若き女性3名のバンドでありながら、奏でる音楽も衣装を含めたルックスも「ダーク」そのものという、なかなか無いバンドなのです。

そして、注目すべきが、私のライフワークにもなりつつある被り物MV探しのなかで発見したMVであるという事実です。
つまり、ダークな世界観を有する女性アーティスト3名が、皇女イルーランにも匹敵する被り物を装着した姿で(実際はチョット違うのですが...)登場する稀有なMVを発見したのです!

では、その被り物MVかつダークなオススメMVをご覧ください。
キャイラン・ミクラの「Hvítir Sandar feat. Alcest」です。どうぞ!

ワケが分からないものの、ダークな世界観に引き込まれてしまいます。
楽曲も映像も印象付けが弱いのですが、なぜか脳裏に焼き付き、二度三度と見返してしまう中毒性の高いMVとなっています。

キャイラン・ミクラ(Kælan Mikla)は、アイルランドの女性3名からなる3ピースバンドで、2014年のデビュー時には3名とも10代だったというから驚きです。(つまり、今現在もまだ20代というワケですね)
音楽のジャンルとしては、ゴシックロックやダークウェーブと呼ばれているようで、ゴシックロックは暗めのロックという認識なのですが、ダークウェーブというと違法取引に使われるWebサイトというイメージです。
しかし、調べたところ、暗めのニューウェーブという意味で「ダークウェーブ」というカテゴリ名称になっているようです。(勉強になります)

話が飛びますが、日本の女性の3ピースバンドでは、なんといってもチャットモンチーがお気に入りです。
しかし、チャットモンチーはいわば「陽」でキャイラン・ミクラは明らかに「陰」となり、正反対のキャラクターですが、イイものはイイな...と思いながら両方のMVを観ています。
チャットモンチーについては、本連載でも特集を組んだことがありますので、興味のあるかたはご覧ください。(過去の特集回はコチラ⇒「女性の3ピースバンドでは、昔のチャットモンチーがよかったな...」
だいぶ脱線してしまったので、話を戻しましょう。

今回調べてみて、キャイラン・ミクラの奥深さに驚きました。
まずグループ名ですが、ノルウェーの作家であるトーベ・ヤンソン作の小説「ムーミン」に出てくる、「氷姫」の原作での名称が「キャイラン・ミクラ(Kælan Mikla)」なのです。
まず、原作の「ムーミン」自体が、日本で放映されたアニメ版の「ムーミン」のイメージとは程遠く、原作小説では登場人物がバンバン死んでいくなど、ブラックというかある種現実的な小説なのです。
そして、この氷姫は、容姿は美しいものの、ヒトを見るだけで氷漬けにして死亡させてしまい、かつそこに居ることで春が来なくなるという、悲しい立ち位置のレアキャラなのです。
そんなブラックなムーミンの、かつ悲しい立ち位置のレアキャラから取ったグループ名を命名したということから見ても、このグループがタダモノでは無いというか、(イイ意味で)変わったグループであることが分かります。

さて、この「Hvítir Sandar」ですが、2021年リリースの4rhアルバム「Undir köldum norðurljósum」に収録されており、アルバム名を直訳すると(冷たいオーロラの下で)となり、いいアルバム名だなと感嘆しました。
そして、曲名の「Hvítir Sandar」は、(白い砂浜)という意味のようで、これまたいい曲名ですね。
このアルバムや楽曲だけでなく、他のアルバムや楽曲のタイトルもイケてるモノばかりで、彼女たちのセンスの高さが伺えます。
ちなみに、この4thアルバム「Undir köldum norðurljósum」のジャケットデザインがメチャクチャ良くて、昔のプログレのレコードジャケットにありそうなデザインなのです。
ネットで検索したら出てきますので、ぜひ一度観てみてください。
レコード盤自体も鮮やかな青のカラーバイナルとなっていて、外装だけでなく中身も凝っているのがサスガといったところです。

では、肝心なMVの解説に参りましょう。
スローテンポな楽曲に、モノクロかつ照度の低い映像の組み合わせにより、バランスがいいものの印象付けが弱いMVですが、ダークな世界観の映像よって印象付け立させています。
モノクロ映像の場合、印象付けのために途中で差し色的にカラーの映像を差し込んだり、フラッシュのように明るい場面を入れることが多いのですが、このMVではそういった映像効果での印象付けではなく、映像の内容そのものに深みを持たせ、独特な世界観を構築し提示することで印象付けを実現しています。
そのため、初見ではなぜこの印象付けが弱いMVに魅了されるのか分からず、二度三度と見返してしまう...という、稀有なMVとなっています。

