2つのトイソルジャー、名前に反して両方とも重いテーマを抱えた名作だ(オススメMV #62)
こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の62回目です。(連載のマガジンはこちら)
今回は「トイ・ソルジャー」という楽曲のMVを2つ紹介します。
皆さんは「トイ・ソルジャー」というタイトルから何を想像されますか?
直訳すると「おもちゃの兵隊」なので、楽しい楽曲や子供向けの楽曲かと思う方が多いでしょうが、今回紹介する2つの「トイ・ソルジャー」は、重いテーマの楽曲となります。
両方とも楽曲もMVも素晴らしい名作ですので、ご期待ください。
では、まず最初の「トイ・ソルジャー」はこちら。
マルティカの「Toy Soldiers」です。どうぞ!
この楽曲は素晴らしい!
そして、シンプルに楽曲の世界観を表現し、かつ楽曲を前面に押し出している映像が特徴のMVです。
マルティカ(Martika)は1988年にデビューした米国のシンガーソングライターで、デビューと同時に1stアルバム「Martika」をリリースし、翌1989年にセカンドシングルカットされたのがこの「Toy Soldiers」です。
「Toy Soldiers」はなんと2週連続で全米1位となり、この楽曲でマルティカは一躍スターダムに上ることになります。
最初にこの楽曲を聴いたときは、楽曲のすばらしさに心打たれましたが、続いて「トイ・ソルジャー(おもちゃの兵隊)」というタイトルに反して重みのある楽曲に違和感を覚えました。
そして、その理由を何かのメディアで知ったときに「なるほどな...」と思ったのです。
この「Toy Soldiers」は、麻薬中毒になったマルティカ自身の友人のことをうたっており、麻薬の売人になって強がっているが、結局組織に使われボロボロになっていく様をおもちゃの兵隊に例えているいるようです。
それを知ったあとで楽曲を聴きMVを見ると、より楽曲もMVも味わいが生まれ、引き込まれてしまいます。
少しだけMVの解説をすると、かわいい風貌のマルティカですが、力強く重みのある歌声で悲しみや憤りを熱唱し、その背景ではモノクロ映像で友人との思い出や友人が踊らされているイメージが子供の踊りを模して表現されています。
全体的に印象付けが弱い映像となっていますが、逆にそれが素晴らしい楽曲を前面に押し出していて、楽曲と映像のバランスとしては悪いものの結果的に良質のMVとして仕上がっています。
マルティカだけはカラー映像でかつアップ表現がメインとなっていることも、良い印象付けにつながっています。
マルティカの「Toy Soldiers」はまごうことなき名作ですが、もうひとつ「トイ・ソルジャー」を名乗る名作があります。
それが、エミネムの「Like Toy Soldiers」です。
エミネムのラップにもMVの映像にも圧倒されてしまいます。
歌詞も映像も初見では意味が分からないものの、「すごみ」が伝わってくる名作であり傑作です。
エミネム(Eminem)は1999年にメジャーデビューした米国のラッパーで、ひと言で説明するのは難しいのですがとにかく凄いラッパーです。
グラミー賞を15回も受賞したという業績的な側面や、黒人文化のひとつとしてとらえられていたHIPHOPの概念を打ち壊したという評価的な面もスゴイのですが、それよりもエミネム独自の世界観やエミネムでしか表現できないラップがあり、いわば唯一無二の存在です。
そのエミネムが2004年にリリースした5thアルバム「Encore(アンコール)」に収録されている楽曲が、この「Like Toy Soldiers」です。
まず楽曲としての「Like Toy Soldiers」は、なによりマルティカの「Toy Soldiers」をサンプリングするセンスの良さが光り、それに加えてエミネムのお家芸である素晴らしいラップが重なり、ラップの歌詞の意味が分からなくても圧倒される素晴らしさがあります。
そして、MVのほうも、最初は絵本を見る2人の子供から始まり、その絵本を介して病院で血の付いた服を着たエミネムが黒人男性が心臓マッサージを受けている場面に切り替わる...という急展開で、エミネムの世界に引き込まれてしまいます。
英語が苦手な私はラップを音として捉えて楽しんでいるのですが、この「Like Toy Soldiers」ではMVの映像のインパクトが強く、その意味が知りたくなりラップの歌詞を検索して調べてみました。
すると、あまりに生々しい内容が語られていたため、この「Like Toy Soldiers」が生まれた背景を調べてみると更に驚愕したのです。
1990年代、米国のHIPHOP業界は東海岸と西海岸が対立していて、その結果、何名ものラッパーが殺害されたのです。
当時のHIPHOP業界は、ギャングスタという暴力的や性的な直接的な表現をを前面に押し出したHIPHOPが台頭していたのですが、本来言葉を音楽として表現するラップが、暴力的な表現だけではなく現実的な暴力として行使することが「カッコいい」という風潮になってしまっていたようです。
そして、その中で才能がありまだ若いラッパーが命を落とし、その中の4名が「Like Toy Soldiers」の最後に描かれています。
「Like Toy Soldiers」はその4名に対する鎮魂歌であり、かつその争いを繰り返さないためのいわば反戦歌でもあるのではないかと考えています。
その後、東西での対立は徐々になくなり、東海岸のラッパーを西海岸のアーティストがプロデュースしたりその逆もあったりで、「いいものはイイ!」という原理原則がHIPHOP業界でも一般化していくことになります。
なお、MVで凶弾に倒れるラッパーを演じているエミネムの親友でもあるプルーフ(Proof)は、のちに銃弾を受けて亡くなったというのは、皮肉でもあり、かつ悲しい現実でもあります。
本当はエミネムのことをもっと語り、MVも紹介したいところですが、相当ボリュームが多くなりそうなので別の回に特集を組ませてもらうこととし、今回はマルティカのMVをおまけで1つ紹介して終わりとしましょう。
最後のMVは、マルティカの「I Feel The Earth Move」です。
ノリノリの楽曲にマルティカの歌声がマッチしています。
MVとしての出来はそこそこなのですが、楽曲のすばらしさが際立ちます。
「I Feel The Earth Move」は、「Toy Soldiers」と同じ1stアルバム「Martika」に収録されているのですが、キャロル・キングのカバー曲です。
原曲もいいのですが、このマルティカバージョンも素晴らしく、私的にはオリジナルよりも気に入っているほどです。(ぜひキャロル・キングのオリジナルも聴いてみてください!)
マルティカは、大ヒットした1stアルバムをリリースした3年後の1991年に2ndアルバム「Martika's Kitchen」をリリースします。
このアルバムは、なんとプリンスとの共作なのですが、収録された楽曲もマルティカらしさがあまり見えず、実際にヒットもせずに、そのままマルティカは表舞台から遠ざかっていくことになります。
しかしそんな中、2004年にエミネムの「Like Toy Soldiers」にマルティカの「Toy Soldiers」がサンプリングされ、再度脚光を浴びることになります。
イイものは時代を超えても生き続ける証拠ですね。
今回は重いテーマを持った「おもちゃの兵隊」の2つのMVをお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。
楽曲やMVの持つ意味を知ったうえで再度MVを見ていただければ、また違った景色が映像の向こうに見えてくるので、ぜひ2度見していただければ幸いです。
ではまた次回に。