ジャスティスとケミカルにロイクソップ。チョット変わった人体組成MVの三本立て(オススメMV #154)
こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の154回目です。(連載のマガジンはこちら)
今回は、人体組成MVと銘打って、その名の通り人体内部の構造、骨格や内臓などを表現しているチョット変わったMVの特集をおおくりします。
こんなヘンテコなMVをリリースするのは、やはり尖ったアーティストで、もちろん私のお気に入りのアーティストとなります。
では、まず最初の人体組成MVはコチラ。
ジャスティスの「One Night/All Night (Starring Tame Impala)」です。
ナマナマしくてちょっと気持ち悪い映像ですが、最後にはオチもついていて、見終わったときには「さすがジャスティス!」と思わせてくれる人体組成MVです。
ジャスティス(Justice)は、フランスのエレクトロのデュオで、実は前回もジャスティスのMVを紹介しており、2回連続の紹介となります。
本連載の2回目にも登場しており、その2回目で紹介したMVは殿堂入り確実の超絶オススメMVですのでぜひご覧いただきたく、第2回と前回のリンクを貼っておきます。(第2回は特にオススメです!)
※超絶オススメの第2回⇒「スゴイ!歴史に残る傑作MV」
※こちらもオススメの前回⇒「ジャパニメーションMV」
さて、この「One Night/All Night」は、今年4月にリリースされた最新の4thアルバム「Hyperdrama」に収録されている楽曲で、同年1月にリードシングルとして先行リリースされています。
MVも同じタイミングの今年1月に公開されたのですが、前作の3rdアルバムから8年ぶりのアルバムのリードシングルのMVが、このキモイというかグロイというか、決して爽やかではない映像のMVというのが、ジャスティスの特異性を象徴しています。
というのも、MusicVideo は PromotionVideo(プロモーション・ビデオ)という側面も持っており、視聴者にプラスのイメージを与えることで楽曲の売上向上を促す役割もあるのですが、このMVは明らかに多くの一般の方をターゲットにはしておらず、ジャスティスを知っていてジャスティスのことが好きなユーザーにのみメッセージを伝えていると思われます。
この媚びない姿勢がジャスティスの好感が持てるところでもあります。
しかし、それにせよこのMVの映像が気持ち悪く、最初に観たときは『なんでこんなキモチ悪い映像のMVにしたんだ...』と愕然としましたが、MVの最後のほうで『なるほど、そういうことか!』とジャスティスに1本取られた感じがして、うれしくなったことを覚えています。
ここからMVのネタバレになってしまうので、未見の方はぜひ一度、上のMVをご覧になってから以下をお読みください。
オープニングから心臓と思われる臓器のアップで始まり、往年の映画「ミクロの決死圏」(イイ邦題ですよね!)のように血管の中を進み、心臓に一度入って出たところで、今度は神経に沿って進むのですが、続いて骨格が表現されたと思ったら、それらの人体の内部構造が半透明の板のようなもので囲われていることが分かり、視線がその外にでたところで『大きな十字架の内部が人体の構造になっていたんだ!』と分かり、『ジャスティスに1本取られた!』となるのです。
この十字架(Cross)はジャスティスのトレードマークであり、いわばアーティスト自身の内部をさらけ出すというメッセージにもなっていると思われます。
しかし、この「One Night/All Night」のMVでは、残念な点もあります。
それは、映像と楽曲のバランスが若干悪く、楽曲に比べて映像が強いように思わる点です。
明度も彩度も落とし印象付けを弱くした映像ではあるものの、生々(なまなま)しい人体の内部構造を表現しているため、映像による最終的な印象付けとしては強くなってしまっています。
決して楽曲のクオリティが低いワケではなく、楽曲のみで聴くと『ジャスティスっぽくていい音だ!』と思うのですが、MVを視聴する中では楽曲の印象が弱くなり、MVというより映像作品に近い趣(おもむき)があります。
何度もMVを視聴すると映像のインパクトに慣れてくるため、徐々に楽曲に意識が向きMVとして視聴できるようになるのですが、そのためには連続して3回、別々のタイミングであれば5回ぐらいは視聴し、映像に慣れる必要があるように思います。
制作側もこの結果は分かったうえで敢えて制作されていると思いますので、その点でも尖ったアーティストおよび制作陣と言えるでしょう。