具体的には、いくつかの取り組みが奏功しています。
映像効果(色やフラッシュ等)による印象付けは確実ですが、MV全体をダークな世界観で統一したい場合はマイナス効果となります。
そのため、簡単かつ確実な映像効果による方法ではなく、映像の内容で印象付けを与えるという難しいアプローチにチャレンジし、その結果、素晴らしい作品として仕上がっていることはご覧の通りです。
また、場面(シーン)の構成数も少なく、人物の顔や体のアップ、空中に浮かぶ岩石、床から生(は)える流動的な円錐形の物体、黒いバンドメンバー3名という、4つのシーンのみで構成されています。
この場面の構成数の絞り込みにより、洗練された高い品質のMVとなっていますが、このアプローチも印象付けが弱くなる要因ですので、難しいアプローチにチャレンジされていることが分かります。
更には、それぞれのシーンが意味不明な内容であり、この表現方法の場合、得てしてチープになりがちなところ、うまくダークな世界観の醸成につながるような深みのあるイメージを視聴者に与えている点も驚きです。
つまり、このMVは「狙ってチャレンジして制作され、その結果、素晴らしいMVとして仕上がった」という賞賛すべき作品なのです。

そして、なんといっても被り物MVとしての要素も持っているところが、このMVがお気に入りとなっている大きな要因です。
その前に『被り物MVってなんだんだ?』ということですが、もしよろしければ以前の被り物MVの特集2つをサッとご覧ください。
第一弾:ロイシンマーフィーの被り物MVも一見の価値アリだ
第二弾:アニャテイラージョイの被り物MVは感涙モノの大発見だ!

「被り物MV」といっても、この「Hvítir Sandar」のMVでは、頭部に装着する装具、つまり「ヘッドギア(Headgear)」ではなく、頭部から体全体をまるでベールを纏っているかのように黒い液状の物体で覆われています。
実際は皇女イルーラン的な被り物MVではないのですが、バンドメンバー3名の頭部を黒いベールのような液状の物体で覆われている様(さま)は、被り物MVといっても過言ではないと判断し、ここに紹介させていただく次第です。(チョット無理矢理ではありますが...)

バンドメンバー3名が黒いベールのような液状の物体を纏(まと)うシーンは6ヵ所ありますが、順に解説していきましょう。
1ヶ所目は、冒頭から36秒のところで1名の顔の部分だけがチラッと登場しますが、本当にチラ見せ程度となります。
2ヵ所目は、1分05秒から1分19秒まで、こんどは3名揃って横から回り込むように登場し、しっかりとその異様な映像を認識させてくれます。
3ヵ所目は、2分22秒に若干下からの正面アップのカットで登場し、2分32秒までの約10秒間、ゆっくり横に移動しながらほぼ同じアングルの映像が続くため、じっくりと観察できます。
ここで、粒子が混ざっているかのように見える液状の物体が彼女たちの体表を流れるように移動していることが分かるのですが、この黒い液状の物体が何を意味しているのか、私(視聴者)の頭の中での考察が始まります。
そして、4カ所目、次のカットがまた素晴らしいのです。
前方斜め上からのアングルのままゆっくりと回り込んで表示されるのですが、最初は先頭の女性にあたっていたフォーカスが徐々にうしろのふたりに移り、最後は先頭の女性はぼやけてうしろのふたりがくっきりと表示され、そのあいだにも彼女たちの体表には黒い粒子と液体が混ざり合ったような物体が流れているという、もうこれだけでゾクゾクします。
これらが、3分02秒から3分07秒という短い時間の中で繰り広げられる情景を目の当たりにして、完全にこのMVの虜になってしまっています。
5ヵ所目は、3分43秒から3分52秒までですが、途中でカットが切り替わり、前半は水平のアングルで3名を捉え、後半は下からのアングルで1名のアップにより液体の流動をしっかりと認識させるという手の込みようです。
ちなみに、合計6ヵ所のアングルや構図はすべて違っており、これだけでも意図して練りこまれて制作されていることが分かります。
そして最後の6ヵ所目、これが最高なのです!
4分04秒にソフトフォーカスで彼女たち3名が並んで登場しますが、登場時は静止しており、1秒経つか経たないかの一瞬ののち頭が動き出します。
その直後、彼女たちがうつむいており、ゆっくり顔を上げようとしていることが認識できるのですが、顔を上げる動作と並行して彼女たちにピントが合っていき、ピントが完全に合った瞬間に彼女たちの頭から顔そして体へと黒い液状の物体が流れ落ちる(というよりも、蠢きながら体表を伝わって下に移動するという表現が適切でしょう)様子がくっきりと見て取れるのです。
そして、はっきりと認識できた瞬間、4分15秒にこの場面が終わります。
この「はっきりと認識できた瞬間に終わる」というのがイイのです!