と、若干気になる点はあるものの、久しぶりの(8年ぶり!)ジャスティスの新曲&新MVですし、何よりファンにとっては感涙モノの最後のオチがあるため、結局何回も観てしまっているという状況です。
続いては2つ目の人体組成MVです。
こちらも私の大好きなアーティスト、ロイクソップの作品。
「The Next Day ft. Jamie Irrepressible (Mind Against Remix)」です。
アーティスティックな人体組成MVですね。
本物っぽさはなく、Visualiserと言ってもいいほど淡々と映像が変化し、それにより楽曲も程よく前に出てきているため、不思議とバランスが取れたMVとして仕上がっています。
ロイクソップ(Röyksopp)は、1998年に結成された北欧ノルウェーのエレクトロデュオで、私のお気に入りのアーティストの筆頭です。
振り返って数えてみると、なんと今まで7回も連載に登場しているので、それだけ思い入れがあり、かつ優れた(というか、私好みの)MVをリリースしているアーティストと言えます。
せっかくですので、絞りに絞ったオススメの回を3つ紹介させていただくので、ぜひご覧ください。
※一番お気に入りのMVはコチラ⇒「現実と紙一重の向こう側」
※騙されたと思ってみてほしい!⇒「超絶ヘンテコでMVでもない」
※最近ハマっているMVはコチラ⇒「サイケデリックMVのお祭りだ!」
では、この「The Next Day」は、2022年リリースの8thアルバム「Profound Mysteries III」に収録されている楽曲で、MVは翌年2023年に公開されていますが、YouTubeでは40万回程度しか視聴されてないという、チョット寂しいMVとなっています。(ちなみに、上のジャスティスのMVは、今年1月に公開されていながら、既に200万回を超えています)
ロイクソップは、MVよりもVisualiserのリリースが多く、この「The Next Day」もMVというよりVisualiserに近い動画となっています。
少し解説すると、Visualiser(ビジュアライザー)とは、楽曲に合わせて変化する意味のない映像による動画のことですが、最近はMVに近いような凝った映像のVisualiserも出てきており、MVとVisualiserの境界線があいまいになってきているのが実状です。
そして、この「The Next Day」のMVについては、MVというよりもVisualiserに近い映像となっており、人体組成の動画ではあるものの、人体組成をそのまま表現しておらず、人体組成を題材にしたカラフルなアート作品とでも呼べる内容になっています。
MVとしてみると、カラフルで印象付けが強いように思いますが、逆に人体組成っぽさがなく、かつ動きも緩慢(かんまん)であり、映像の印象付けが思った以上に強くないため、楽曲とのバランスが良くなっているという奇跡のようなMVとなっています。
また、ロイクソップのMVの「オチがない」という特徴を、この「The Next Day」のMVでも踏襲(とうしゅう)しており、『あれっ、ここで終わるんだ...』とあっけない終焉を迎えます。
この「オチがない」という点については、(上でも紹介しましたが)過去の回で詳しく解説していますので、ご興味ある方はご覧ください。(「オチがない」を説明した過去回はコチラ⇒「ロイクソップの最新作は、超絶ヘンテコでMVでもないが、とにかくイイので観てほしい!」)
ここで2つのMVを比較してみましょう。
■ジャスティスの「One Night/All Night」
明度と彩度を落とした映像だが、生々しい人体組成の映像で、かつ動きが早く、映像の印象付けが強い。
そのため、楽曲とのバランスが若干悪くなっている。
しかし、最後のオチが最高で、最終的には(ファンには)満足度の高いMVとして仕上がっている。
■ロイクソップの「The Next Day」
カラフルな映像だが、人体組成をデフォルメしたアーティスティックな映像で、かつ緩やかな速度の映像であり、映像の印象付けがそれほど強くない。
そのため、楽曲とのバランスが良い。
しかし、ロイクソップのMVの特徴であるオチがないため、最後はあっけなく終わる。
どちらのMVが良い/悪いというのではなく、アプローチが全く違うため、その違いを把握して観ていただければ、更に楽しさも増すのではないかと思っています。
では、最後の人体組成MVとなります。
ケミカル・ブラザーズの「Wide Open ft. Beck」です。
人体組成というよりも、人体スケルトンというかアミアミというか、ヘンテコな人体組成MVとなっています。
爽やかな楽曲とミスマッチなようですが、不思議と違和感なく視聴できているのが謎なMVですね。
しかし、サムネイルにもある出演女性の眼力(めぢから)がスゴイ!