この解説をご覧いただいたうえで、ぜひとも再度MVをご覧ください。
制作陣のこだわり抜いた取り組みに感動するはずです。

しかし、これだけ素晴らしいMVなのですが、1点だけ残念な点があります。
それはエンディングです。
上に書いた最後の6ヵ所目のバンドメンバー3名が揃って登場するシーンを最後にMVが終わっていたほうが、明らかに良かったと思うのです。
なぜなら、主役はあくまでバンドメンバーの彼女たちですので、最後にそれを印象付けするのがMVとしてのあるべき形かなと。
空中に浮かぶ岩でエンディングを迎えるとなると、MVではなく映像作品として存在する動画とも捉えられます。
まあ、この点を加味しても、このMVが素晴らしいことには変わりなく、制作陣への賞賛の気持ちは揺るぎません。

気が付いたらメチャクチャ話が長くなりましたが、最後に1点だけ記したいことがあります。
このMVを観て、視覚的には関連がないものの、なぜか関連があると思えるモノあがあるのです。

それは、上で解説した3ヵ所目が終わる2分32秒からの場面です。
黒い流体のベールを纏った彼女たちから場面が切り替わり、映し出されるのは今まで一部がアップで表示されていた黒いどろどろとした円錐形のようなオブジェとも思(おぼ)しき物体の全景となります。
表面の凹凸(おうとつ)が生き物のように動き変化しながら蠢(うごめ)くこの物体は、様々な思念の集合体であり、かつ決してプラスの思考ではないものであると想像させられます。

この物体を見て、あるマンガを思い出されるのです。
それは、永井豪さんの名作マンガ「デビルマン」ですが、そのデビルマンに出てきた「ジンメン」というデーモンです。

多分中学生の頃だったのでしょうか、それとも小学校高学年の頃だったのでしょうか、既に連載が終わりコミックスで出版されていたデビルマンに出会い、色々な意味で衝撃を受けたのですが、その中のひとつが「ジンメン」が出てきた話です。
ジンメンが人間を喰らうと、その人間の顔がジンメンの甲羅に浮かび上がり、死んでいるのですが意識だけはジンメンの甲羅の中に閉じ込められるという究極の罰ゲームのようなお話です。
結局デビルマンがジンメンの甲羅をはがして殺すのですが、それと同時に甲羅に閉じ込められていた死者の意識も消える(2回目かつ本当の死ですね)というディープなお話です。
そして、このジンメンの甲羅と、このMVの表面の凹凸(おうとつ)が生き物のように動き変化しながら蠢(うごめ)くこの物体とが、見た目も組成も全く違うのですが、なぜか私の中では関連付けられるのです。
もしかしたら、MVの中のこの物体が、何かの思念(ヒトなのかヒト以外のなにかかは分かりませんが)の集合体であり、その思念が叫びもがく様子がこの物体が蠢く様のように思え、それがジンメンの甲羅に閉じ込められた死者の思念と関連付けられているのかもしれないと思っています。

このMVを観るたびに、
空中に浮かぶ岩石は何なのか
その岩石に吸着する光の粒子のようなモノは何なのか
そして光の粒子のようなモノは、なぜ岩石に吸着されるのか
もしかしたら、この光の粒子と蠢く黒い物体には関連があるのだろうか
楽曲のタイトルから考えると、光の粒子ではなく砂粒なのだろうか
また登場する人物は誰で、なぜ血を流しているのか
その血と岩石や蠢く物体との関連は何なのか
そして、彼女たち3人との関連は...
何度このMVを見返しながら考えても答えは出ませんが、考えさせるためにこのMVが存在しているようにも思えてくる今日この頃なのです。

さて、今回のキャイラン・ミクラのダークなオススメMVはいかがでしたでしょうか。
なかなか類を見ない3ピースバンドでありMVですので、ぜひ1度は体験されることをお勧めします。

なお、本当は「キャイラン・ミクラ特集」としてあと2つMVを紹介する予定だったのですが、1つ目のMVでの語りがあまりに長くなってしまったので、今回はオススメMV1つだけの紹介とさせていただきます。
もちろん、キャイラン・ミクラの他のMVにもダークなオススメMVがありますので、あらためて特集を組ませていただきます。

ではまた次回に。

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