ケミカル・ブラザーズ(The Chemical Brothers)は、イギリスのエレクトロデュオで、ロイクソップの7回には及びませんが、この連載に4回も登場としている私のお気に入りのアーティストとなります。
直近では、諸星大二郎さんやラヴクラフトという私のお気に入りの漫画家や作家とコラボした回で登場していますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。(直近のオススメ回はコチラ⇒「ラヴクラフト&モンキーマジック、諸星大二郎&ケミカルブラザーズ、不気味なMVの特集だ!」)
さて、この「Wide Open」は、2015年リリースの8thアルバム「Born in the Echoes」に収録されている楽曲で、MVは翌年2016年に公開されています。
上のロイクソップのところでYouTubeの視聴回数の話が出ましたが、この「Wide Open」は、なんと4,400回を超えており、8年間前の公開という期間を考えてもスゴイ数字ですね。
つまり、メジャー度合いが一番高いのがケミカルブラザーズで、次がジャスティス、一番低いのがロイクソップということかもしれません。
ちなみに、私のお気に入りの順番はその逆で、ロイクソップが一番で、二番がジャスティス、最後がケミカル・ブラザーズとなっています。(もちろん、3組ともお気に入りであることには変わりありません!)
MVに話を移すと、この「Wide Open」のMVは、見ての通りダンサーの体がアミアミになって透けてくる...というシンプルな内容ですが、なぜか飽きることなく最後まで観ることができます。
もちろん楽曲自体の良さもあり、体か透ける(アミアミになる)という映像効果によるところも大きいのですが、加えて大きな要素となっているのがダンサーの演技にあると思われます。
顔のアップの時のすざまじい眼力(めぢから)を含めた顔の表情はもちろん、体の使い方や筋肉の動きまでもが駆使され、視聴者に何かを訴えかけているように思えるのです。
その証拠に、最後のほうで顔を含めた全身がスケスケ(アミアミ)になると、途端に映像から伝わる印象が無くなり、味気ないMVと化してしまっています。
『このダンサー、誰なんだ?』と思ったところ、ちゃんとMVの最後にクレジットされていました。
ソノヤ・ミズノ(Sonoya Mizuno)という日系のイギリス人で、ダンサーでもありつつ、なんと映画「エクス・マキナ」にも出演していた俳優でした。
そう思って以前観た「エクス・マキナ」を思い出すと、確かに主演女優より目立っていた日本人メイドがおり、それがソノヤ・ミズノだったのです。
主に体で表現するダンサーと、主に表情で表現する俳優の、両方を併せ持った稀有な方だからこそ、成しえたMVとも言えるでしょう。
しかし、「人体組成MV」と銘打つには、心臓ぐらいしか出ていなかったので、上の2つのMVに比べるとチョット無理矢理な感じもしますが、大目に見ていただければありがたいです。(なんとか、この「Wide Open」を皆さんに紹介したくて...)
さて、今回の「人体組成MV」の特集はいかがでしたでしょうか。
なかなか無いマニアックなMVですが、3つのMVともそれぞれ際立つ特徴がありオススメですので、ぜひぜひご覧いただければ幸いです。
ではまた次回に。